AI、ブロックチェーン、仮想通貨、自動運転……新技術が登場し、世界は激変している。一方、日本は低成長、少子高齢化、人口減少に喘ぐ。我々が世界で生き残る戦略とは。新時代の論客2人が熱く議論する。

AI・デジタルテクノロジーが変える働き方

【三浦】シンギュラリティ(AIの性能が地球上の全人類の知能の総和を超える転換点。未来学者レイ・カーツワイルはそれが2045年に訪れると予測した)をきっかけに、「さまざまな仕事をAIが代替する」という議論が活発になってきました。

(左)落合陽一氏(右)三浦瑠麗氏

【落合】AIが現存する職を代替していくことは間違いない。まずは限界費用の面で賃金が高い仕事は機械に代替されていくだろうし、逆に定型的で低コストのボリュームゾーン、たとえば一般事務のような仕事も取って代わられるでしょうね。

【三浦】皆がなくなると思っている仕事よりももっと上の仕事までAIが代替してくれるんだから、皆が思っている「なくなる仕事リスト」というのは、ある意味で不完全かもしれない。そもそも「仕事がなくなる」というのは「みんなが失職する」という意味じゃないですよね。ただし、自分でそんなに判断を下していないレベルのホワイトカラーの人たちが日頃根回しに使っているような仕事の時間というのは、多分、大幅に最適化されてなくなっていくでしょうけど。

【落合】あとは無駄な議論が減っていくんじゃないかと思う、地味に。つまり会社で会議している時間のほとんどって、別に対面型でやる必要ないじゃないですか。対面会議に必要だった人材は、多分、オンラインで会議するようになると減っていく。実際そこで雇用が失われるかというと、そうでもないと思いますけど。

【三浦】そうすると、皆の働き方はどうなっていくのかしら?

【落合】日々の会議や打ち合わせは、多分、チャットツールみたいなものになっていくと思いますよ。こうやって対談するのだって、(取材用の)カメラがあるからで、本当ならテレビ会議で済む話じゃないですか。テレビ会議で済むことがほとんどになってくる感じがしますけどね。

【三浦】皆、職場では出世競争とか、次の人事がどうなるんだろうってことに結構時間を使っているでしょう。でもAIが入っていろいろなものが最適化されたり、いろいろな判断を人間がしなくてよくなったりしたら、皆の情熱が向かう先はどこなのか。私には、ちょっと見えないところがあるんですよね。

【落合】人事評定が自動化されるのはあると思いますよ。人事を自動化するためのツールってデータだけで済むので他のロボットよりはつくるのラクだし安いから。

【三浦】AIなら認知バイアス(目立った特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められること)がかかっているような差別を排除して、最適化してくれる。

【落合】うん。(仕事への)コミットメントが高い人を並び替えるだけだから。

【三浦】だから多分皆、本気で失業すると思っているわけじゃなくて、AIによって自動的に出世や人事が決められるようになったときに、「何に情熱を持って働けばいいんだろう」というのが一番不安な点だと思う。

【落合】なるほどね。でも逆に僕が思うのは、今仕事に情熱を持っている人たちは本当に情熱を持って仕事をしているのだろうか、と。働き方が変わっても変わらなくても、その根底は変わらないというか。皆が不安だというから不安だというような、不安の坩堝(るつぼ)という感じがします。

■個人の価値が見抜かれる社会に

【三浦】AIが社会を変えるかと言えば、多分、結構大きく変えるでしょう。でも今までだって(コンピュータやインターネットの登場などの)大きな変化はあったわけで、その変化に従属してきた人にとっては、今までとあまり変わらない。

【落合】そうですね。(変化に合わせて)労働賃金が最適化されるだけで。「デジタルリバランス」と我々はよく言うんですが、デジタルになることで限界費用や限界効用、資本回収率、経済成長、多様性、現場の回し方など、ミクロからマクロまでもう一回調整されることが多分にあると思ってて。つまり(さまざまなビジネスの)損益分岐点は変わるし、限界費用や賃金の平衡点も変わってくる。この平衡点がズレるっていうのが一番大きな変化だと思います。たとえば極端に賃金が低くなる人は出てくると思いますが、その職業がなくなるかと言えば多分なくならない。それが結論。ただ、その職業をやって生きていけるかと言えば、生きていけない人ばっかりになる職業もある、と。

【三浦】変えられないならね。

【落合】そう、変えられないなら。でも、結局そんな世界では生きていけないから、変えるでしょって話。

【三浦】ビジネスマンにアドバイスするとしたらどうします?

