「NewsPicks」×「CLASSY.」編集長が対談!キーマンは2019年メディア業界をどう語る?【Publisher Salon_Vol.1】

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2019年1月28日・29日に開催されたメディア・ブランドのためのカンファレンスイベント『Publisher Summit 2019』。その開催に先立ち、『Publisher Salon_Vol.1』が、1月11日(金)に六本木『文喫』にて開かれた。

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出版社やWebメディアといったパブリッシャーサイドのキーマンが一同に会した本イベントでは、ソーシャル経済メディア『NewsPicks』編集長・金泉氏と、アラサー女性から絶大な支持を得るファッション誌『CLASSY.』編集長・今泉氏が登壇し、出版社とデジタルメディアの未来について、幅広い視点から対談いただいた。

登壇者紹介

金泉 俊輔 氏(株式会社ニューズピックス ソーシャル経済メディア「NewsPicks」編集部 編集長)

フリーライターを経て出版社入社。2001年より『週刊SPA!』編集を担当したのち、2011年にオンラインサイト『日刊SPA!』を創刊。2013年より両媒体の編集長を兼任。2018年より「NewsPicks」編集長。

今泉 祐二 氏(株式会社光文社 月刊CLASSY.編集部 編集長)

1972年生まれ。早稲田大学法学部卒業。96年光文社入社、広告部配属。2003年から『CLASSY.』編集部に。06年に副編集長、10年から現職。

モデレーター:藤田 誠(INCLUSIVE株式会社 代表取締役社長)

広告代理店、ゲーム配信会社、大手IT会社広告事業部の営業統括を経て、2007年4月に出版社やテレビ局のデジタル戦略立案および新規メディア事業・デジタル事業開発を行う当社を設立。

紙媒体出身の編集者が陥りがちな落とし穴

藤田:今泉さんは、以前から「Webメディアの運営に力を入れたい」と仰っていましたが、本誌にはないWebメディアの魅力って何でしょうか?

今泉:まずWebメディアは紙媒体に比べて圧倒的にスピード感がありますよね。紙媒体の場合、企画が本誌に載るのは2カ月半もかかります。さらに、成功かどうかは部数でしか測れず、企画の感想も読者アンケートやSNSでのサーチでやっと見えてくる状態です。一方、様々なレスポンスがすぐ数値化されるWebメディアなら、日々違う刺激があり、様々な打ち手を考えられると思ったんです。

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藤田:なるほど。紙媒体の編集者とWebメディアの編集者では、働き方や役割の違いはあるのでしょうか?

金泉:どちらも「読者に面白いものを届ける」というコンテンツメーカーなので、その点で言えば役割に違いはありません。ただ同じコンテンツでも、どうWeb向けにカスタマイズするかはコツが要るでしょう。

藤田:どんなコツが要るのでしょうか?

金泉:例えば、以前僕が担当していたWebメディアで語る場合と「NewsPicks」で語る場合では、結構違ってきます。前者の場合、PV(=ページビュー)やUU(=ユニークユーザー)などの数値が重視されるので、徹底的にそこを獲得する施策を展開していきますね。

「NewsPicks」では、「サブスクリプションコミュニティ」というビジネスモデルに加え、もう一つの収益の柱として“ブランド広告”を手掛けています。ファッション誌のタイアップ広告のようにクリエイティブが凝ったリッチコンテンツをつくり、デジタルマーケティングを駆使して最大の広告効果を狙っていきます。

金泉:このように、多くのWebメディアが手掛けているような配信型広告をメインとする手法と、「NewsPicks」のような「サブスクリプションモデル×ブランド広告」といった戦略では、少し様子が違ってきます。

藤田:サブスクリプションモデルに向いているWebメディアはあるのでしょうか?

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金泉:雑誌発のWebメディアは全て向いていると思いますが、実際サブスクリプションサービスを独自に提供するのであれば、出版社は全然向いていないでしょうね。

(一同、笑い)

メディア企業とは「配信網(チャネル)を自社で持っている企業」を指すと僕は思っています。新聞社には自前の印刷所や販売店があり、テレビ局は放送網を持っているので“メディア企業”と言えるでしょうが、出版社の多くは自前の印刷所や流通チャネルを持っていません。どちらかというと“コンテンツ企業”が適切ではないでしょうか。

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金泉:一方Webメディアは、“コンテンツ”ビジネスであると同時に、配信網を所有する、および大手配信網を開拓・連携するという配信ノウハウを含む“メディア”ビジネスであると言えます。“ひとまずコンテンツを創り、好きな部数を印刷し配本すれば、読まれる・見られる”というシンプルな仕組みのなかで長年過ごしてきたオールドメディアにとって、この感覚を掴むのは難しいでしょう。ですから、配信ノウハウがない出版社がWebメディアを運営することには難しさがあるんです。

藤田:「CLASSY.」編集部は本誌とWeb版どちらも運営されていますが、雑誌編集部がWeb版を手掛けるにあたっての“難しさ”はありますか?

