海賊版サイト対策強化の裏にTPP11発効での著作権法の一部改正! 懸念される違法ダウンロード摘発のXデー

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2019年は、新元号の発表やラグビーワールドカップ開催など、ビッグイベントが目白押しで、来年には東京オリンピック、アイドルグループ「嵐」の活動休止も控えており、いやおうなく注目が集まる一年である、

しかし、ネットユーザーにとって一足早く昨年末に極めて重要な出来事があったことをご存知だろうか?

それは、「TPP11(環太平洋パートナーシップ協定)」の発効だ。
当初の12ヶ国から米国が離脱し、残る11ヶ国で交渉・署名が行われ、2018年12月30日に発効した。

実はこれに伴い、国内で著作権法の一部改正が施行されたのだ。
改正内容には「著作権の保護期間が70年に延長」なども含まれる。
しかし今回特に注目したいのは
「著作権等侵害罪の一部非親告罪化」
である。

「著作権等侵害罪の一部非親告罪化」にもりこまれている非親告罪化は、
近年はびこる海賊版サイトへの国際的な対策という側面が強い。
また、それに歩調を合わせるかのように、国内では著作権侵害に対する規制の動きが慌ただしくなっている。


■そもそも「非親告罪化」とは、なに?
従来の著作権侵害は、公訴提起に権利者の告訴が必要な「親告罪」であった。
しかし、今回の改正では以下の3要件をすべて満たす場合に限り、権利者の告訴がなくても公訴提起ができるようになったのだ。

[1]侵害者が,侵害行為の対価として財産上の利益を得る目的又は有償著作物等(権利者が有償で公衆に提供・提示している著作物等)の販売等により権利者の得ることが見込まれる利益を害する目的を有していること

[2]有償著作物等を「原作のまま」公衆譲渡若しくは公衆送信する侵害行為又はこれらの行為のために有償著作物等を複製する侵害行為であること

[3]有償著作物等の提供又は提示により権利者の得ることが見込まれる「利益が不当に害されることとなる場合」であること

(引用元:文化庁「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備」)


■違法ダウンロードや二次創作は親告罪のまま
今回の改正では、違法ダウンロードや同人誌などの二次創作が非親告罪の対象になるかが注目されていたが、これは見送られた。
公訴には従来どおり、権利者からの告訴が必要となる。

ここからも今回の改正が、原作をそのまま利用する海賊版が非親告罪化のターゲットであるのは明らかだ。


■新年早々、ブロッキングの法制化は断念
海賊版サイトによる著作権侵害が深刻化する中、政府は2018年4月に「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」をとりまとめた。

「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」の内容は、
海賊版サイトへのアクセスを強制的に遮断する「ブロッキング」の方針を示しており、これをベースに法制化を検討してきたのだ。
なお、この時点では3つの海賊版サイト(「漫画村」「MioMio」「Anitube」)が名指しで規制対象とされた。

しかし、憲法第21条第2項の「通信の秘密」との兼ね合いから、法制化反対の意見が多く、賛成派と真っ二つに別れた議論は終始平行線を辿った。結論が出ない中で、最終的に今年1月15日には法制化を断念することが報道されている。


■槍玉に挙げられたあのサイトがまさかの復活!?
ブロッキングの法制化が見送られたため、今後は広告出稿を抑制するなどの方法で対策するというが、効果はあまり期待できそうにない。

政府の「緊急対策」で名指しされた3サイトのうち、「漫画村」は閉鎖されたものの、一時閉鎖されていた「MioMio」と「Anitube」は、何事もなかったかのように復活しているからだ。

この2サイト以外にも、筆者が把握しているだけで大量の海賊版サイトはいまだに存在している。
現在(記事執筆時点)でも、漫画やアニメはもちろんだが、映画、ドラマ、音楽などあらゆる違法コンテンツが公然と公開されている状況である。


今後はTPP11の非親告罪化を軸に、国際的な強調で運営者の特定と訴追を地道にしていくしかないだろう。ただし、確信犯的な海賊版サイトの多くは運営者が起訴されても、すぐに復活、別サイトで再開するなどなかなか一筋縄ではいかない。
また、サイトに違法コンテンツの削除依頼を出しても、運営者に無視されることも多い。

ブロッキング法制化は通信の秘密の制約に配慮して見送られ、アップロード側の抑止対策にも手詰まり感が増した。

そうなると、次の手ではダウンロード側の規制に目を向ける可能性もでてきそうだ。


「MioMio」はブロッキングが検討された直後に一時閉鎖されたが、数ヶ月後には復活。アニメ、映画、ドラマ、バラエティなど、違法アップロードされた日本のコンテンツが大量に掲載されている。



「Anitube」はブロッキング問題以降長く閉鎖されていたが、2018年末には復活が確認された。相変わらず大量のアニメが違法アップロードされている。



■違法ダウンロードの罰則対象が拡大? 
文化庁は、違法ダウンロードの罰則対象を拡大する方針を固めた。
「入口がダメなら出口」というのは安易だが手法として正当ではある。

現在は音楽や動画だけが罰則対象だ。
しかし海賊版サイトの被害の深刻化を考慮すれば、漫画、雑誌、写真、小説、論文なども今後、対象に含めるという内容だ。

1月25日には、文化審議会の小委員会が開かれ、最終報告案が取りまとめられた。
罰則対象には、
・海賊版サイトに掲載されているもの
・個人ブログやSNS上の違法著作物
これらも罰則対象に含める予定となっている。

これだけでもかなり対象範囲が広がっている。
さらに注目したいのが、海賊版サイトへのアクセス誘導する「リーチサイト」にも刑事罰が検討されていることだ。

これが実現すれば、従来は難しかった「まとめサイト」の摘発も容易にできることになるからだ。

もはやはりふりかまわない感のある規制方針に、社会の閉塞感や息苦しさを感じる人も多いことだろう。そうしたなか、罰則対象の拡大を盛り込んだ著作権法の改正案は1月28日から始まる通常国会に提出予定となっている。


リーチサイトの例。テレビ番組名と映像が見られるサイトへのリンクを掲載している。一部のサイトでは、ご丁寧にダウンロード用ツールの紹介までしている。



そもそも違法ダウンロードの刑事罰化は、2012年10月から施行された。
幸い現時点まで逮捕者は一人も出ていない。

しかし、今回のように海賊版サイト対策を名目に罰則の拡大、強化を図る動きは継続されていくと思われる。

最悪の場合、海賊版サイト対策にために、見せしめ的に利用者が摘発・逮捕される事態が起こらないとは、もはやいえないだろう。
そうならないよう、「MioMio」「Anitube」のような海賊版サイトにはくれぐれも近づかないよう注意して欲しい。


執筆:しぶちん(ITライター)