数学的思考力を鍛えるには、どうすればいいのか。ドリルを繰り返しても、身につくのは計算力だけ。発想力をつけるためには、パズル問題を解く必要がある。受験のプロが選んだ「算数脳」を鍛える4つのパズル問題を紹介しよう――。

※本稿は、松永暢史、星野孝博『頭のいい小学生が解いている算数脳がグンと伸びるパズル』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■パズル思考が子どもの「算数脳」を磨く

2018年5月、早稲田大学が政治経済学部での入試に数学を必須とすると発表しました。このニュースは受験業界に多くの衝撃をもたらしましたが、そもそも経済学を学ぶのに、解析学は欠かせません。解析学のためには微積分の理解が必要です。経済学部は文系学部ですが、そもそも数学とは切っても切り離せない学問なのです。

これからのAI(人工知能)社会では、答えが一つの問題はAIに任せればよく、人間に求められるのは、さまざまな答えが生じる問題に対し論理的に思考し、問題を解決する能力です。単なる知識ではなく、考える力、発想する力が必要になっていく。早稲田大学政経学部が、受験に数学を必須とした背景には、AI社会で求められる人材像が浮かび上がってきたからに他なりません。

論理的思考力や発想力がある学生を入学させたいという大学の傾向は、早稲田大学に限らず、ますます強まっていくに違いありません。そして、数学的に思考する能力=「算数脳」を子どもの頃から育てることは、受験対策としてだけでなく、社会人としても求められるようになるでしょう。

算数に必要な能力は「反復練習」「概念理解」「論理的思考」の3つに分かれます。「反復練習」は計算スピードや解き方の暗記です。繰り返しの計算練習やワーク、問題集の暗記で身につきます。「概念理解」は小数、分数、割合などの数学的表現を正しく把握することです。たくさんの切り口から得られる情報を、自分の中でまとめて新たな概念を取り込みます。「論理的思考」は、これまでに得た経験や記憶と、問題から読み取れる情報を照らし合わせて、最適な解法を論理的に導き出す考え方を指します。

この3つの能力の中で、算数のテストに最も役立つのは「反復練習」です。これを積めば100点も夢ではありません。学習塾も結果を出すために、覚えやすく工夫した解法を作業的に教えます。

しかし、それでは「算数脳」は育たないのです。学内テストでは高い点が取れても、受験に出る少しひねった初見の問題には手も足も出ないのです。そうした出題者側の裏には、「練習」よりも「思考」に長けた生徒を入学させたいという学校側の意図が表れています。数学的な情報を深く理解した上で、問題の情報を正確にくみ取り、論理的に考えるのが「算数脳」です。

パズル問題は、予備知識を必要とせず、論理性と発想力を追求する問題が多く、「算数脳」を鍛える上でとても役立ちます。まずは、皆さんの「算数脳」のレベルを検証してみましょう。

【答え】
・1問目:A=4、B=3、C=2、D=1
・2問目:A=1、B=6、C=8、D=2、E=7、F=5、G=3、H=4

■解法を見つけようと考えることが大切

いかがでしたか? 1問目はすぐに解けても、2問目の答えに確信が持てた人は少ないと思います。

ここでチェックポイントです。皆さんはどのように考えましたか? 「なんとなく」では「算数脳」不足です。1問目はなんとなくでも解けますが、頭の中のイメージには限界があります。そこで「どう考えれば解けるのか」と考えられた方は、「算数脳」の持ち主といえます。

良い解法が見つからなくても、解き方を考えることが必要です。考え方にはいくつかありますが、その一例を、2問目を使って説明します。

Aが一番上にあることはすぐわかります。次にAの下がどうなっているかを考えたくなりますが、大事なことは、残りの紙に着目することです。

B〜Hの中で、次に正方形になりうるのはどれか、と考えます。図1のグレーの一部分を足して正方形を作れるのはDだけです。つまりAの下にあるのはD以外あり得ません。次にAとDを除いた図2を見てください。

同じようにグレーの一部分を足せば正方形になるのはGだけです。ほかの紙はすべて別の紙と重なっているので、正方形を表出させることはできません。次に、A、D、Gを除いて……というように、考えていけば、一番下にあるCまでたどり着けます。