今泉:雑誌編集部がWeb版を手掛ける際に足枷になるのは、「紙の方が偉い」という出版社特有の意識です。例えば、「CLASSY.」編集部は現在9名いますが、仮に僕が数人指名して「デジタル版専任になれ」と言ったら、みんな泣くでしょうね(笑)

今後はデジタル版の方がよりチャンスがあるはずなのですが……。『CLASSY.ONLINE』は、まだ駆け出しの媒体ということもあり、明るい未来を想像できていないことも理由かもしれませんが、そういう“紙媒体に固執する編集者たち”に、どうしたら上手くデジタルの魅力を伝えられるかは悩みどころです。

金泉:“紙の編集者あるある”ですよね。僕なら、まずは全員に紙とデジタル両方の編集を任せ、デジタルに興味を示した部員がいれば専任にします。

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金泉:雑誌の場合、大体は編集長の意向通りに制作が進みますが、Webメディアだと、希望を叶えるには「技術的に実現できるか」という条件をクリアする必要があります。当然、技術サイドから「それは実現できません」とNOを突き付けられることもあるのですが、これが紙媒体出身者からすると、“自分たちの立場が下がった”ように感じるなんて話も聞きます。

今泉:確かに。紙媒体出身の人たち特有の病とも言えるでしょうね。

金泉:新聞社などの他の紙媒体の企業も同様で、紙媒体の編集長や編集部はデジタル部門を“発注先”とみなしている節があります。未だに“紙媒体の編集部と外部の開発会社(発注先)”という構造が頭のなかにあるようです。

今泉:「紙」が好きなのはいいのですが、「紙がWebより上位」という認識は正しくありません。そこを勘違いしてあぐらをかいているようでは、チャンスをどんどん逃していくでしょうね。

雑誌発のWebメディアが“らしさ”を出すには

藤田:雑誌のWeb版で“媒体ブランドらしさ”を出すコツは何でしょうか?

金泉:他の雑誌発Webメディアと違う点として、例えば以前担当していた雑誌発Webメディアでは、本誌ライターがWeb版の記事も執筆していました。ページ数に限りがある本誌では、掲載できない企画や小さな扱いになる企画が出てくるのですが、現場は本格的に制作したいんですよね。

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そこで「本誌で通らなかった企画をWeb版に掲載していいよ」と編集者やライターを口説いて(笑)。“本誌ではできないエッジの効いた企画”をWeb版で展開するようにしたところ、大きな反響を得て、結果PV増につながりました。この手法は、他の雑誌発Webメディアでも応用できると思いますよ。その中でも、媒体のブランドとして、記事クオリティに対しては強いこだわりを持っています。

今泉:本誌未掲載の企画、確かにWeb版で掲載できたらいいですよね。「CLASSY.」本誌は、編集部の担当箇所が170ページほどですが、毎回その5倍以上の企画が提出されるので、掲載できないものも多く、もったいなく思います。

金泉:本誌でボツになった企画たちは、Web版にとっては“宝の山”なんですよね。

今泉:本気でやれば、Webメディアで人気の『ユニクロ』や『GU』を使った企画や「コスパ○○」というテーマだけで、創ろうと思えば1冊創れるのですが、「CLASSY.」というブランドを考えると、本誌では何本かに留める必要があるので……ポテンシャルはあるんですけどね。

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金泉:雑誌発Webメディアと、そもそもWeb発の「NewsPicks」とを比べて感じたのは、雑誌は“世界観の力”へのこだわりが顕著だということですね。「NewsPicks」も経済メディアとしての世界観を大切にしていますが、ときには“越境”したりもします。最近では「自動車領域×テクノロジー領域のその先は」といった企画を打ちだすなど、“異なる領域の間に何があるのかを掘り出す”試みを盛んに行っています。

雑誌づくりではどうしても企画を“当てよう”として、特定のジャンルに集中してしまいがちですが、視点を変えて普段は扱わないテーマを取り上げてみたり、異なるジャンル同士を組み合わせた企画をつくってみたりすると、新しい金脈が見えることもあります。

Webメディアのマネタイズ、その成功モデルとは

藤田:紙からWebへの転換を迎えて久しいですが、強固なマネタイズに成功したWebメディアはまだ少ないように感じます。何が成功の柱、成功モデルとなるのでしょうか?

