中日・与田剛監督インタビュー(前編)

 森繁和監督のあとを継ぎ、今季から中日の指揮を執ることになった与田剛監督。チームは6連続Bクラスと低迷しており、建て直すのは容易ではない。それでも昨年、松坂大輔が見事な復活劇を遂げ、ドラフトでも4球団競合の末に大阪桐蔭の根尾昂を獲得するなど、再建の気運は高まっている。はたして、どのようにチームをつくり上げていくのか。与田監督を直撃した。


かつて中日の絶対的守護神として一時代を築いた与田剛監督

── 「監督」と呼ばれることには慣れましたか。

与田 そうですね。最近、やっと「監督」と呼ばれて振り向くことができるようになりました。最初は気がつけなくて、「あれっ、誰のことなんだろう」って感じはありましたけど……(笑)。

── 監督という立場になって、見える景色というのは変わるものですか?

与田 自然と何かが見える、というよりも、見なきゃいけないという意識が強くなりますね。これも見なきゃいけない、あっちも見なきゃいけないと思うと、時間が足りません。

── 監督という立場でキャンプに入ってみて、難しさとかおもしろさとか、監督業をどんなふうに捉えていますか。

与田 この監督という仕事、実際は去年のドラフト会議から始まっていたと思います。あらためて思っているのは、監督という存在は人の運命を大きく変えてしまう、ということ。その意識から僕はスタートしました。オフの間も、2月1日のキャンプインに向けて選手たちを一、二軍に振り分けなきゃいけない。やっと振り分けたと思ったら、これから先は開幕へ向けて最終的な一軍メンバーを決めなければいけない。

 だけどそれはシーズンのスタートであって、終わりではない。じゃあ、そこから143試合、一軍と二軍の試合をどういうメンバーでうまく組み立てていけばいいのか。私は楽天で二軍のコーチも経験しましたから、二軍の試合に必要以上の負荷をかけてはいけないということも考えてしまいますし、でも一軍のゲームを優先して考えることは当然で、そのバランスは案外、難しい。一軍のことだけを考えてしまうと、二軍で調子のいい選手をそのタイミングで一軍へ上げられないとか、いざというときに調子を落としているとか、そういうことが起こる。だから一軍と二軍を連携させて、チーム全体をしっかり頭の中に入れておきたいと思っています。

── ドラゴンズは昨シーズンまで6年連続Bクラスです。監督はこのチームに対して、競争させようという意識と任せようという意識、そのバランスをどんなふうに考えていますか。

与田 そこは変動するものじゃないですか。競争させる度合いもその都度、変わってくると思いますし、逆に競争させずに安心感を与えなければいけない時期もある。ただ、戦い終えて、勝ち抜いた人間にいつまでも競争心を求めるのもよくないと思うんです。「厳しい競争に勝ち抜いてきたんだから、オレは自信を持ってお前に任せる。不安なく戦ってこい」と送り出してあげることも大事だと思っています。

── となると、今のドラゴンズで、ピッチャー、野手、それぞれ、お前に任せると言ってあげられる、チームのど真ん中にいてもらいたい選手は誰になるのでしょう。

与田 真ん中という表現ではないかもしれませんが、ビシエドをはじめとする外国人については固めるつもりでいます。このあたりの選手に競争意識を持たせて焦らせてしまっては、能力を半減させてしまう恐れがありますからね。

── 今年、本人の希望からキャンプを二軍でスタートした藤井淳志選手、平田良介選手、大島洋平選手がゆっくり調整しているように見えました。監督としては彼らに「任せるぞ」という気持ちがあるのかもしれませんが、チームが生まれ変わろうとしているとき、彼らこそキャンプのスタートから一軍のど真ん中にいるべきではないのかと思ったのですが、そこはいかがお考えですか。

与田 キャンプを二軍でスタートしたベテランに関しては、任せているという表現をメディアは使うんですけど、私は任せているつもりはまったくありません。去年、それなりの成績を残した選手を二軍からスタートさせると、周りは勝手に、二軍でゆっくり調整させる、任せるというふうに受け取るんですけど、私はそうは思ってないんです。

── では、どういう意識で二軍からスタートさせたのですか。

与田 そもそもドラゴンズの選手というのは全国区じゃなくても全国区になったという勘違いをしがちなんです。僕もプロに入った時、「東京の街を歩いて、たくさんの人間に気づかれて、それで初めてスターだぞ」と言われたことがありました。なるほどな、と思いましたよ。ドラゴンズでレギュラーになり、エースになり、名古屋でスターになっていった選手たちが「東京で誰々に間違われた」なんて笑い話を聞かされると、まだまだオレたちは全国区じゃないんだなって思ったりもしました。だから藤井、平田、大島に関しても、そういう勘違いをするなよ、という気持ちはあります。

 ただ去年、僕自身が彼らを見ていない責任もあって、去年までを見ていた人たちに託した上での今年の二軍スタートでもあったんです。彼らにはまず、結果を残してもらわなければ困る、という中でどちらにするか、選択してもらったんですけど、だからといってポジションを約束しているわけではありません。さっき、私はビシエドの名前しか出しませんでしたけど、大島も平田も藤井も、競争しなきゃいけない選手なんです。彼らが読谷(二軍)にいて、2月の末にのんびり、じゃあ一軍に行きます、なんて言ったとしても、そのとき、北谷(一軍)にいる若い選手たちが「来るところはありませんよ」と抵抗して、結果、彼らが「あれっ、オレ、やべえじゃん」となってくれていることを期待しています。

── ピッチャーについてはどうですか?

与田 ピッチャーについては、そこまでの絶対的な存在はいませんね。何しろウチはガルシアが抜けて、昨シーズン、規定投球回数に達したピッチャーが一人もいない状況ですから……そう考えると、ほとんどのピッチャーがまだプロとしての結果を残せていないし、能力を判断するための数字が揃っていないということになります。みんな、横一線からのスタートです。

── 監督は現役時代、ルーキーイヤーにクローザーを託されて、31セーブをマーク。新人王にも輝きましたが、今、抑えについてはどうお考えですか。

与田 (鈴木博志、佐藤優、田島慎二ら)候補は何人かいますが、開幕一軍のメンバーを選ぶ時点で、誰にそのポジションを任せるかは決めて、本人に伝えます。これについては(クローザーを)必ず誰に託すかを決めて開幕に臨むつもりでいます。

── では開幕投手となる先発ピッチャーには、エースとして1年間、ローテーションの中心で回って欲しいという期待を託すのでしょうか。

与田 これは抑えとはちょっと意味合いが違います。1年というスパンで考えると、いろんなことが不確定になってくると思いますからね。開幕投手に、そのまま「1年間エースでいろよ」というのは理想だと思いますが、それよりもまずは一歩ずつということを考えてほしい。だから開幕投手には「開幕戦を先発としてしっかりつくってくれよ」という意識で託すと思います。

後編に続く