【落合】タコが擬態するようにスーツを着ることでお金をもらっている人とか、イスを温めに会議に出るだけでお金がもらえる人たちっていますよね。でもたとえれば、「皆がサーモグラフィーカメラを付けてたら、擬態は関係なくなる」。擬態力を鍛える前に、自分だけの価値をつくりましょう、と。そこを見抜くのがデジタル社会だと思いますけどね。

【三浦】テクノロジーの変化ということで言えば、AIの進化に加えてブロックチェーン(仮想通貨の基盤技術としても知られる最先端の情報管理技術のこと)が合意を代替していくようになると、落合さんが「擬態」と呼ぶような人たちの中の専門職、たとえば弁護士とか公認会計士とか契約業務にかかわる人たちの、これは裁判所も含めてですけど、仕事がガサッとなくなるというのはあるような気がしますね。

【落合】電子決済が進んでネット上で自動管理されるようになれば、税理士的な計算は必要がなくなる。キャッシュレス化した国で税理士がほぼ消滅したという話をよく聞きますけど、日本も労働効率からの観点でやがてそうなるかもしれない。でも日本は現金を愛しすぎるから、そうはならないかもしれない。それでも、会社からもらうお金が日本円ではなくて、トークン(代用貨幣。お金の代わりに発行されるもののこと)や株や仮想通貨でもらったりすることが今後、非常に増えるんじゃないですかね。

新たなコミュニケーションと価値観の登場

■スカイプがあれば、孤独は感じない

【落合】ネットがどこでもつながるようになってから、僕はどこへ行くにも1人で行くのが好きになりましたね。1人でバーに入って1人でSNSを見ているほうが、誰かと一緒にバーに行くより好き。

【三浦】家族旅行はしないんですか?

【落合】出張に重ねちゃうことが多いかなぁ。家族旅行したら、妻と子供、もしくは妻の母が面倒を見てくれるので3人で行ってらっしゃいして、僕はいなくなります。なるべく一緒にいたくないんですよ、人間と。考えごとしたいから。そこでずっと仕事をしているか、スカイプしている。なんか、フィジカルな人と一緒にいたくないんです。会社とかラボでも誰かと一緒にいたくないんで、ベランダとかにいるかな。

【三浦】1人でいて孤独は感じない?

【落合】別に。あんまり感じない。必要なときに誰かと連絡取れるから。

【三浦】落合さんとか、ホリエモン(堀江貴文氏)みたいな人は何人もいないわけで、そういう人が語る未来の社会像って、ハッキリ言って限定的じゃない?

【落合】そうかなあ。この間、ウチの学生さんがたこ焼きパーティーするって言うから、「楽しそうだね。どこでやるの? 俺も行きたい」って言ったら、「スカイプで」だって。そういうのウチの大学ではよくありますけどね。

【三浦】それぞれ自分でたこ焼き焼いて、スカイプしながら食べる。

【落合】そう。合理的じゃないですか。割り勘する手間も省けるし。ウチは結構皆でハングアウト(Googleのメッセンジャーアプリ)でつながってバラバラに飲み会してますよ。僕も1日3〜4時間はハングアウトをつなぎっぱなしにして、学生と話をしてる。

【三浦】そうなんだ。生身の人間じゃないにしても、私の基準からするとメチャメチャ人とつるんでる気がする。

【落合】だから孤独を感じないみたいな。つるもうと思えばいつでもつるめる状態というか、つるんでなくてもつるんでいるみたいな不思議な感じ。

【三浦】落合研究室ではそうかもしれないけど、皆はどうなのかな。「出社する必要は必ずしもありません。スカイプで十分」みたいな生活に移行するのかな。

【落合】すでに結構、移行しているような気がします。スカイプでつながっていたら、たとえばゼミの時間に美術館にいてもいいわけですよ。そこで見聞きする情報の複雑性は増すし。ただフィジカルにいたほうが得られるものが大きいときもあるから、さすがにゼミは皆来ますけど。ただ、遠隔ゼミのときは皆いる場所がバラバラで、それで結構楽しいこともある。この前、僕と複数の学生がオーストラリアにいて、誰かのタブレットで日本にいる学生とつないで街中でゼミをやりました。明らかに昔より自由になった気がしますね。

