香川真司の移籍がようやく決まった。

 ベジクタシュへの移籍決定後、ドイツ語による香川本人のメッセージは、インスタグラム、ツイッター、フェイスブックという世界各地で閲覧が可能なSNSで公表された。ドルトムントでの数々の美しい思い出の写真とともに、香川はこんな風に綴っている。

ドルトムントファン、友人、関係者のみなさま 

 ベシクタシュへ移籍することを決めました。

 今シーズンはチームを助けることはできなかったけど、これまでのサポートに感謝しています。今は新しいチャレンジを楽しみにしています。心からありがとう。ドルトムントが優勝することを祈っています」


1月31日、ベジクタシュ(トルコ)のメディカルチェックを受ける香川真司

 移籍市場が閉まるギリギリのタイミングで、しかもドイツ語で発信したことにより、多くのドイツメディアがこれを大きく報道したのはもちろん、イギリスのメディアも「元マンチェスター・ユナイテッドの選手が……」と報じていた。その扱いから、香川がドイツとイングランドを代表するトップクラブでプレーしてきた選手であることを、あらためて認識させられた。欧州でプレーする日本人選手のなかで、知名度と評価において群を抜いた存在である証でもあった。

 今季の香川はスタートからうまくいかなかった。ロシアW杯があって合流が遅れたことや、ルシアン・ファブレ新監督の就任という事情もあった。

 香川自身、移籍先を模索していた。具体的にどことまでは言わなかったが、昨夏の時点での移籍が十分にあり得たことは、本人も認めている。新監督のもとでは準備期間が重要になるが、それらの要素が絡み合い、これまでになくフワッとしたシーズンインになってしまった。

 香川がマンチェスター・ユナイテッドからドルトムントに戻った2014年以降、チームは新監督と若い選手でシーズンに入り、最初は期待されるものの、やがて失速するというパターンを繰り返してきた。そういう経験をしている香川は、今季も焦らずじっくり構えていた。

 だが、今季のドルトムントは失速することはなく、勝ち続けるうちに、勢いだけではない真の実力と自信をつけていった。バイエルンの不調はあるにせよ、ブンデスリーガで首位を独走し、チャンピオンズリーグ(CL)は決勝トーナメントに進出。ドイツ杯もベスト16に残っている。

 結局、香川のリーグ戦出場は2試合で、先発は第4節ホッフェンハイム戦のみ。7-0と大勝した第5節ニュルンベルク戦は62分からの出場だったが、周囲が貪欲にゴールを狙うなかで、どこか噛み合っていなかった。

 ドイツ杯のウニオン・ベルリン戦では先発して78分まで出場、1アシストを決めているが、試合終了直前に追いつかれたことで延長戦に突入。120分ギリギリでの勝利でアシストは霞んだ。CLへの出場も初戦のブルージュ戦だけで、消化試合でも起用されることはなかった。

 ドルトムントの選手のなかで、年齢だけでなく、クラブ在籍期間の点からもベテランの域に入っていた香川。ファブレ新監督については「リスペクトしてくれてはいる」と表現していた。それは、試合に起用されなくても、むげに扱われているわけではないという意味だったのだろう。それでも、チーム内での立場は難しいものがあるのだろうと容易に想像できた。

 移籍するトルコリーグは、ブンデスリーガに比べればレベルが下がる。たとえば、来季のCL本戦出場権が与えられるのはリーグ優勝の1チームだけで、2位はプレーオフからの参加となる。ドイツからはリーグ戦上位の4チームが出場できる。それくらいの違いがある。

 だからといって、すぐに活躍できるという保証はない。香川の繊細なプレースタイルが、荒々しいトルコでどう生かされるのか。

 報道によれば、シェノル・ギュネシュ監督の熱望による獲得とのことだから、ある程度、出場機会は与えられるだろう。とはいえ、トルコでもシーズン後半戦はもう始まっている。新しいチームに適応するのはそう簡単なことではない。

 ドイツとトルコではまるで環境が違う。サッカーのスタイルも違うし、サポーターはおそろしく熱い。そんななかで、新たな環境を得た香川はそこで再生、復活しなければいけない。まだまだ問題なくプレーできるところを示し、もう一度4大リーグのような舞台に返り咲く――それがベストシナリオだろう。