若者たちの「最新」の誕生日事情とは?(写真:Mills/PIXTA)

筆者は長年若者について研究してきましたが、この数年、「若者たちの誕生日の異変」に違和感を覚えてきました。

私の学生時代を思い返してみると、同じゼミやサークルの仲良しの女子同士、いわゆる親友に近い人同士は互いの誕生日を祝ったり、互いに誕生日プレゼントを贈り合ったりしていました。

しかし、親友とは言えない関係性の女子同士はそんなことをしていなかったように記憶していますし(ゼミやサークル皆で祝うというのはあったように思いますが)、いわんや付き合っていない男女であったり、男子同士(仮に親友であっても)で誕生日をお祝いするケースはそれほど多くなかったように思います。

しかし、今の若者たちの間では、親友でなくても、男女間でも、男子同士でも、場合によっては「よっ友(互いにすれ違うときに「よっ!」と言うだけの関係性)」同士であっても、状況によっては誕生日を祝ったり、誕生日プレゼントを贈り合うのがかなり一般的になってきています。

このように若者の間で誕生日という存在が大きくなっている中、今回は現役の大学生たちが、最新の若者の誕生日の祝い方の実態をレポートしてくれています。

リムジンに乗る若者はどこへ…?

数年前、派手に友人の誕生日を祝う若者が多く見られた。ドレスを着て大人数でリムジンやロンドンバスに乗るなど、SNSでも多く見かけられた当時の誕生日会は、非日常で豪華なものが多かった。写真の派手さに対していいね!をもらえたからかもしれない。


今回リポートしてくれる大学生たち。写真左から、須田孝徳(早稲田大学商学研究科 修士1年)、佐藤美梨(慶應義塾大学2年)、千葉愛子(日本女子大学2年)

しかし昨今は、当時と傾向が変わっている。豪華というより、もっと祝われる子の「らしさ」を重視した、オリジナル感のある祝い方が主流になっているのだ。

写真をSNSに投稿する際も白黒に加工したり、枠をつけたり。こだわりやセンスに対していいね!がほしいという人が増えている。

リムジンなどに比べれば、祝い方やプレゼント自体はオーソドックスにも見えるが、よくよく見ると強いこだわりと工夫が感じられる。数年前から続く若者たちの間での“誕生日サプライズ“の新しい傾向について、いくつか事例を紹介する。

<事象1>フラワーボックス 

都内私立大学2年のIさんは、レストランのホールでアルバイトをしつつ、時間を見つけては仲のいい友達と遊びに出かけるアクティブな子だ。流行にも敏感でインスタグラムのチェックは欠かさない。そんなIさんが友達の誕生日に作ったのが、お手製のフラワーボックス。昨今、若者や女性に人気のフラワーデザイナー、ニコライ・バーグマンの「フラワーボックス」に似せて作ったものだ。


お手製のフラワーボックス(写真:筆者提供)

本家のフラワーボックスは生花で3780円〜、ブリザーブドフラワー(生花を特殊な液に沈めて水分を抜いたもの。5年ほど持つ)は9180円〜と、学生からするとかなりお高い。だが、お手製のものは100円ショップの造花と箱で作っており、制作費は2000円ほど。値段を抑えられるため、ほかのプレゼントやお祝いの食事にお金を回すことができる。

Iさんは、「仲のいい4人グループのうちの1人の誕生日を祝ったときに作ったもの。4人とも20歳の誕生日を迎える年で、ネックレスをあげることをなんとなくマストにしていた。それにプラスして何かあげるものを考えるという感じの誕生日祝いだった」と誕生日のコンセプトを語る。

さらに、「誕生日の主役の子のイメージはバラとか赤。でもそれは市販のものではなかなか再現できず、本人にハマる感じがしなかった。だったら自分で作って、本物の花にはできないような仕掛けもすることでオリジナル感を出したほうがいいなと思った」と語る。

そのフラワーボックスにはメッセージカードをしのばせて、主役にちょっとした宝探し感も演出したそうだ。一緒に祝った友達にも「ニセライ・バーグマン」などと言われ盛り上がったという。

その日の主役にも話を聞くと、「アクセサリーはもらえると思っていたけど、フラワーボックスが渡されるとは全然想像していなかった。私のことを考えて作ってくれたんだなというのが伝わる。造花だから枯れないし、部屋のインテリアとして置いておこうと思っている」と話した。

<事象2>プレート

都内私立大学に通うYさんはアルバイトとサークル、勉強を両立させ、忙しくも充実した生活を送っている。明るい性格で友達が多く、友達にも元気な子が多い。


サプライズケーキならぬサプライズピザ(写真:筆者提供)