今泉:まず挙げられるのは“ブランド広告”でしょうか。数年前、メゾンブランドが紙媒体に一切広告を出稿せず、特定のWebメディアに広告出稿することが流行った時期があったんです。それを見て、Web版でも本誌と同じクオリティのタイアップ広告がつくれたら、特定のWeb媒体に広告費が集中するのを食い止められ、「CLASSY.」で囲い込めるのではないかと思って。なので直近では、Web版でも広告メニューの充実化に力を入れています。

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今泉:もちろん、人気ファッション雑誌や有数のモード誌のWebメディア並みに「CLASSY.ONLINE」の存在感を上げていくことが最優先なのですが、そこは雑誌の得意領域ですからね。実際、雑誌への出稿を希望するメゾンブランドはまだまだ多いので、そのようなクライアントに「Web版でも同レベルのタイアップをやれますよ」と提案していければいいですね。広告メニューを豊富に揃えられるのは、紙媒体を持っている出版社の強みと言えるでしょう。

金泉:ブランド広告は一つの手ですよね。「NewsPicks」の「ブランドデザインチーム」では、パブリッシャーとブランドが直接向き合いながら、スポンサード記事を作っています。「NewsPicks」は年4回雑誌も刊行しているのですが、その手法が好評で、ナショナルクライアントからの出稿も多く、第3号目は満稿になりました。

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藤田:仰るように、ブランドとメディアってかなり近い距離感になってきていますよね。ブランドがメディアをつくるという事例もありますし、この手法は増えていくでしょうね。

金泉:デジタルマーケティング企業も爆発的に増え、広告業界もどんどん複雑になってきていますし。そう考えると、「ブランド広告」というのは原点回帰とも言えます。

藤田:確固たるビジネスモデルがないWebメディア業界における「編集者の在り方」について、お二方はどうお考えでしょうか?

今泉:確かに、雑誌は毎月書店に並べるだけで何万部か売れますし、さらに純広告で収益も立ちます。このような生易しい環境で味をしめた編集者が、“0から売上を立てなければいけない荒野”にいきなり放り出されても対処できません。それに僕がもし経営者なら、迷わずデジタルに投資します。ひょっとすると、紙媒体は10年後にはなくなっているかもしれません。「これはいずれなくなる食糧だ」という危機感を持たないといけないでしょうね。

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金泉:紙媒体のコンテンツづくりにハマった編集者が、“プロデューサー型の仕事”をできるかと言われると、慣れるまで時間がかかると思います。コンテンツの制作陣と開発チームが密にコミュニケーションをとり、トレンドなども加味してWebメディアを運営していく姿勢がなければ、いくら本誌のリソースがあっても、この先成長させていくのは難しいはずです。

iモードの時代からブラウザの時代を経て、アプリの時代を迎えて……マネタイズの手法がころころ変わったこの10年間で、変わらず存在感を発揮し続けたWebメディアはごくわずかだと思います。 Webメディアで収益をあげるというのは、出版社の棚の取り合いと次元の違う戦いです。そのスピード感に慣れるだけではなく、常に先手を打つ姿勢がないと、紙媒体の編集者はおろか、Webメディアの編集者だって生き残れないかもしれませんよ。

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「Webメディアのマネタイズ」は、まだ誰も成功法則を掴めていない領域だが、逆説的に言えば、手法が定まっていないからこそ、様々なチャレンジができると言える。その環境を楽しむことができ、これまでの常識にとらわれないやり方を打ち出せる編集者なら、いくらでもチャンスを見出せるだろう。

今回登壇した金泉氏が編集長を務める「NewsPicks」は、独自の取材記事や落合陽一を起用した「WEEKLY OCHIAI」が人気を博し、現在300万人以上の会員ユーザーを抱えている。月額1,500円のプレミアム体験を10日間無料で実施できるキャンペーンも実施中だ。また、今泉氏が編集長を務める「CLASSY.」は現在1,000万PVを突破し、ウェブにおいても「CLASSY.」という媒体ブランドの存在感を発揮している。新たなブームを仕掛け続ける両媒体から目が離せない。

対談のなかでは、参加企業との意見交換も活発に行われ、盛況のうちに終了した。「Publisher Salon」は、メディア・ブランド双方の最新情報や、業界の未来についての議論の場として、今後も定期的に開催される。次回vol.2では今話題の目的外のデータ利用の問題や、EU圏におけるGDPRの施行などをテーマに、パブリッシャーの見るべきポイントを紐解く。

FUTURUS編集部では引き続き、「メディアの未来」について、様々な視点から追っていくつもりだ。