2019年内のMNO事業(携帯電話やスマホなどの通信網を自社で設置・運用し通信サービスを提供する事業)参入を目指している楽天。三木谷浩史社長らに直接質問をする機会を得たというケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは、その質疑応答を通じて、今まで理解しかねていた楽天の考えが徐々にわかって来たとのこと。なぜ楽天はMVNO(格安SIM)からMNO参入に切り替えたのか、なぜ今のタイミングでの参入なのか。楽天の真の狙いを、自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』にて解説しています。

楽天・三木谷社長「MVNOは奴隷」だからMNOに新規参入━━「使おうが使わなかろうが帯域にコストがかかる」のに嫌気

2月20日、楽天は、今年10月にサービスを開始する携帯電話事業におけるネットワーク試験設備をメディアに公開。さらに質疑応答の時間が設けられた。

ここ最近、楽天はMNO事業について、情報公開を積極的に行なっているが、個人的にはなかなかタイミングが合わず、直接、三木谷社長に質問できるチャンスがなかった。そんななか、今回、ようやく、三木谷さんに聞きたいことが聞けた。

まず、ひとつは「ユーザーが楽天を選ぶメリットはどこにあるのか」という点だ。新規参入の楽天としては、時流もあるので「安い料金」をアピールしてくるだろうが、一方で、NTTドコモが値下げを発表するなど、料金だけを訴求するというのも限界がある。これだけ格安スマホのほうが、月々の支払いが安くなるとわかっていても、なかなかユーザーが格安スマホに移行していない。

また、昨年、楽天がMNOに参入すると発表したころと比べて市場の環境は厳しさを増している。今後、完全分離プランが一般化されれば、料金での差別化はしづらくなる。また、端末に高額な割引を適用して、他社からユーザーを獲得するのも困難になるだろう。

「料金以外の楽天の魅力はどこになるのか」という質問に対し、三木谷社長は「料金、スピード、ポイントを含めた楽天のさまざまなサービス、エコシステムだ」と語った。

さらに「さまざまなサービスがネットワークに乗り、これらを柔軟に提供できるのがメリット。他社とは全く違うサービスと思ってもらったほうが、もしかしたらいいのかもしれない。他のMNOがさまざまな拡張をしているのは、いかに楽天のモバイルが革新的なことをやろうとしているのかの写し鏡ではないか」という。

もうひとつ、気になっていたのが「なんで、6000億円も使ってMNOに参入するのか」という点だ。全国にイチからネットワークを構築するなんてかなり無謀な挑戦だ。それならば、ネットワークはMVNOとして利用し、プロモーションや販売店などにお金を使った方がいいように思う。

「MVNOじゃダメだったんですか」と質問したところ、三木谷社長は「日本のMVNOは、フルMVNOではなく、回線のリセラーにすぎない。技術的な工夫はできないし、使おうが使わなかろうが帯域にコストがかかる。言い方は悪いが、MNOの奴隷みたいなものだ」と一刀両断。つまり、楽天はMNOの奴隷から逃げるために、MNOになるというわけだ。

徐々に楽天の考えていることがわかってきたような気がする。

楽天・タレック・アミンCTOが基地局ベンダー選定でした唯一の質問━━「インターフェイスをオープンにできないか」に対応したノキア

楽天のネットワーク試験設備は、全てが仮想化され、汎用サーバーが並ぶ様子は、既存のキャリアにはない雰囲気であった。

当日、楽天モバイルネットワークのCTOである、タレック・アミン氏に話を聞くことができた。一般に伝わりやすい話は日経電子版「モバイルの達人」に掲載済みだ。

ここではもうちょっと深い話に触れたいと思う。

楽天がネットワークベンダーを選定する際、ファーウェイやエリクソンが選ばれるかと思っていた。実際、こうした大手ベンダーが楽天に接触したという話を聞いたからだ。

しかし、選んだのは別の会社だった。

そのベンダー選定について、タレック・アミン氏は「2018年6月にベンダーを選ぶ際、各社に一つだけ質問をした。『インターフェイスをオープンにできないか』この問いかけに対して、議論に応じてくれたのがノキアだけだった」という。

実際、楽天の仮想化環境では、ブラウザ上でダッシュボードをいじると、ソフトウェアをサーバーにインストールでき、自動にテストが行える仕組みとなっている。このダッシュボードからノキアやシスコなど、参画するパートナーの機器やソフトウェアをチェックできるようになっている。

「我々はOEMにハードウェアを解放してもらう動きをした。ハードとソフトの分離はすべてのオペレーターにとっての夢だった。これを我々は実現した」(タレック・アミン氏)。

世界で初めて、仮想化技術によって、すべてのネットワークを構築するという楽天。しかし、総務省から割り当てられた周波数帯は1.7GHzしかない。他社は複数の周波数帯を組み合わせ、キャリアアグリゲーションで高速化を実現している。果たして、勝ち目はあるのだろうか。

タレック・アミン氏は「1.7GHzのシングルバンドということで、シンプルにネットワークを構築できるのが強みとなる。マルチバンドの制御で苦労しなくていい。簡素化が大事であり、シンプルであることが優位性になるだろう。通信速度に関しては、5Gの周波数割り当てに期待している。我々はサービスを始める当初から、ネットワーク自体は5Gのアーキテクチャになっている。5Gの割り当てがされれば、大半の基地局が5Gでカバーできるため、5Gにオフロードすることになるだろう」という。

楽天にとってみれば、5Gの割り当てが始まる、このタイミングがまさにベストだったということのようだ。

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