【三浦】クリエーティブ界隈はそうかもね。

【落合】まあ全部がそうなるわけじゃないから。でも1割、2割が変わってくるだけで全体のバランスが崩れる。2割変わると残りの8割も変わるじゃないですか。

【三浦】まあ、ある程度はね。

【落合】大学で教えていると、スカイプでやるほうがフェアだなって思うんですよ。

【三浦】認知バイアスが軽減される。

【落合】相手の性別とか年齢とか、関係なくなるから。物事をズバズバと互いに言い合えるのは、声だけの存在になっているからだと思っていて。会議しててもそう思う。相手が不利な条件を突きつけてくるときだけ、対面のコミュニケーションになっている気がするんですよ。だから僕は夕食の席で仕事の話はしない。会食で何か物事を決定しようとしてくる奴は絶対に裏があると思って、そういう仕事は絶対に受けない。

【三浦】そうなんだ(笑)。「落合さーん、よろしくお願いしますよ〜」的な。

【落合】そういうのってあるじゃないですか。あと「1度ご挨拶に伺って」ってやつ。「挨拶に来なくていいよ。時間ないんだから、スカイプにしてくれよ」って思う。そのほうが議論も議事録も早いしね。

【三浦】まあ、そうなのよね。日本の仕事の多くは、正式な依頼のときに「No」と言われないための努力に割かれている気がする。いわゆる根回しね。

【落合】そうそう。わざわざ僕の時間を使ったうえで、何かしようとするプロセスが無駄なんですよ。とはいえ、対面で会ったら断れなくなるかもしれない。でも、対面では断れなくなるって考えたら、対面で会うことをやめますよね、人と。

でもIoT(身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながる世界)が発達して、「不利な交渉をしないためにはスカイプを使おう。オンライン会議を活用しよう」って記事を『プレジデント』が書いたら、多分、皆そうなると思いますよ。僕は意思決定のために高い解像感が必要なときは直接会うし、それ以外の事務的なミーティングのときはオンラインというふうに明確に使い分けているので。

世界で日本はどう生き残るか。日本再興戦略

■なぜGAFAに中抜きされるのか

【三浦】AIやIoT、ブロックチェーンといったテクノロジー覇権という観点で言えば、日本の先行きは厳しいですよね。コミュニケーションを代替する新しい価値を生み出している企業群に日本勢はいないし、合意を代替する新しいブロックチェーンの波が仮にやってきたとしても、多分、日本企業の存在感はない。結局、日本はプラットフォームをつくれないから、アメリカ勢を受け入れるしかない。

【落合】ハードウエアとソフトウエアの違いこそあれ、トヨタもソニーもプラットフォームだと思いますけどね。ただ、彼らが伸びた時代は社会全体が保護貿易的だったと思う。それは中国とて同じことでGAFA(IT分野で巨大プラットフォームを形成して個人データを圧倒的な規模で集める企業群、Google、Apple、Facebook、Amazonの4社のこと)に立ち向かうために、(中国大手IT企業の)アリババやテンセントはグレートファイアーウォール(中国のネット検閲システム)なしでは(中国市場における覇権を)築けなかった。そういう保護貿易的なプロセスを今の日本は何も持ってない。裸で戦場に突っ込んでいけば、GAFAにやられますよ。

【三浦】そうですね。目下の話で言えば、日本とアメリカは物品の貿易協定を結ぼうとしている。「FTA(自由貿易協定)」と呼ばずに「TAG(日米物品貿易協定)」と呼ぶことで国内の批判をかわそうとしているけど、もっと戦略的に考えればあそこにアメリカが強いサービス分野を入れてグリグリ日本が押し込むって戦略もありえたと思う。トランプ大統領が声高に叫ぶアメリカの貿易赤字って物品分野だけなんだから。

【落合】黒字のハードウエアばかり攻め込まれて、日本が赤字のソフトウエアを関税対象にできないのは完全に敗北していると思いますよね。

【三浦】そのあたりは日本社会がまだ追いついていない新しい世界だと思うわけです。それに気付いていないから、日本は潮流に乗り遅れる、いつも。グローバルに決まった勝者を受け入れる形で後追いするしかない。

【落合】保護貿易にしてローカルのコミュニティを育てない限り、国の利潤は外に流出する。我々はデジタル植民地ですよ。iPhoneやアンドロイドのスマートフォンからアップルストアや(グーグルの)アンドロイドストアで物を買っても、3割はアップルやグーグルに自動的に抜かれる。

