「相手がどこであれ、攻撃動作に入った時、守備の準備を怠らずに戦えるか。それはフットボールの鉄則だ。攻守のバランスを見直すいい機会になっただろう」

 スペインの目利き、ミケル・エチャリ(72)はアジアカップの日本の初戦、トルクメニスタン戦について所見を述べている。

 エチャリは、ヴィッセル神戸を率いるフアン・マヌエル(ファンマ)・リージョの師匠にあたる。そのスカウティング能力の高さは他を圧倒する。指導者に転身したウナイ・エメリ(アーセナル)、シャビ・アロンソ(レアル・マドリードU-14)、ホセバ・エチェベリア(テネリフェ)なども師事してきた。

 そのエチャリは、3-2と辛勝に終わったトルクメニスタン戦をどう評価したのか――。


トルクメニスタン戦で2ゴールを挙げた大迫勇也

森保一監督は、これまでと同じ4-2-3-1の布陣を選択。ボールをつなげ、優勢に試合を始めている。攻撃の意欲は高かった。

 一方、トルクメニスタンは5-4-1という布陣でリトリート、守備を固めてきた。ただ、前線の3人の選手はフィジカルコンディションが高く、速さを備え、カウンター狙いは明らかだった。実際、人海戦術で分厚く守った後、速攻を用いて日本を脅かしている。

 日本は柴崎岳(ヘタフェ)、冨安健洋(シント・トロイデン)のボランチが遠目からシュートを狙う。焦る必要はなかったが、全体が前がかりになってしまった。我先へと敵ゴール前に殺到し、8人もの選手がゴールに近づく場面もあった。これでは攻守のバランスが崩れるのは必然だった。

 中央に人を集めたディフェンスに対し、少々、正直すぎた。攻撃をカットされた後、中盤の中央、ディフェンスラインの裏、脇のスペースは空いていた。そこを有効に使われ、いたずらにピンチを迎えている。

 日本の選手はポジショニングが悪く、相手に優位を与えていた」

 前半27分、日本はアルスラン・アマノフのミドルシュートを浴び、先制点を奪われている。

「数的優位な状況だったにもかかわらず、守備の準備、反応が悪く、失点を喫している。GK権田修一(サガン鳥栖)も、シュートを予測できていない。”まさか”という雰囲気がそこに象徴されていたが、サイドではボールを取り切れず、ボランチも寄せ切れていなかった。

 その後も日本はリズムが悪かった。正面を破られたシーンがあったが、権田がファインセーブで防いでいなかったら、試合の天秤はどう傾いていたか。日本はボールを持っていたものの、主導権を握ってはいなかった。堂安律(フローニンゲン)、原口元気(ハノーファー)がサイドからカットインし、決定的なプレーをしようという試みは悪くない。しかし、渋滞を起こしている場所に突っ込んでいくだけで、罠にかかっていた。

 守りを固めた相手をどう攻めるか。それは大事なポイントである。しかし、そのために守備の準備、バランスを失ってはならない。敵が強くても、弱くても、だ」

 しかし、後半に入って日本は地力を見せる。大迫勇也(ブレーメン)、堂安のゴールで3点を奪い返した。

「誤解されがちだが、手数をかける=得点が入る、という式は成り立たない。事実、後半11分に原口から大迫へ絶好のタイミングでパスが入ったとき、大迫は周りを囲まれながら、高い精度のプレーを見せ、ほとんどひとりでシュートを決めている。

 それから5分も経たず、日本は逆転に成功した。吉田麻也(サウサンプトン)のロングボールを原口がヘディングでつなぎ、長友佑都(ガラタサライ)がゴールラインぎりぎりで折り返したクロスを、大迫がファーポストで合わせて2点目。簡単なコンビネーションを使い、奥深くまで崩すことによって、軽やかにゴールを決めた。原口はシンプルな技術で有効な選択をしているし、長友は速さで深さを作った。日本らしさが出たプレーだった。

 また、後半26分にはゴール前での壁パスから堂安が左足を振り抜き、3点目を決めている」

 攻撃は力の差を見せたが、日本は終盤、1点差に迫られることになった。

「守備のバランスの悪さに関しては、修正ができていなかったということだろう。後半34分、自陣で不用意にボールを奪われた後だった。センターバックの吉田、槙野智章(浦和レッズ)は左右に開きすぎ、中央のスペースを敵に与えている。結果、最短距離での独走を許してしまった。あえて厳しく書くなら、GK権田も、もう少し我慢できたら、相手のドリブルは外に流れていたのではないか。

 問題はチームとして、守備の準備がおろそかだったという点だろう」

 ミスを見逃さず、改善点も明らかにしたエチャリは、この試合を締め括っている。

「初戦で勝利を飾れたことは収穫だろう。大会の滑り出しは簡単ではない。日本には十分に優勝を狙えるチーム力がある。ただ、どのような相手かにかかわらず、攻守のバランスを失ってはならない。いい攻撃は、いい守備によって生まれるのだから」

(オマーン戦に続く)