直接肌につけるものは厳選したいという意識が、世界的に高まりつつあります(写真:iStock/zoranm)

メイドインジャパンの復興は、自国からの発信だけでは成しえません。海外から求められるという経済的な理由で、図らずともメイドインジャパンのよさが浮き彫りになるケースもあります。コスメ業界では、今まさにこの現象が起きています。

化粧品の売上は45カ月連続でプラス

資生堂は2019年度中に栃木県大田原市に新工場を稼働させる予定です。

国内での工場新設は、実に37年振りのこと。2020年度には大阪工場での新設・増強を計画しており、生産能力を現在の1億個から2億個に倍増させようとしています。こういった国内投資の背景にあるのが、中国をはじめとした東アジアでの日本製の化粧品に対するニーズの増加です。

日本百貨店協会が発表した「外国人観光客の売上高・来店動向」によると、最新の2018年12月の免税総売上高は約302億円(インバウンド推進委員店の93店舗が対象)。25カ月連続でプラスとなっています。商品の順位は化粧品がトップで、次にハイエンドブランド、食品、婦人服飾雑貨、婦人服・洋品と続きます。

百貨店における化粧品売り上げはインバウンド効果が大きく、「全国百貨店売上高概況」によれば、2018年12月までで売上は45カ月連続でプラスを記録しました。

化粧品が求められている理由は、日本製に対する信頼の高さです。直接肌につけるものはちゃんと選びたいと思う一方、中国の方たちは自国製に不信感を持っています。そこで、日本を旅行した際に購入したり、日本に旅行する知人に買ってきてもらったり、越境ECを利用したりと、さまざまなアプローチで商品を手にしています。

こういった動きを受けて国内の生産拠点を拡大しているのは、資生堂だけではありません。コーセーは、2017年に60億円を投じて群馬工場の生産能力を増強し、同年には中国の生産拠点を中堅化粧品メーカーである日本コルマー社に売却しました。ファンケルやP&Gも増産体制を整えている最中です。

活況を見せているのは、インバウンドだけではありません。商品の品質に惹かれ、帰国後にインターネットを利用して継続的に購入する人たちも多数います。日本化粧品工業連合会によると、2016年には化粧品の輸出金額が初めて輸入金額を上回り、2017年には輸入金額の1.5倍となる約3500億円を輸出しました。


訪日外国人に対して、今後は「何となく日本製がいい」ではなく、さらに強い購入動機を与える必要があります(撮影:今井康一)

ただ、2016年に爆買いが失速して小売業が打撃を受けたように、今後の経済政策や政治動向によっては消費が一気に冷え込むことも起こりえます。

もしそうなると、大量の余剰在庫を抱える恐れもあります。

今は日本製であることが1つのブランドになっていますが、国際情勢の変化にたやすく左右されない価値を確立するためには、ステージをもう一段階高めなければなりません。使い手のことを考え、手間暇をかけたものづくりこそが、本当の意味でのメイドインジャパンと言えます。

日本製の化粧品に注目が集まっている今は、ものづくりに力を入れ、それを発信することでブームをカルチャーに昇華するチャンスです。

石油系原料を一切使用しない地産地消のコスメ

「コスメ業界は水商売」と揶揄されることもあるように、化粧品は成分のほとんどが水と油であり、原価率は10%〜15%だと言われています。

コスメ業界は、資金力のある国内大手4社(資生堂、花王、コーセー、ポーラ・オルビス)が業界シェアの約4割を占めており、ロレアルなど海外大手の影響力も大きい中、宣伝広告費をかけなければシェアは拡大できません。

そんな中で新しい波を起こそうとしているのが、福岡県遠賀郡芦屋町にある「美容薬理株式会社」です。


福岡県遠賀郡の本社を訪れ、商品に込めた想いを金井誠一社長(右)から伺いました(写真:ファクトリエ)

「美容薬理株式会社」の商品は、石油由来の成分が一切使用されておらず、成分は100%自然由来。

「水も極力使っていません。原料のキャリーオーバー(成分を抽出する過程で添加物を使用した原料)も認めていないんです」と、代表取締役社長の金井誠一さんは話します。

「水と油を混ぜる合成界面活性剤、合成香料、色素などを使用していないのはもちろん、防腐剤も天然です。防腐剤を天然由来で開発する際は苦労しましたが、すべて無添加で作られた夢の商品を目指し、試行錯誤を繰り返しました。そこで目をつけたのが、天然ハーブとローズマリーエキスの防腐力です。研究を重ねた結果、防腐値が最も高い部分を抽出し、増幅する技術の開発に成功しました。

植物のビタミンや有効成分を壊さないよう、原料は完全非加熱で時間をかけて抽出しています。抽出溶媒の薬物使用、動物による実験なども一切行っていません。厳しい管理のもとですべての商品を自社生産しています」(金井さん)

昨年発表した新ブランド「SHIZOOJU シズージュ」のコンセプトは、「グルメな肌〜スキンケアは、お肌の食事」。


梅干しや梅酒を作る際に使われる赤紫蘇がコスメの成分として含まれています(写真:ファクトリエ)

化粧品は、口から食べるものと同じくらい安心でなければならないと考え、原料は有機JAS認定を受けた自社農園の植物、そして信頼の置ける提携先の農家が無農薬で育てた植物を使用しています。

成分の1つである赤紫蘇は、地元・芦屋町の特産。地産地消のコスメという新しい切り口でマーケットに参入しています。

ほかにも、100%自然由来にこだわっているコスメブランドは増えており、名古屋に本社をかまえる「株式会社ネイチャーズウェイ」もその1つ。ネイチャーズウェイは、原材料の収穫祭を開催して全国からユーザーを招くなど、独自の手法で顧客の支持を得ています。

日本に逆輸入される啓発と気づき

業界を発展させるためには、大手企業のダイナミックな経営戦略だけでなく、中小企業が別角度からマーケットを活性化させることも重要です。中小企業の新しい取り組みにもスポットライトが当たることを願い、今回ご紹介しました。

現在、化粧品の輸出先は中国、香港、台湾などが上位を占めていますが、本当の意味でのメイドインジャパンを作り、発信していけば、顧客の輪はさらに広がっていく可能性もあります。そしてその流れは、「肌に直接つけるものには配慮しなければならない」という啓発と、「自国の技術を大事にしなければならない」という気づきを、逆輸入する形で日本国内に与えます。

今の訪日外国人消費に左右されない経済基盤を築くことは、メイドインジャパンの復興を意味していると言っても過言ではありません。コスメ業界は、大きな転換期を迎えていると感じています。