ホンダはSUV「ヴェゼル」に、1.5リッターターボエンジンを搭載した新タイプ「TOURING・Honda SENSING(ツーリング・ホンダ センシング)」を設定し、1月末から販売を開始した(写真:Honda Media Website)

日本国内でも人気が高いクロスオーバーSUV。そのジャンルにホンダが今年1月、新たなグレードを追加した。「ヴェゼル」に新設定された1.5リッターターボエンジン搭載グレードである「TOURING・Honda SENSING(ツーリング・ホンダ センシング)」だ。

2018年はC-HRに肉薄

ヴェゼルは、2013年12月に発売された。わずか5年前ではあるが、当時はまだクロスオーバーという言い方が広まっておらず、当時のヴェゼル紹介文には「SUVの力強さ、クーペのあでやかさ、ミニバンの使いやすさ、さらには燃費性能まで、ジャンルの枠を超えた多面的な価値を高次元で融合させた全く新しいクルマ」と解説されている。

車名のヴェゼルは、カットした宝石の小さな面という英語のBezelと、クルマのVehicleを組み合わせた造語であり、角度によって表情を変える宝石のように、多面的な魅力と価値を持つクルマとの思いが込められている。それはまさに、今日のクロスオーバー車だ。

翌2014年の販売台数は、日本自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位によると年間9万6029台で7位。月平均で8000台を売るペースで人気を博した。その勢いは2015年も続き、9位にランクイン(販売台数は7万1021台)。2016年は順位を8位(同7万3889台)に上げ、好調を維持してきた


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そんな中、2017年に入り状況が変わり始める。トヨタ自動車が前年末に「C-HR」を発売したのだ。C-HRは2017年に11万7229台を販売し、4位に入った。対するヴェゼルは強力なライバルの登場で、6万4332台の販売で15位まで順位を落とした。だが、2018年は、CH-Rの販売も落ち着き、7万6756台で12位。ヴェゼルは5万9629台の14位で、ほぼ並走状態になった。2013年12月〜2018年12月までのヴェゼルの累計販売台数は36.7万台に及ぶ。

C-HRという強力な競合を得ながら、販売台数に大きな崩れを見せないヴェゼルの底堅い商品力を改めて実感する販売動向といえる。そして年が明けた2019年1月、それまでの1.5リッターガソリンエンジンと、1.5リッターガソリンエンジンを使うハイブリッドに加え、1.5リッターガソリンターボエンジン車をヴェゼルは追加し、商品力強化を行った。

開発責任者は、「アンケートの結果、クルマの上質さについてはこれまでも上級車種と同等との評価をいただいてきましたが、走りについては上のクラスに比べ物足りないとの声に応えるものです」と、ターボ車追加の狙いを語る。

C-HRがドイツのニュルブルクリンクでの試験走行や、欧州各地の公道での走り込みを経て、走行性能の高さを訴えかけ、外観の特徴的な造形とともに走りが消費者の購入動機につながっている様子を目の当たりにしたうえでの発言とも受け取れる。実際、「2015年と2018年の調査結果を比べると、走りを重視するお客様が増えている」(同)とのことである。

1.5リッターガソリンターボエンジン車は、「ヴェゼル・ツーリング」と名付けられ、「ほかと違う上質なスポーツモデルの意味を込めました」と、開発責任者は説明する。技術面では、4輪のブレーキ制御を用い、アンダーステアを抑えるアジャイルハンドリングアシスト機能をヴェゼルとしては初めてツーリングに採用している。また、外観にツーリング専用の加飾や外装色、内装では専用のブラウンインテリアが与えられた。

