トヨタが始めるサブスクリプションサービスでは、レクサスブランドのSUV「レクサスUX250h」など、高級車を半年ごとに乗り換えることができる(撮影:尾形文繁)

音楽や動画配信などで急速に普及するサブスクリプション(定額利用サービス)。自動車分野では、「モビリティサービス会社への転換」を掲げるトヨタ自動車が先陣を切って参入した。

トヨタの「KINTO SELECT(キントセレクト)」と「KINTO ONE(キントワン)」で、キントセレクトは、頭金なしに月額19万4400円(税込み、以下同)を支払うことで、高級車ブランド・レクサスの新型車6車種を3年間、半年ごとに乗り換えて使うことができる。

個人向けカーリースとの違い

一方、キントワンは、トヨタブランドのセダン「プリウス」やミニバン「アルファード」など5車種の中から1車種を選び、3年間乗ることができる。月々の支払いはプリウスの場合、4万9788〜5万9832円、アルファードでは8万5320円〜9万9360円だ。キントセレクトは2月6日から、キントワンは3月1日から東京で始め、夏以降に全国に拡大する。

サービスを手掛けるのはトヨタの金融子会社・トヨタファイナンシャルサービスとカーリース大手の住友三井オートサービスが今年1月に設立した新会社「KINTO(キント)」。社名は必要なときにすぐに現れ、思いのままに移動できる「觔斗雲(きんとうん)」をイメージしたという。


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KINTOの小寺信也社長は「従来のトヨタはどこにマーケットがあるのかをきっちりと見極めて商品を展開してきた。ただ、そうしたやり方だけでは自動車産業の変革期を乗り切るのは難しい。不透明な将来に向けて先手を打つ」と新サービスの狙いを語る。

料金には車両代のほか、登録時の諸費用や税金、任意保険料が含まれ、キントワンでは6カ月ごとのメンテナンス費用も含まれる。ただ、既存の個人向けカーリースでは、同じように料金の中に税金やメンテナンスが含まれたサービスもある。キントと既存のカーリースとの大きな違いは、任意保険を含むことだ。任意保険には等級制度があるため、自動車を初めて持つ若い世代にとっては負担が大きいが、キントの月額料金は等級や年齢に関係なく一律だ。

「若い人、初めてクルマを買う客からは(キントワンの料金は)結構割安に見えるのでは。車離れを何とかしたいというトヨタの思いを込めている」(小寺社長)

仮にプリウスの売れ筋グレードA(2WD)を3年間、個人向けリースで借りた場合は、住友三井オートサービスでは月額約7万2000円(税金、諸費用、メンテナンス、カーナビなどオプション3点込み。夏タイヤのみ。年間走行距離1万2000km)。これに任意保険料を払う必要がある。トヨタのサブスクリプションはグレードやオプションの種類に応じて月額料金は異なるが、プリウスは約5万〜6万円。この金額に任意保険料が含まれていることを考慮すると、リースと比べて確かに割安感がありそうだ。

一方のレクサスブランドはどうか。選択できる車種はいずれもハイブリッド車のセダン「ES300h」やSUV「UX250h」などで、3年の利用料総額は約700万円になる。6車種の中で一番高い「RX450h」(604万7000円〜)を新車で購入できてしまう計算だ。新車で買ったレクサスを3年後に売却することも考えれば、利用料に任意保険料や自動車税が含まれているとはいえ、コストはいかにも高い。

顧客層は会社経営者や弁護士

KINTOの小寺社長は「もともと、現金販売やローンとの比較で得か損かで設定したわけではない」と断った上で、「18万円(税抜き)が高いか安いかはわれわれにもわからないところがある。こわごわやっている」と本音をのぞかせた。顧客のターゲットは、「レクサスや輸入車を結構早い期間で乗り換える方」としており、会社経営者や弁護士などの富裕層が対象と見られる。


KINTOの小寺社長は「若い人の車離れを何とかしたい」と語る(撮影:今井康一)