【三浦】ま、今までも中抜きされてきたんだから、今さらいいんじゃないのってことなんでしょうね。日本の社会的には。

【落合】搾取されるのが好きな国民性は変わらない。

【三浦】政治的な意味も若干交ぜちゃうと、日本の安全保障の脆弱性を生かしてトランプ政権は通商交渉で押し込んできてますよね。それが日本をもう少し自立方向に押しやると思う。

【落合】スマートシティとか、ソサエティ5.0(日本政府が提唱する科学技術政策のスローガン)祭りで中国の都市とコラボしようみたいな動きがちょっと増えてますね。中国との距離が近くなっているプロセスというか、今までとちょっと違ってきている感じはしますね。

【三浦】新しい外交プレッシャーが生じたときに日本が取りうるさまざまな行動が、結局は中国への接近になっていくだろうな、と。でも中国の最大の問題はやはり政治リスク。その意味で、自分たちの体制が信用できないから日本に実物資産を持ちたいという中国人の気持ちは完全に理解できる。

【落合】何なら、こっちに住みたいと思っているのもよくわかる。

■海外から人を吸い寄せ、東京を「第三世界」に

【三浦】むしろ、中国人に実物資産を持ってもらったほうがいいんじゃないかと思うんです。法令はいつでも変えられるんだから、いざとなれば接収できるし。日本は島国だから領土というものがしっかり定義されている。この特徴を生かした戦略を採るしかないと思っていて。「この域内は安定してますよ」「この域内では安定したビジネス取引ができますよ」ということで世界からヒト、モノ、カネを取り込んでいくしかないんじゃないかと。

【落合】あとはダイバーシティーを向上させて各国では住みにくい人たちが集まる第三世界にするというのが1つの考え方だと思います。現にそうなってますよね。東京って今。

【三浦】日本はこれから超少子高齢化になって、生産年齢人口がシュリンクしていくわけです。そういう時代にはこれまでのように日本人から何が何でも税金を取るという考え方ではなくて、この守られている日本の領土内の福祉というか、クオリティ・オブ・ライフに着目した税制に変えていくべきだと思う。人口が減っている日本は最終消費地としての魅力は減退しているけど、住みやすさみたいなものは魅力なのだから、それとセットで戦略を考えていくべきだと思う。

【落合】ヨーロッパ的に考えれば、明らかに日本のブランディングは失敗している。ヨーロッパ的に考えてブランディングを成功させるには、恐らく、減価償却ベースで物事の価値を判断するのをやめなければいけない。たとえば100年経った仏像を宗教法人以外が所有したときに、それに価値があるかといったら、価値ゼロですから。

【三浦】でも、実際日本の家って30年経つと本当に魅力がないわよね。

【落合】それを魅力があるようにするにはどうしたらいいか。たとえば香港のマンションとかってあまり安くなりませんよね。あの感覚が大切で、対外的に価値があるようにどうやって持っていくか。我々日本人にとっては価値ゼロになってしまいそうなものを価値ゼロにしないことによってGDPが稼げる。国外の人に日本の何かを買ってもらう、つまり最終消費地としての日本の魅力というのは、短期間で資産が目減りする制度をやめたときに出てくると思います。

たとえば、実質ゼロ円のコンクリートの壁にバスキア(世界的に有名なアメリカ出身の前衛芸術家。故人)がしゃーっと絵を描いただけで100億円になる。ちゃんとやってこなかっただけで、日本は本来、そういう付加価値をつくっていける国だと思います。

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落合陽一(おちあい・よういち)
メディアアーティスト
1987年生まれ。メディアアーティスト。筑波大学学長補佐・准教授。デジタルネイチャー研究室主宰。Pixie DustTechnologies, Inc.CEO。著書に『魔法の世紀』(PLANETS)、『日本再興戦略』(幻冬舎)など。
 

三浦瑠麗(みうら・るり)
国際政治学者
1980年生まれ。国際政治学者、法学博士、東京大学政策ビジョン研究センター講師。専門は安全保障を中心とした国際政治。テレビ、新聞など各メディアでコメンテーターとしても活躍。著書に『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)など。
 

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(メディアアーティスト 落合 陽一、国際政治学者 三浦 瑠麗 構成=小川 剛 撮影=大沢尚芳)