くら寿司が発売する「KURA BURGER フィッシュ」(右)と「KURA BURGER ミート」(左)。あわせて1カ月で100万食が販売目標だ(記者撮影)

回転ずしチェーン「無添くら寿司」が、またもや“意外すぎる商品”を世に出した――。

3月1日、くら寿司は回転ずし業界で初めてとなるハンバーガーを発売する。今回売り出すのは2種類のハンバーガー。「KURA BURGER フィッシュ」は国産天然魚を100%使用した魚肉の自家製パテに、テリヤキソースやマヨネーズで味付けをし、タマネギの天ぷらやサンチュをバンズでサンドした。もう1つの「KURA BURGER ミート」は独自ブレンドで仕上げたパテを使用し、シンプルなケチャップベースのソースやマヨネーズなどをバンズで挟んだ商品。価格はいずれも250円(税抜き)という設定だ。

「今回のハンバーガーは構想から5年をかけた商品。ハンバーガーは回転ずしよりも市場が大きく、チャンスがある」。くら寿司を運営するくらコーポレーションの田中信副社長はそう強調する。

ハンバーガー開発のきっかけは?

くら寿司といえば、これまで回転ずしチェーンらしからぬ商品を次々と世に出してきた。2012年のラーメンを皮切りに、酢飯とカレーを合わせた「すしやのシャリカレー」や、必須アミノ酸などが入った体に優しい「シャリコーラ」、初の洋食メニューとして「カルボナーラ スパらッティ」という商品も投入した。


2月25日に開かれた商品発表会にはお笑いコンビ・千鳥の2人も駆けつけた(記者撮影)

サイドメニューの導入当初は「あまりにも奇抜すぎる」という声が業界内から出ていたものの、今や回転ずし業界のサイドメニューは消費者の中ですっかり定着。競合他社も追随するなど、「サイドメニューといえばくら寿司」という点は自他ともに認めるところだ。

当然、くら寿司にとってはサイドメニューが業績の牽引役にもなっている。同チェーンの総売り上げに占めるサイドメニューの割合は30%と、競合の「あきんどスシロー」より10%ポイントほど高い。そんなくら寿司が今回、満を持して投入したのがハンバーガーということなのだが、なぜ数多ある商品の中から、ハンバーガーを発売するに至ったのか。

きっかけとなったのは、くら寿司が2014年から取り組む「天然魚プロジェクト」だ。同プロジェクトは魚を一船丸ごと買い付けて、産地直送の国産天然魚を店舗で提供するというもの。ただ、買い付けた魚の中には身が小さくて使えない魚などが6割出ていたという。

こうした使えない魚をすべて使おうということで、昨年からアラや骨を魚粉にして魚の餌にしたり、骨の周りの身をねり天やコロッケにして提供してきた。


くらコーポレーションの田中信副社長は「今後も積極的に商品開発を行っていく」と語った(記者撮影)

今回発売する「KURA BURGER フィッシュ」でも同様の技術を応用し、中落ちや切り落としをミンチにしてパテに成形。このフィッシュバーガー用パテのために、専用オーブンなど5000万円の機器を導入した。

商品開発部の松島由剛マネージャーは「魚肉のパテを開発するうえで苦労したのは、味を一定に保つこと」と振り返る。すしネタとしては使えない魚といっても、その種類は多岐にわたる。時期によっては白身の魚が多く捕れる場合もあれば、赤身の魚が多く捕れるケースもある。そこでブラックペッパーやガーリックなど10種類のスパイスを独自に配合し、混ぜ合わせることで味の均質化を図り、ようやく商品化にこぎ着けた。

業界トップ・スシローとの差

目下、くら寿司の業績は堅調だ。くらコーポレーションの2018年10月期決算は売上高1324億円(前期比7.9%増)、本業の儲けを示す営業利益は68億円(同8.4%増)といずれも過去最高を記録。国内の既存店売上高が前期並みを保ったほか、海外店舗が好調に推移した。


業績自体はまずまずなくら寿司だが、既存店の動向を見ると注文皿数の増加で客単価は前年超えが続く一方で、客数に限るとマイナス傾向が続く。業界首位のスシローは客数に限っても、おおむね前年同月超えを達成している(上図)。規模の面でも、スシローの国内店舗数が518店に対し、くら寿司が426店(いずれも2018年12月末時点)。年間出店数ではスシローが33店(2018年9月期)に対し、くら寿司は18店(2018年10月期)と差がついている。

ある回転ずしチェーンの幹部は「ここ数年のスシローの攻勢はものすごい。一気に差をつけられた印象だ」と吐露する。事実、スシローの3〜4年前のフェアの回数は月1.5回程度だったが、現在は月2回へと増やしたことで、客数増加の一因になっている。

2月上旬にスシローグローバルホールディングスが発表した2019年9月期第1四半期(2018年10〜12月)の営業利益は40億円(前年同期比48.8%増、国際会計基準)と、好調な滑り出しとなった。「(第1四半期は)マーケットの期待を超える数字を達成できた。外食全体の中でも既存店の伸びは非常に高い水準を維持できている」(水留浩一社長)。

くらコーポレーションの田中副社長は「回転ずし業界では店舗数や売り上げで頭打ち感は否めない」と危機感をあらわにする。サイドメニューが大きな武器となっているくら寿司だが、スシローを追いかけるうえでは、ハンバーガーのような差別化できる商品投入と同時に、来店を促す効果的な販促キャンペーンを積極化する必要があるだろう。