ある日、彼女が友達に「おいしいピザがあるから」と誘われてついていくと、「HAPPY BIRTHDAY」と書かれたピザが出てきたという。「まさかピザでお祝いされるとは思っておらず、びっくりした。ピザでのお祝いをSNSで投稿すると目を引いたのか“いいね”がいつもより多かった」と話す。

若者たちの間で“誕生日サプライズ“が当たり前になっている中、どのようにオリジナリティを出すかを考える若者は少なくない。


Kさんに用意されたテーブルアート(写真:筆者提供)

都内私立大学に通うKさん。トレンドはこまめにチェックするという、流行に敏感なKさんのため、友人たちが用意したサプライズは、テーブルアートによるお祝いだった。

テーブルアートとは、テーブルいっぱいに大きなシートを広げ、そこにカラフルなソースなどで絵を描いていくものだ。

Kさんにサプライズの感想を聞いてみると、「目の前で繰り広げられるアート作品のようなものは、動画映えもするし、完成した写真をあとでSNSに投稿しても映える。さらに、お店を出たら階段にHappy Birthdayの文字とともに自分の名前が書いてあって感動した。最後までこんなにこだわりのあるサプライズは初めてだった」と話した。


テーブルアートで祝われた店を出ると、階段にまでお祝いの言葉が書かれていた(写真:筆者提供)

ケーキを複数種類盛り付けて華やかにするケーキプレートをお祝いの場面で見る人は少なくないと思うが、最近はお料理の盛り付けでもさまざまなバリエーションが生まれている。

例えば、お肉が好きな子にはバラのように見立てたお肉のプレートを。ある特定のキャラクターが好きな子にはお皿いっぱいにキャラクターが書いてあるプレートを。ダイエットをしていて甘いものを控えている子にはフルーツだけのプレートを、とその子の好みや特徴に合わせた料理でお祝いをするケースをよく見かけるようになっている。

プレート自体はよく見られるものだが、祝われる人の好みに沿ったものに工夫している。プレートそれ単体でSNSに投稿できるような、アートのクオリティーが高いお店を選ぶ人も多くなっている。

<事象3>バルーン

都内の4年制大学に通うMさん。テニスサークルに所属し、社交的で誰とでもすぐに打ち解けられるタイプの女子だ。そんな彼女は自身の誕生日で、凝ったバルーンの演出で友人たちに祝ってもらったという。


ホテルの部屋を取り、カラフルなバルーンで演出(写真:筆者提供)

誕生日、友人たちがホテルの部屋を借りており、そこにはプレゼントとカラフルなバルーンが並んでいた。中でも目を引いたのが、Mさんの名前入りのものだった。

M さんは、「ホテルの部屋を取ってくれたというだけでもうれしいけれど、部屋に入ったときのサプライズ感と豪華さを風船が演出してくれていたと思う」と言う。確かに、バルーンで飾り付ければ、写真の構図としても華やかだ。100均などで売っているバルーンだけでなく、年齢にちなんだものなどがあると、より記念日の印象がつく。

名前入りのバルーンについては、「こんな風船があることを知らなかった。私のためにこの風船を用意してくれたんだなと思うとよりうれしくなる」と語った。

<事象4>ウォールデコレーション

誕生日を外のお店ではなく、家やホテルなどプライベートな空間でお祝いをする人も昨今増えている。先ほどバルーンの事例を紹介したが、部屋の壁に自分たちの写真を貼るデコレーションサプライズをするケースもある。

都内私立大学に通うAさんはオシャレなインテリアが好きで、自身の部屋はモノトーンでまとめている。日頃からインスタグラムで流れてくる最新情報の収集は欠かさない。そんな彼女は、友人にこのウォールデコレーション・サプライズをしたという。


思い出の詰まった写真をハート型にしたウォールデコレーション(写真:筆者提供)

「その子との写真がたくさんあるので、アルバムを作ろうか悩んだが、それでは普通すぎる。用意した飾りに加え、ハート型に写真を貼ればオリジナル感がありいいのではないか。さらに遠くから見るとハートの壁画のように見え、近くで見ると一つひとつに思い出が詰まっているという、2種類の見え方も楽しめるのではないか」と考えたそう。

小さくアルバムにまとめてしてしまうのではなく、壁に貼ることで祝われる子にもSNSで投稿を見た人にもオリジナリティを感じてもらえるのだ。

<事象5>ストーリー

ここからは誕生日会そのものの話ではないが、誕生日のSNS投稿に関する最近の傾向について紹介したい。


インスタグラムのストーリー機能を使って誕生日を祝う(写真:筆者提供)

