深川麻衣さん(Getty Images)

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 アイドルグループ・乃木坂46卒業メンバーの“女優”としての活躍が目立っています。深川麻衣さんは、2018年度下期のNHK連続テレビ小説「まんぷく」(月〜土 前8:00)に出演するほか、2019年1月期のテレビ東京系連続ドラマ「日本ボロ宿紀行」(毎週金曜 深0:52)で連ドラ初主演を果たしています。

 西野七瀬さんは、2019年1月期のテレビ東京系連続ドラマ「よつば銀行 原島浩美がモノ申す! 〜この女に賭けろ〜」(毎週月曜 後10:00)に卒業後初の連ドラレギュラーとして出演。若月佑美さんは、2018年10月期の日本テレビ系連続ドラマ「今日から俺は!!」での好演が記憶に新しいところです。

乃木坂独自の方向性としての“演技”

 著書に「『アイドル』の読み方 混乱する『語り』を問う」(青弓社)などがあり、「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」の制作にも携わったライターの香月孝史さんは、「乃木坂46はグループ結成当初からの方針として、女優になれる人材を育てるということがありました。その施策が実った結果」と指摘します。

「AKB48の公式ライバルとして2011年に乃木坂46が結成された頃、女性アイドルの世界では、AKB48劇場に代表されるような“現場”と呼ばれるライブやイベントの場が頻繁に設けられるのが通例でした。しかし、乃木坂は常設劇場のような“現場”がなく、ライバルとして位置付けられていたAKBと同じ武器を持ってはいませんでした。そんな中、乃木坂独自に模索し、打ち出した方向性の一つが“演技への傾斜”でした」(香月さん)

 AKB48との差別化の一環として、演技ができるアイドルを育てる環境づくりがなされていたという乃木坂46。具体的には、舞台演劇と映像作品の2通りがあるといいます。

「活動初期の乃木坂46は演劇に重きを置く企画として、2012年から2014年にかけて舞台『16人のプリンシパル』を上演しています。前半の第1幕で、メンバーがオーディションを受ける様子が上演され、観客の投票を反映して後半第2幕の芝居のキャストを決める、特殊な形態のものでした。

この時点では、まだ、AKB48の“選抜総選挙”を踏襲した発想も残っていたといえます。その後、2015年の舞台『すべての犬は天国へ行く』を転機に本格的な舞台演劇を志向し始め、外部の舞台作品にも数多く出演するようになりました」

 その結果、現在では、現役メンバーの生田絵梨花さんや桜井玲香さん、3月末での卒業を発表した衛藤美彩さんらの、名門・東宝ミュージカル出演が相次いでいます。

さまざまなクリエイターとの出会い

 一方で、映像作品では、アイドルの“本業”ともいえる、楽曲を通した演技活動をしています。

「乃木坂46はシングル楽曲をリリースするたびに、ミュージックビデオとは別に、“個人PV”と呼ばれる短編映像作品を制作してきました。個人PVとは、メンバー個々人を主役にしたショートフィルム。例えば、デビューシングル『ぐるぐるカーテン』のときは、稼働メンバーが33人いたため33本の個人PVが制作され、その33本すべてを別々のクリエイターに依頼しています。

監督を務める33組の作家には、映画を数多く手がける映像監督もいれば、映像作品が本職ではないクリエイターなども選ばれ、さまざまな分野から才能が集められました。MVでもドラマ作品を多く制作しているのが乃木坂の特徴ですが、“個人PV”もまた演技の機会を用意するものでした」

 さまざまなクリエイターたちとの出会いが、乃木坂46メンバーのドラマや映画でのキャスト起用につながっているそうで、深川さんが初主演を務めた映画「パンとバスと2度目のハツコイ」(2018年2月公開)や、「愛がなんだ」(2019年4月公開)でメガホンを取る今泉力哉監督も“個人PV”に参加していた一人です。

「舞台にせよ映像にせよ、初期から今日まで演技に傾斜した活動を積み重ねてきたことで、メンバーが広く演技の仕事を得るような回路も確立されているように思います。現在、デビューから7年がたつ乃木坂46ですが、演技に重点を置く活動はグループの伝統になっていますし、グループ在籍時から女優としてのスキルを身につけられる環境は、メンバー自身の糧になっています」

 なお、乃木坂46の舞台・映像作品の活動は、同じ坂道シリーズの欅坂46の作品性にも影響を与えており、「欅坂46はデビュー当初から世間の注目を集めましたが、そのパフォーマンスは乃木坂46が模索してきた演劇性の延長線上に、洗練された表現を作りえたことで実現したものでした。乃木坂が演劇作品で開拓してきた志向性を、欅坂は楽曲パフォーマンスのレベルで群像の表現として昇華し、強いインパクトを生んでいるのです」。