視認性を重視した作り

ヴェゼル・ツーリングに試乗した。内外装全般の造形は、5年を経ているにもかかわらずまだ古さを覚えさせない魅力をたたえている。C-HRのような特異さがない分、誰にも親しまれる姿だろう。室内は、乗用車的で親しみやすく、また落ち着きがある。運転席から後ろを振り返ってみると、外観はクーペのような絞り込まれた造形であるにもかかわらず、斜め後方の視界が確保されており、後退する際にも安心感がある。斜め左後方がほとんど死角となるC-HRに比べ、運転者に寄り添った視認性重視の心遣いを感じる。

人は、直接それを見ていなくても、視界が確保されていることを認識し、安心を覚える。例えばアルミパネルトラックのように、後ろがまったく見えない運転席は、前を見て運転しているときも視野がふさがれたようで恐怖を伴う。後退する際、後ろの様子を映像で見せたり、あたかも真上からクルマの周囲を見せたりするような画像が提供されても、自分の目で見えるかどうかは人の心理に重要な影響を及ぼすのである。人間中心という、ホンダのクルマづくりの根幹を改めて実感した。

さて、肝心の1.5リッターガソリンターボエンジン投入の成果である。アクセルペダルを軽く踏み込んだ状態では、やはり排気量が1.5リッター並みの加速といえるだろう。ただ、そこから速度を上げていく際にターボチャージャーの威力を実感させる。とはいっても、突然急加速するわけではなく、より排気量の大きいエンジンのような力強さを自然に漲(みなぎ)らせる速度の上げ方である。

したがって、市街地から高速道路まで、アクセル操作に対する違和感はない。ただ、全力加速をさせた際には、試乗車が前輪駆動(FF)であるためか、ハンドルの手ごたえがやや薄くなった。

今回は、同時にハイブリッド車のRS(ロード・セーリング)にも比較試乗する機会を得た。こちらは、7速自動変速機とモーターを併せ持ち、1.5リッターガソリンエンジンを7速自動変速機で加減速させながら、モーターで補助する仕組みだ。発進の際、モーターの補助が働くはずだが、ハイブリッドはやや動き出しの加速が弱い。そこが、ホンダが調査した際の顧客の走りへの不満点でもあったのだろう。運転感覚としては1.5リッターガソリンターボエンジンのほうが、あらゆる走行状況で加速を満足させる力を発揮していた。

ツーリングでガソリンターボエンジンを採用したことにより、狙い通り商品性の向上がなされていると確認できた。

乗り心地は「改善の余地がある」

一方、乗り心地については、路面の影響を受けた細かい振動の収まりがよくなく、体への負担が大きい。ことに後席の座り心地が不十分で、長距離移動には厳しい。そこが、最新のヴェゼル・ツーリングでも改善は見られなかった。ハイブリッドのRSも同様である。そうした粗さといった走行感覚に、誕生から5年を経た古さを覚えた。

やや古さを覚えさせたヴェゼルの乗り心地について、開発責任者は、「まだ改善の余地はあると思う」と答え、乗り心地への課題は認識していると語った。

ここにきて、海外からも競合車種が加わった。昨年、ボルボXC40とBMW・X2が相次いで市場導入されたのである。価格帯は、XC40が389万円〜、X2が436万円〜と、ヴェゼルの207.5万円から(ツーリングは約290.3万円)に比べ2倍近いとはいえ、XC40の人気はウナギ上りの状況だ。今日なお、注文から納車まで9カ月待ちだという。ちなみに、C-HRの価格は229万円〜となる。

日本の道路事情からすると、コンパクトSUVといわれるこの車格への注目度はかなり高い状況が続きそうだ。そして競争はより激しさを増すだろう。

ツーリングが加わる前の販売比率は、ハイブリッドが7割でガソリンエンジンが3割であったという。ここにガソリンターボエンジンが追加となったことで、その比率がどこまで変化していくのか。堅調な既存の販売台数に、ガソリンターボエンジン車が上積みされることへの期待は高い。内外装の質の高さは5年を経た今日も見劣りしない。そこに、乗り心地の改善が加われば、いっそう強固な支持を消費者から得られるのではないか。