自動車のサブスクリプションは海外が先行しているが、必ずしも順調というわけではない。アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)は2017年から高級車ブランド「キャデラック」の複数の車種を月間1800ドルで乗り換えられるサービスを試験的に始めたが、2018年後半からサービスを一時休止している。現地メディアによれば、運営コストや車種の見直しを進めているという。

2月6日のサービス開始から1週間でキントセレクトは契約を数件獲得したという。「レクサスユーザーや輸入車ユーザーもいる。大変ほっとしている」(小寺社長)。レクサスブランドは2018年に国内では過去最高の5万5000台余りを販売。新型SUVの投入などラインナップの拡充が功を奏し、この1年で1万台近く販売が伸びた。

レクサスブランドは好調だったが、トヨタの2018年の国内販売台数は156万4000台と前年比4.2%減少した。2019年は横ばいを見込むが、中長期的には人口減少の影響を受けることは避けられない。国内の新車販売台数は1990年の777万台をピークに縮小が続き、2018年の販売台数は527万台と3分の2まで縮小した。トヨタの国内販売も1990年の250万台と比べ、4割近く減っている。

国内市場が縮小し、約5000店あるトヨタの販売店網を維持できるかわからない。新車市場の縮小に追い打ちをかけるように、消費者の意識も保有からシェアリングへ移りつつある。国内のカーシェアリングサービスの会員数は2018年に132万人を超え、この5年間で100万人以上増えた。国内の登録車では5割弱という高いシェアを誇るトヨタにとっても、自動車を作って販売する、既存のビジネスモデルが揺らぎかねないとの強烈な危機感がある。


「TOYOTA SHARE」の運用を始めた東京都内のトヨタの販売店には1店舗当たり1〜2台のカーシェア用車両が配備されている。利用者はスマートフォンのアプリで鍵の開閉ができる(写真:トヨタ東京販売ホールディングス)

そうした危機感を背景に、国内販売体制の大改革にも着手。シェアリングサービスも立ち上げた。昨年12月から東京都中野区で「TOYOTA SHARE(トヨタシェア)」の試験運用を開始し、今年2月から都内全域に拡大した。現時点ではトヨタ直系の販売店など17拠点に30台を備える。コンパクト車の「ヴィッツ」は15分200円から借りることができる。「お試しで使いたいという人の会員登録が増えている」(トヨタ東京販売ホールディングス広報)。

「中古車版キント」も視野に

ライバルのホンダは2017年11月から、日産自動車は2018年1月からカーシェア事業を展開している。カーシェアは成長著しい分野だが、「タイムズカープラス」を展開するパーク24を筆頭にプレイヤー間の競争は激しく、後発組が食い込むのは容易ではない。利用料金や使い勝手、借りられる車種数などでどこまで魅力を出していけるかが課題だ。

カーシェアにせよ、サブスクリプションにせよ、車が使われれば、整備需要が継続的に発生する。実はこれが重要な点だ。一般に整備の収益性は高く、カーシェアやサブスリプションが普及すると、販売店に新たな収益源が生まれる。トヨタのサブスクリプションは当面は新車が対象となるが、利用の終わった車両を使って「中古車版キント」を展開することも視野に入れる。

トヨタの友山茂樹副社長は「モビリティサービスでは、どれだけコストパフォーマンスの高いリースやメンテナンスができるかが競争力の原点となる」と話す。つまり、整備による収益を販売店が取り込むためにも、整備士の生産性を今まで以上に上げていく必要がある。

トヨタは現在、「カローラ」や「ネッツ」などトヨタブランドの国内販売チャネル(系列)を4つ持つが、2020年代前半から2025年にかけて実質的に一本化する。国内向け車種も現在の約60車種から半分の30車種に絞り込む。どの販売店ででもすべてのトヨタ車を買えることになれば、販売店同士の競争が激しくなるのは必至。整備やシェアリングで収益を多角化するのはもちろんのこと、効率性が販売店生き残りのカギを握る。車のサブスクプションが日本で普及するかどうかは未知数だが、販売店の意識改革を促すことができれば、トヨタにとっては先陣を切った意味がありそうだ。