データ収集とその活用が、現代におけるリテール戦略の成功と失敗のキーとなることは、長い間リテーラーたちも自覚してきた。いま、彼らはこの分野でさらに賢くなろうとしている。

長年、リテーラーたちは手に入るデータは、どのようなソースでも手に入れようとしてきた。その結果、膨大な量のデータを収集していた。しかし、いまでは、データの量を増やすことが目指すべきゴールではないと理解している。その代わりに彼らが欲しがっているのは、ハイクオリティなデータである。受動的に収集されたものではなく、特に消費者から能動的に与えられる種類のデータが、いま求められているゴールだ。

「データ量の多寡ではなく、データの質か量か、がいま問われている」と語ったのは、コールハーン(Cole Haan)のグローバルデジタル・コマース部門シニア・バイスプレジデントであるジョシュ・クレポン氏だ。先日、ニューヨーク市で行われた全国リテール連盟ビッグショーのイベントでの発言だ。

「必要なのは正確なデータ」



いまやブランドは膨大な量のデータを抱えているものの、その多くは不正確であったり、質が低いものとなっていたり、または分類するのに膨大な仕事量を必要とするものだ。米DIGIDAYのリサーチによると、調査対象となったブランドとリテーラーのうち82%は、サードパーティデータは信頼できないと考えている。ダイレクトな、消費者から自ら報告されたデータが、より価値のあるデータとして考えられているのだ。

「今日、我々はデータの海で溺れている状態だ。Googleアナリティクスの無限に続くウサギの巣穴に吸い込まれて、何時間も費やし、トレンドを追いかけ、結果として何にもつながらないということが起きている。必要なのは正確で実際に活用できるデータだ。データは膨大な量が存在しており、すべてが実用的とは限らない」と、ボストン・リテールパートナーズ(Boston Retail Partners)のシニア・バイスプレジデントのジェフ・ネヴィル氏は言う。

多くのブランドにとって、データのソースとしてもっとも良いのは、受動的に収集されたデータではなく、顧客自身が自ら提供してくる種類のものだ。フルビューティ・ブランズ(FullBeauty Brands)のeコマース部門シニア・バイスプレジデントのクリスティイアン・ペンダーヴィス氏は、ユーザー発信のコンテンツは、ユーザー自身が報告しているデータと同じであり、極めて便利であると指摘する。フルビューティ・ブランズは、フルビューティ(FullBeauty)、ジェシカ・ロンドン(Jessica London)、そしてエロス(Ellos)といったプラスサイズの女性向けファッションブランドグループだ。プラスサイズの女性向けブランド、グウィニー・ビー(Wwynnie Bee)も先日、米DIGIDAYの兄弟サイトであるGlossy(グロッシー)に、顧客からのダイレクトなフィードバックの方がより信頼できるため、それを活用して判断を下していると語った。

同様に、レント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)も、彼らの顧客の50%が、積極的にフィードバックを提供してきていると報告しており、それによりそれぞれの顧客に対する正確かつ有効なデータポイントを数百万も得ているという。

時間と資金の節約のため



「クリーンで、正確なクオリティの高いデータを常に持つことができれば、私の仕事は圧倒的に楽になるだろう。我々の顧客に関するデータは大量に存在しているが、その情報が正しいものかどうか確かめるだけでも膨大な作業量がかかる。データの質が良くなることはデータの量が増えるよりも価値がある」と、フルビューティのペンダーヴィス氏は言う。

具体的かつ信頼できるデータが手に入ることでブランドたちは、時間と資金を大きく節約することができる。フルビューティは年間を通してカタログのデザインと印刷、そして郵送に膨大なりソースを注いでいるとペンダーヴィス氏は言う。その効率性に結びつく正確なデータは持っていない。

「我々が抱える女性ブランドのなかで最大のブランドは今年、60のカタログを販売する。それは1週間に1冊以上だ。これらのカタログの作成には、膨大な組織としての作業量を必要とする。我々は顧客からのフィードバックを求め、どれくらいの顧客がこのカタログから実際に商品購入を行っているか、どれくらいが活用していないか、を見極めようとしている。カタログが販売の原動力となっているのはどのような層なのか、そして購買の価値が高いものはどこなのか。マシーンラーニングは、デジタルにおけるこういった取り組みを実世界へと結びつける助けとなる。印刷の量を10%だけでも減らすことができれば、それは何百万というお金が戻ってくることになり、それを別のところに投資することができる。

Danny Parisi(原文 / 訳:塚本 紺)
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