回転ずし最大手の「スシロー」。2018年に国内出店500店を達成した。近年は郊外のみならず都心型店舗の出店にも力を入れる(編集部撮影)

回転寿司業界最大手の「スシロー」を運営するスシローグローバルホールディングスは2019年2月5、6日の2日間、ほぼ全店にあたる約500店で一斉休業を実施しました。従業員からの要望もあり、働きやすい環境づくりにつなげるため、利用客への影響も考慮したうえで、この時期に一斉休業の形を採った格好です。

成長している小売り飲食チェーンで、このような形での一斉休業はあたらしい取り組みです。そのような取り組みが行われた背景と、それがほかの小売り飲食チェーンにどう広まっていくのかを、4つの視点で考えてみましょう。

その4つの要素とは、

1. なぜ年中無休が普通なのか
2. 飲食小売業界の働き方改革の意味
3. スシローが踏み切れた理由
4. 春節の影響

です。それぞれが飲食業界の抱える課題と裏返しです。まずは1の「なぜ年中無休が普通なのか」から考えてみることにしましょう。

チェーン店が年中無休の理由

近年の小売り飲食の大規模チェーンはほぼどこも年中無休です。業態によってはこれに24時間営業が加わります。なぜ、大規模チェーンは年中無休が当たり前なのでしょうか。その理由は機会損失の回避が重要だからです。

店舗の運営には多額の資金が必要とされます。店舗が開店していても休業していても不動産賃料は同じ金額がかかりますし、金利も365日分とられます。投資効率を考えると、365日全部営業しているほうが、週1日、休業するよりも資本が無駄にならないのです。

これが個人経営のお店であれば、店主も1日休みが欲しいところなので、日曜休業といったお店は少なくないのですが、株式市場から資金を調達して多店舗展開しているような大規模チェーンの場合は極力機会損失を極小化するような経営が求められます。

スシローの場合、年間売上高は約1748億円。単純計算で2日休めば10億円の機会損失が発生します。このような事情から株式を上場しているような大規模チェーンはどこも例外なく年中無休、そして可能であるならば24時間営業を志向する経済メカニズムが存在しているのです。

ところがこのメカニズムにあたらしい制約が出てきました。それが日本全体での人材不足という問題です。

これまでの成功するチェーン店ビジネスでは、儲かるチェーン店フォーマットがいったん確立できたら、あとはいかに高スピードで出店することができるかどうかが企業成長のポイントでした。

ですから投下資本に対する利益率を高め、出店候補地をみつけ、店舗を建築し、従業員をそろえるスピードをどう高めることができるかが、企業成長に差を生み出してきたのです。

ところがこの要因の中の“従業員”が近年、成長の明らかなボトルネックになり始めました。「人がとれない」「人が足りない」。そのことが成長のボトルネックになる。こんな現象が日本中のチェーンで起きています。

これまでは急増する外国人労働者がそのバッファとなって、外食チェーンを支えてきました。ところが、現実にはその外国人労働者が今やとりあいになっている。そして重要なことは、その外国人労働者の間の口コミやSNSで「どこのチェーンが働きやすいか」「どこのチェーンはブラックか」の情報が共有されていることです。

つまり大規模チェーンの場合、すでに外国人労働者の間での待遇をどう改善するかということが経営拡大の生命線になり始めている。そこで働き方改革が求められるというあたらしい構図が起きているのです。

スシローだからできた「一斉休業」

一方でこのような全国一斉休業の動きがスシローから始まったというのはある意味うなずけます。スシローはそういったことができるだけの“好業績の裏付け”があるからです。

スシローは2019年1月現在、15カ月連続で既存店売上高が対前年同月比でプラスになっています。しかも2019年9月期に入ってからその成長スピードは前年よりもさらに高まっています。2019年9月期の直近の4カ月の単純平均では、既存店売上高は8.6%のプラスで、まさに儲かって儲かってたまらない状況です。

一方でその数字をブレークダウンしてみると、既存店客単価の伸びは2.3%増と微増なのに対し、既存店客数が5.1%増ということで売り上げ高成長を支えています。客数の増加が売り上げ成長の主要因だということは、店舗の側から見れば忙しくて忙しくてたまらない状況ということになります。

ここが、スシローが一斉休業に踏み切ったポイントです。業績的には絶好調なので休みを入れる余裕がある。その一方で、店舗は労働量が増加傾向にあるため休みを入れないと現場の疲弊感が強い。こんな状況です。

従来の経営手法であれば、ここでバイトの数を増やし、シフトを工夫することで状況を乗り越えました。しかしあたらしい制約のおかげで、バイトの人数が簡単には増やせない。そうなると現場はより忙しくなってしまって、バイトの間での評判が落ちてしまう。ここが経営の最大のリスクで、「あのチェーンは過重労働がひどい」というような評判が一度ついてしまったら、チェーン店全体での求人活動に大きな支障をきたしてしまうのです。

さて。もうひとつ今回の一斉休業について触れておきたいことがあります。それは休業の日が2月5日に設定されたことです。

この日は中国の旧正月に相当する春節です。香港や上海でビジネスをしている人にはおなじみですが、中国圏ではこの春節には皆が一斉に長期休暇に入り、お店はみんな閉まってしまいます。中国全土では実に4億人が故郷に帰省するということで、駅や空港は大混乱に陥ります。

そして今回、「従業員からの声もあり」という言葉と、この実施日が春節であるという事実には、きっと強い関係があるのだなと思えるのです。なぜなら日本の小売り飲食チェーンで働く中国人労働者の数は、ものすごく増加しているからです。

飲食小売業界における今後の課題

現在日本で働く外国人労働者は約120万人で、これは前年比18%増のスピードで増えています。さらに政府は今後、単純労働者にも訪日ビザの門戸を開く方針です。これ以上の数で拡大していかないと人手不足で産業全体が回らない。それが業界の実情なのです。

その中で起きた春節期間のスシローの全国一斉休業でした。実はスシローは飲食業界でも異端児です。その原価率は50%を超えると言われています。つまり客から見れば高価なネタが安く食べられるのですが、この原価率は変動費です。さらに言えばパートなどの人件費も変動費。そう考えるとスシローは飲食小売業界では休業しても経営へのマイナスが出にくい企業でもあります。

ほかの小売り飲食チェーンは、スシローが始めたこの取り組みにこれだけの意味があるのだということを理解したうえで、「では自社のチェーンはどこまで機会損失を受け入れたうえで同じ問題に取り組むことができるのか」を真剣に悩まなければならない。スシローが始めてしまった以上、同じことを検討せざるをえない、そんな局面に入ってしまったということなのです。