2016年8月よりインスタグラムに追加されたストーリー機能。この機能を使って誕生日を祝う若者が増えており、そのやり方にも一定の形式ができはじめている。

具体的には、友達がお祝いをされているストーリー画面をスクリーンショットして、その写真にお祝いコメントを書き、それを自分のストーリーに投稿するというものだ。狙いはずばり、『お祝いの連鎖』だ。

自分の友達が自分をお祝いしてくれている投稿を見つけた場合も、それをスクリーンショットして「◯◯がお祝いしてくれた! ありがとう!!」などのようにお礼のコメントを載せ直してストーリーに投稿する。

気持ちをダイレクトに表現できて特別感を出せる

都内の私立大学に通うHさんは、ストーリー機能を用いて誕生日をお祝いしてもらった経験を持つひとり。そのときのことを聞いてみると、

「友達に誕生日を祝ってもらったときの写真をストーリーにアップしたら、お祝いしてくれた友達がその写真をストーリーに投稿してくれました。また、そのときは一緒にいなかった親しい友人も、その写真にお祝いのコメントをつけて投稿してくれました」と話す。

Hさんも日頃、友達の誕生日をストーリー機能を用いてお祝いすると言う。「ストーリー機能を使ってお祝いをする相手は『普段から一緒に写真を撮る、とくに仲のいい人』。普通の友達にはLINEなどで“おめでとう!”だけを送るが、毎日一緒にいて、写真をたくさん撮り合うような仲のいい相手へは、LINEに加えてストーリーでのお祝いをします」とHさんは言う。

「ストーリーだと写真に文字を加えて投稿できるので、インパクトとお祝いの気持ちをダイレクトに表現できます。また、1日で投稿が消えるので、ややふざけて撮った恥ずかしい写真も投稿しやすいし、自分が好きな相手を祝っている特別感も出すことができます」(Hさん)

インスタ映えを意識しなければならない通常の投稿に対して、ストーリーはそのときの気持ちや状況を写真+文字で大々的に表現でき、変顔や面白写真など、より自由な表現が可能になるのだ。

今、通常の投稿では「風景の写真だけ」など特定のテーマに限って投稿している若者も多い。そのような人にとって、そのときの気分を気軽に表現できるストーリー投稿は、誕生日を思い切り祝うのに適した方法であるようだ。

若者の誕生日の祝い方、祝われ方は変化し続けている。SNSが普及し、情報が手に入りやすいだけに、特別なお祝いを演出するのが難しくなる中、どのようにして特別感を演出することができるか。相手の好みを理解し、その子らしいお祝いにするため、多くの若者が工夫をこらしている。

原田の総評:SNSが誕生日を祝う起爆剤に

若者たちの誕生日に関するレポートはいかがでしたでしょうか?

博報堂の生活定点調査によると、「贈答について、あなたにあてはまるものを教えてください」という質問に対して、「友人に誕生日などでプレゼントをすることが多い」と答えた人の割合は、20代が他世代よりダントツで多い54.3%(2018年)であることがわかりました。また、1998年の20代(39.7%)と比べても大幅に増えていることがわかりました。

データで見ても、今の若者たちは、とにかく「誕生日を祝うこと」が大好きになっているのです。

冒頭に書いたように、男子同士でさえ、です(ちなみに、博報堂の生活定点調査で「友達に誕生日などでプレゼントをすることが多い」と答えた20代男性は、1998年は25.0%でしたが、2018年は41.9%にまで急増しています)。

このように若者たちの間で「誕生日市場」が盛り上がってきている背景には、SNSの存在があると思います。

SNSは誰が誕生日なのかを“知ってしまう”ツールです。フェイスブックのように人の誕生日を直接知らせてくるものもあれば、誰かが誰かを祝っているのをSNS上の投稿で見て、自分も祝わないといけないと思ったり、祝ってほしいと思ったりする起爆剤となっているのです。

大変残念ではありますが、年賀状やお歳暮など、昔から日本にある儀礼市場は恐らく今後も右肩下がりに減っていくと思います。しかし、多くの企業は、この若者の間で盛り上がる「誕生日市場」に注目し、マーケティング施策を仕掛けていくとよいと思います。

なぜなら、今どきの若者たちは、昔以上に多くの人を祝わないといけない環境になっているため、周りと差別化するために、つねに新しい誕生日のお祝いの仕方や誕生日プレゼントを求めているからです。