プレゼンや交渉上手な人は何が違うのか。コクヨのワークスタイルコンサルタント・下地寛也氏は「聞き手の心をつかむには、プレゼンの語彙力が必要。いつもの言い回しを少し変えるだけでいい」という――。

※本稿は、下地寛也『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■YESを引き出すプレゼンの語彙力

ビジネスパーソンといえば、様々なプレゼンを耳にする機会があるでしょう。そしてその中には、同じようなことを言っているにもかかわらず「眠くなってしまうプレゼン」と「思わず聞いてしまうプレゼン」があるのを感じていることと思います。

その差は「プレゼンの語彙力」にあります。英語の語彙を身に付けると外国人と話ができるようになるのと同様、プレゼンの語彙力を磨けば、あなたのプレゼンは面白いように聞き手の心をつかみ、YESを引き出せるようになります。

最初にお勧めしたいのは、「ランキング化する」という方法です。

これまでのプレゼンで、「数多くある課題や不満」などを紹介するとき、あなたはどんな風に伝えていたでしょうか? 「ユーザーの不満はたくさんありますが……」とか、そんな表現をしていませんでしたか? これだと、相手は眠くなってしまうかもしれません。

イラストレーション=たかだべあ

そこは、「ユーザーの不満はたくさんありますが……」ではなく、「ユーザーの不満、トップ10! まずは10位ですが……」が正解です。これが、ランキング化です。

■プレゼンでは「トップ3」に絞る

テレビでも雑誌でも、ランキングのコーナーは人気です。

「トップ10を下から紹介しますね」と言っただけで、聞き手は「絶対1位はあれだな」とか、「自分が思っているのは何位だろう?」などと思いながら話を聞いてくれます。

また、「トップ3」「トップ5」「トップ10」など順位をつけることで、情報が整理されている印象も与えられます。さらに、ランキングは雑談のネタになるので、聞き手が覚えようとしてくれるのです。

ランキングの数をいくつにするのか悩ましいですが、プレゼンではトップ3くらいに絞った方がいいと思います。トップ10にするのなら下位は省略したり、軽くふれる程度でいいでしょう。

ランキング化する際は、必ずしもしっかりとした調査をする必要はありません。

「私が選ぶ初心者にオススメの登山スポットベスト5」とか「私が接した困ったお客さんトップ10」など、自分の経験をランキングにすれば、誰でも簡単につくれます。

■「問いかけられる」と人はイヤでも考える

イラストレーション=たかだべあ

人は、問いかけられると考えてしまう生き物です。テレビでも「明日の天気はどうでしょうか?」「なぜ真面目な社会人の彼が犯行に及んだのでしょう?」と問われると、思わず自分なりにその答えを考えてしまいます。

問いかけには、つまらない勉強であっても楽しくする力があるのです。

池上彰氏の番組で扱うニュースを新聞で理解しようとすれば、秒殺で眠くなるでしょう。しかし、池上さんからテレビ越しに「なぜヨーロッパと日本ではこれほど考え方が違うのでしょうか?」と質問されると、真面目に答えを考えてしまいますよね。

この、問いかけの力をプレゼンでも利用するのです。

たとえば下記の2つの言い方のうち、どちらがより「刺さる」と感じるでしょう。

A「痩せるためには糖質をカットすべきです」
B「痩せるためには何をするべきか? 糖質カットです!」

ほんの言い回しの違いですが、多くの人はBの言い方のほうがより強く印象付けられるのではないでしょうか。これが、「問いを立てる」という手法です。

聞き手に何を問えばプレゼンに興味を持つかな、と考えてみましょう。

たとえば「簡単な料理法」についてのプレゼンなら、「皆さんは料理にどれくらいの手間を掛けていますか?」と問えばいいわけです。日本の文化についてのプレゼンなら、「日本人がお辞儀をするのはなぜなのでしょうか?」と問うのです。

問いを立てると、人は「自分ごと」で考えてくれます。逆に、どんなに良い提案であっても「自分とは関係ない」という印象を与えてしまうと、人は話を聞いてくれません。

■「課題」を頭に置くと理解しやすい

「ランキング化する」「問いを立てる」といった聞き手の興味を引く言い回しのバリエーションに、「課題や大切なことを文頭に置く」という手法があります。

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日本語は、「……が課題です」「……が重要です」というように「課題」や「重要」という言葉は最後にくることが多い言語です。みなさんの会話も、大体こうなっているのではないでしょうか。

でも実は、これだと文章を最後まで聞かないと、伝えたいことが「課題」なのか、「重要なこと」なのか、「メリット」なのか、「気になること」なのか、聞き手にはわかりません。

以下の2つの文章を比べてみましょう。

 
A「育児中の女性社員の上司が信頼できる人でも、育児の大変さを理解していないことが多いというのが問題です」
B「問題は、育児中の女性社員の上司が信頼できる人でも、育児の大変さを理解していないことが多い、ということです」

Aは、最後まで聞かないと「上司を褒める」話なのか、「上司の問題を指摘する」話なのか、わかりません。

下地寛也『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)

Bは、はじめから「上司の問題」の話が始まるのだと理解できるので、話を聞きながら「何が問題なのかな」と想像しながら話を聞くことができます。

これは、ともすると一文がだらだらと長くなってしまいがちな日本語のプレゼンテーションにおいて、とても聞き手フレンドリーな表現です。

いかがでしたか? 相手を惹きつけ耳を傾けさせるプレゼンというのは、予想以上に「プレゼンの語彙力」によるところが大きいのを、感じていただけたでしょうか? せっかくデータを集めたり提案内容を練ってプレゼンに臨むなら、プレゼンの語彙力を身に付けてYESを引き出してください。また、ここだけの話、「他社との差別化がキツい」「圧倒的なメリットがつけられない」プレゼンをする際にも、プレゼンの語彙力は大いにあなたの味方をしてくれることでしょう。

(コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタント 下地 寛也 イラストレーション=たかだべあ)