このように、解法を見つけることで、どんなに難しい類題でも解けるようになります。大切なことは、解法を覚えることや正解を出すことではなく、解法を「考える」ことです。これが「算数脳」なのです。この脳力は、1時間程度のテストで良い点数を取ることを重視した算数学習法では、なかなか身につけることはできません。

松永 暢史、星野 孝博『頭のいい小学生が解いている算数脳がグンと伸びるパズル』(KADOKAWA)

「算数脳」を鍛えるには、答えを出すことに執着せず、どのように解くかをじっくり考えることです。たとえその後答えを見てしまったとしても、解説の理解力は深まり、納得することで、より記憶に刻まれ、次に活かせます。

「算数脳」が必要とされる場面は、受験だけではありません。インターネットやスマホの普及で、人は何かを記憶する必要がなくなりつつあります。社会に出てから必要とされるのは、経験と状況から、問題や課題を解決する方法を導き出す能力です。そのために、「算数脳」が必要なのです。面倒だと思わず、考えることを楽しむことが、「算数脳」を育てるコツなのです。

■小学生が解いているパズルに挑戦!

では、皆さんも、私のパズル教室で小学生が解いているパズルに挑戦してみてください。

【問題1】○の数え方
図表Aの○は全部でいくつあるでしょう。数えるのではなく、計算で答えを出してください。
【答え】 61個
【解説】
○の数を数えれば、61という答えにたどり着くことはできるので、試験でこのまま出題されることはありません。実際は、この問題を例題として、「では、もっと○を増やし、外側の1列が100個のとき、全部で○はいくつになるでしょう」という形で出されます。そうなると数えている場合ではありません。どこまでシンプルに考えられるかが、解答に要する時間を節約し、計算ミスをなくすポイントになります。上記と同じ方法で考えると、

100×100+99×99=19801

たとえ、数がいくつになろうと、計算式はとてもシンプルです。正解を出すことは試験では重要ですが、それだけで終わってはいけません。応用が利かない力技はすぐに壁にぶつかります。規則性や法則を見つけ出そうとする考え方は、「算数脳」に欠かせない思考術です。
【問題2】 世界旅行
図表Bは世界中を結ぶ飛行機の航路の図です。日本を出発してすべての航路を1回ずつ通るように続けて飛ぶと、最後にどの国に到着するでしょうか? 同じ航路を2回通ってはいけません(国は何度でも通れます)。
【答え】 エジプト
【解説】
はじめに考えてほしいのは、「どんな順番で飛んでも、必ず同じ国に到着するだろう」と予測することです。つまり、通り方は複数でも、答えは1つだと仮説を立てることです。
答えが1つならば、何か特別な国があるはずです。注意して見ると、国によって航路の数が違うこと、2本、4本、6本の国が多い中、日本は5本、エジプトが3本であることに気づきます。ここまでわかれば、理屈はともかく答えはエジプトだと予想できるでしょう。

しかし、これは「答えは1つ」という仮説を基にした答えなので、理屈も必要です。答えが合っているなら、2、4、6(偶数)と3、5(奇数)の関係にヒントがありそうです。
偶数は2で割れる数なので、「入る」と「出る」が同じ数になり、その国に入っても必ず出ることになります。奇数なら「入る」「出る」「入る」となり、「入る」で終わります。つまり、奇数の航路の国は、そこで行き止まりということなので、答えは航路が3本の国、エジプトとなります。

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松永 暢史(まつなが・のぶふみ)
教育環境コンサルタント
1957年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。「受験のプロ」として音読法や作文法、サイコロ学習法などを開発し、執筆や講演などで活躍。教育や学習の悩みに応えるV‐net主宰。著書に『新 男の子を伸ばす母親は、ここが違う!』『ズバ抜けた問題児の伸ばし方――ADHDタイプ脳のすごさを引き出す勉強法』『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』など多数。
星野 孝博(ほしの・たかひろ)
頭脳トレーニングスクール「クロノス」主宰
1970年生まれ。東京理科大数学科卒業。一般社団法人日本パズル協会代表理事、公益財団法人数学検定協会理事。日本唯一の教育的メカニカルパズル専門の株式会社クロノス代表取締役。共著に『大人に役立つ! 頭のいい小学生が解いているパズル』など。

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(教育環境コンサルタント 松永 暢史、頭脳トレーニングスクール「クロノス」主宰 星野 孝博 写真=iStock.com)