3月が近づくと、全国各地の新車ディーラーでは決算セールが活発になる(編集部撮影)

この時期になると街の新車ディーラーに「決算セール」や「期末大商談祭」といった類いののぼり旗が並んでいる姿を目にすることがあるだろう。もちろん、決算期にセールをするのは新車ディーラーに限ったことではないが、新車に関しては決算期に購入するのが買い得であるということは多くのユーザーの知るところとなっている。それでは、なぜ新車ディーラーは決算期になると大幅値引きをしてでも販売台数を稼ごうとするのだろうか。

そもそも新車ディーラーは、トヨタや日産といった自動車メーカーの看板を背負って営業をしているものの、自動車メーカー本体とは別の組織となっている。自動車メーカー直営の新車ディーラーも存在しているが、多くのディーラーが自動車メーカー(または、その販売子会社など)と特約店契約を結んでそのブランドの車両を販売している形となっている。

つまり、新車をユーザーに販売する際は、メーカーからその車両を仕入れて顧客に販売するシステムというわけだ。

そのため、新車にも「仕入れ価格=原価」があり、常識的に考えて原価を下回るほどの値引きが出ることはない。フルモデルチェンジ後も在庫してしまった車両や、何らかの理由で注文後にキャンセルとなってしまった車両などは格安で販売されることもあるが、それはレアケースだろう。

「販売報奨金」の存在

それでは、なぜ決算期には時には原価を割り込むほどの大幅な値引きができるのかというと、それはメーカーから支給される「販売報奨金」が絡んでいる。現代風に言えば「インセンティブ」とも呼ばれる販売報奨金は、ディーラーが既定の販売台数をクリアすることで支給されるものであり、当然ながらクリアしなければその額はゼロとなってしまう。


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つまり、販売報奨金がもらえるのであれば、少々原価を割るような金額で販売したとしても報奨金でその損を埋めることができるというのが、決算期に大幅な値引きが発生するカラクリというわけなのである。

当然、すでに目標の台数をクリアしている販売店であれば、そこからさらに大きく値引きをしてまで新車を売らなくてもよくなるため、購入予定者としてはあまり期末ギリギリまで契約を引き伸ばしたからといって、必ずしもよい結果を招くとは言えないのだ。

また、決算期に新車を狙ううえで注意したいのが、そのタイミングだ。3月が決算月ということは3月31日までの販売台数がカウントされるわけだが、自動車に関しては1台とカウントされるのは契約書に判を押したタイミングではなく、その車両が登録されたタイミングとなる。

普通車であれば、車庫証明書が発行されない限り登録することができないため、3月後半まで粘ってしまうと登録が間に合わなくなって値引きも渋くなる恐れがある。もちろん、現状で納期が何カ月もかかるような人気車種や特殊なメーカーオプションなどを選ぶ場合も同様だ。

この時期はディーラー側も注文が集中することを見越して、ある程度人気の車種やボディーカラー、オプションを装着した車両を先行発注し在庫していることがほとんどなので、これから狙うのであればディーラーが確保している在庫車からチョイスするのが賢い選択となるだろう。特に2019年は3月31日が日曜日となるため、実際に車両が登録できるリミットは金曜日の3月29日となり、残された時間は限りなく少ないのである。

登録済み未使用車を狙うのも手

ここまで読んでいただいたならば、決算期後に「登録済み未使用車」が中古車市場に登場する理由もお察しいただけたと思うが、決算期に目標販売台数にあと一歩という状態で取る手段が、「自社登録」である。登録されれば1台とカウントされるので、前述した見込み発注していた在庫車両をディーラー名義で登録し、なんとか目標台数を達成しようという最後の手段なのだ。

そして一度登録された車両は当然新車としては販売できないため、ディーラー系の中古車店の店頭に並ぶこととなる。1店舗で何十台も自社登録することはないにしろ、全国的にみればなかなかの台数となるため、決算期に商談が間に合わなかったユーザーはこういった登録済み未使用車を狙ってみるのも1つの手と言えるかもしれない。

車検の有効期間こそ丸々3年ではないものの、保証も継承されるし、ディーラーオプションも新車と同様に選ぶことができるので(メーカーオプションは追加できないが)、希望の仕様があればお買い得感は高いはずだ。

ということで、決算期に大幅な値引きが出ることも、決算後に登録済み未使用車が登場するのも、自動車メーカーとディーラーの都合によるものが大きいというのが偽らざる事実である。しかし、ユーザーとしては欲しいものが安く購入できるという点ではメリットしか発生しない。自動車は家に次いで高額な買い物と言われ、不動産と同じくきちんと所有権が発生する財産なだけに、よりよいタイミングで購入したいところである。