NBAトレード・デッドライン@イースタン・カンファレンス編

 あくまで今季の勝利にこだわるチーム、今オフに大物FA選手の獲得を狙うチーム、ドラフト指名権を集めて来季以降の再建を目指すチーム……。現地2月7日(日本時間2月8日)のトレード・デッドライン(トレード期限)を目前にして、さまざまな思惑が入り乱れたNBAの各チームは例年以上に動いた。


高いスリーポイントシュート成功率を誇るニコラ・ミロティッチ

 イースタン・カンファレンス首位のミルウォーキー・バックスは、ニューオーリンズ・ペリカンズからアウトサイドシュートを得意(スリーポイントシュート成功率36.8%/平均16.7得点)とするビッグマンのニコラ・ミロティッチ(PF)を獲得。若手の成長を待つのではなく、28歳のミロティッチを選んだことで、今季のカンファレンス制覇を狙っていることが本気であることを証明した。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 バックスは、ビッグマンをアウトサイドに配置することで生まれるスペースに、エースのヤニス・アデトクンボ(PF)をドライブさせるはずだ。ディフェンスが収縮すればキックアウトして得点を狙えるので、ミロティッチとアデトクンボの相性は間違いなくいい。対戦チームにとって、バックスはより厄介なチームになった。

 一方、バックスを追いかけるイースタン2位のトロント・ラプターズは、今季のカンファレンスチャンピオンを狙ってギャンブルに出たと言っていいだろう。ヨナス・バランチュナス(C)ら3選手とドラフト2巡目指名権と交換に、メンフィス・グリズリーズからベテランのマルク・ガソル(C)を獲得した。

 ガソルはオフェンス面だけでなく、2013年に最優秀ディフェンス賞を受賞するなど、ディフェンス面でもチームに貢献できる。しかし、34歳のガソル獲得はリスクも伴う。トレード直後のゲームではガソルをベンチスタートさせたが、今後も控えとして使うかヘッドコーチの手腕が問われるところ。起用法を間違えば、今まで構築してきたチームケミストリーが崩壊する恐れもある。

 さらにラプターズは控え3選手を放出したため、ベンチ層がかなり薄い。ただ、そんなリスクを背負ってでも勝負に出たのには理由がある。今オフにFAとなるカワイ・レナード(SF)を引き止めるためには、カンファレンス制覇が大きな材料となると考えているからだろう。バックスと同様に、ラプターズも今季にかける思いは強い。

 また、現在イースタン5位のフィラデルフィア・76ersもトレードで勝負に出た。3選手に加えて、ドラフト1巡目指名権ふたつと2順目指名権ふたつを交換条件に、ロサンゼルス・クリッパーズ(ウェスタン9位)からエースのトバイアス・ハリス(SF)を獲得したのだ。

 ハリスは平均20.8得点・スリーポイントシュート成功率43.7%を誇り、まさに76ersに欠けていたシューターだ。ディエンスも得意なので、76ersの戦力が大幅にアップしたのは間違いない。このトレードよって76ersのスターターはベン・シモンズ(PG)、J・J・レディック(SG)、ジミー・バトラー(SG)、ハリス、ジョエル・エンビード(C)という、リーグ屈指の豪華ラインナップとなった。

 対して、イースタン4位のボストン・セルティックスはトレード・デッドラインを静観していた。ただ、結果的にはトレード勝ち組に分類されるだろう。

 そのキーワードとなるのが、ペリカンズのアンソニー・デイビス(PF)。今回のトレード・デッドライン内でもっとも去就が注目されていたオールスター選手だ。

 リーグ屈指の実力を誇るデイビスの獲得を、セルティックスも狙っていた。だが、NBAのルール上、今シーズン中はデイビスとカイリー・アービング(PG)を同時にロスターに並べることができない。セルイティックスがデイビスを獲得するなら、7月まで待たなくてはいけない状況だった(※)。

※通常ルーキーと契約した後の再契約は、チームサラリーキャップの25%がMAX契約となる。しかし、「MVP受賞」「2度のオールNBAチーム選出」「2度のオールスターゲーム・スターター出場」などの特定の条件を満たした選手のみ、30%のMAX契約を認める「デリック・ローズ・ルール」が適用される。これらの条件を満たしている「特定選手」の保有は1チーム1名と決められており、アービングとデイビスはこの特定選手に該当するため、現状では同じチームでプレーできない。ただ、特定選手の適用期間が今オフで終了するため、2020年7月1日以降はデイビス獲得に動くことができる。

 当初、デイビス獲得の最有力と目されていたのは、ウェスタン10位のロサンゼルス・レイカーズだった。だが、多くの若手と複数のドラフト指名権を提示したものの、交渉は失敗に終わった。その結果、デイビスはペリカンズに残留することに。来季、デイビスとアービングがチームメイトとなっている可能性は大いにある。

 そして今回のトレード・デッドラインを経て、来季もっとも飛躍する可能性が高くなったのが、長年低迷を続けるイースタン最下位のニューヨーク・ニックスだろう。

 まずは、フランチャイズ唯一の希望の星だったクリスタプス・ポルジンギス(PF)をダラス・マーベリックス(ウェスタン11位)に放出。さらに、ティム・ハーダウェイ・ジュニア(SG)やコートニー・リー(SG)といった高額年俸選手も一緒に放出できたことで、サラリーキャップに大きな余裕ができた。

 今オフにFAとなる選手は、ケビン・デュラント(ゴールデンステート・ウォリアーズ/SF)、クレイ・トンプソン(ウォリアーズ/SG)、デマーカス・カズンズ(ウォリアーズ/C)、カワイ・レナード(ラプターズ/SF)、カイリー・アービング(セルティックス/PG)、ジミー・バトラー(SG)と、例年以上に豪華だ。ニックスは今回のトレードによって、大物FAをふたり同時に獲得できるキャップスペースを確保している。

 また、現在のニックスはリーグ最低勝率のため、このままシーズンを終えればドラフト全体1位指名権を獲得できる可能性が高い。今年のドラフトは、「レブロン2世」との呼び声の高いザイオン・ウィリアムソン(デューク大1年/F)の1位指名が有力視されている。ニックスが思い描く最高のストーリーが現実すれば、来季はデュラントとザイオンがスターターに名を連ねる魅惑のラインナップが完成する。

 カンファレンスを制覇できれば、それがエースとの再契約に好影響をもたらすだろう。だが、逆に中途半端な成績に終われば、エースは離脱してチーム崩壊の危機に落ちかねない。勝つか負けるかで、未来は大きく変わる。シーズン前半戦よりもハイレベルなイースタン上位陣の熱戦は必至だ。