永瀬正敏 撮影/廣瀬靖士

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「正月は田舎に帰って親父と2人でゆっくり過ごしていました。自分で餅を焼いたりして。いい正月でしたね」

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 昨年、俳優デビュー35年目を迎えた永瀬正敏(52)。渋くて、色気もあり、年を重ねるごとに大人の魅力が増していく──。

 役柄の影響からか寡黙な印象を受けるが、

「昔から“怖い人だと思ってました”とよく言われます。でも、全然(笑)」

 と顔をほころばせ、落ち着いた口調からは優しい人柄が伝わってくる。

役者デビューは「青春の思い出として1本だけ」

『あん』『光』(河瀬直美監督作品)などで日本人初の3年連続でカンヌへ、また昨年は芸術選奨の文部科学大臣賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受け、今となっては日本の映像界で欠かせない存在に。

「16歳でデビューして、ここまであっという間でした。当時はこんなに長く続けられるなんて想像もしてなくて。親とも“青春の思い出として1本だけ”ということで映画に出させてもらったんですけど。大嘘つき(笑)」

 役者を続ける原動力となっているものは何なのだろうか。

「とにかく、最初の出会いが強烈だったんですよね。デビュー作『ションベン・ライダー』で、大人たちが真剣に映画を作っている姿がすごくカッコよくて、そこにいられる高揚感がすごかったんです。甘えも許されない、そして大人として対等に向き合ってもらえたのもうれしかった。当時の“この現場、終わってほしくない”という強い気持ちが、今も続いているんだと思います」

 当時を振り返り、こう言葉を継いだ。

「僕、なんにも自慢できることがないんですけど、“出会い”だけは唯一、人に自慢できるんです。共演者やスタッフ、作品……デビューしてからの出会いには、とても恵まれていると思います」

井浦新、佐藤浩市から受けた刺激

 そんな永瀬が「圧倒的な脚本力」とその世界観に惚れ込み、出演を決めたという主演映画『赤い雪RedSnow』が2月1日(金)より全国公開される。

「とにかくこの脚本に惹かれまくって。この作品に出たい、この世界観に身を置きたいと。面白い脚本でも、途中でメールを見てしまったり、台所にコーヒーを入れに行ってしまったり“途中下車”してしまうことがあるんです。でも今回は一気に読み終えました」

 30年前に起きた少年失踪事件から始まる本作。永瀬が演じる、幼いころに弟を殺された「被害者の兄」と、「容疑者の娘」を軸に話は進み、人間の記憶の曖昧さを訴えかけていく。濃密なミステリー・サスペンスだが、

「役者はこういう役をやるとそれしか見えなくなる。なので、役者チームでごはんに行ったりして、たまには力を抜いたりして。

 山形でロケだったんですが、(共演の)井浦新くんがお店もすべてセッティングしてくれたんです。全部、美味しかった!!」

 現場では、共演者たちからすごく刺激を受けたという。

「新くんは僕だったらこう演じるだろうなっていうところを見事に超えて、それを間近で見ていてゾクゾクしました。

 今回、佐藤浩市さんともご一緒させていただいたんですが、一切、手を抜かず、細部にまでこだわっていて。ぜひ、爪とか歯にも注目してほしいです」

 現在52歳。キャリアも実力も申し分ないが、現場での過ごし方も徐々に変わってきたという。

「若いころは自分のことだけで精いっぱいでした。役者として“その役をまっとうできるか”しか考えられなくて。でも40代に入ってからかな、全体を見られるようになってきたんです。そうすると、これまでとは違った楽しみもできて、今のほうが楽しく役者という仕事に向き合えている気がします」

 今後の目標は?

「まだまだ勉強して、さらにいろんな役をやっていきたいです。落ち着いてはいられないですよ(笑)。今後も攻めていきたいです」

樹木希林さんに思いを寄せて

「希林さんとは、映画『あん』で共演しましたが、現場で“手柄”を取りにいかないんです。すごいお芝居をされて、すごい空気をつくる。それって結局、僕ら周りの人たちのためになる。そういうお芝居ってなかなかできるものじゃない。『あん』以降、希林さんが出ている作品には全部出たいと思っていたくらいです」