日産自動車「ノート」e-POWER MEDALIST ブラックアロー(写真:日産自動車ニュースルーム)

カルロス・ゴーン前会長の逮捕・起訴で揺れる日産自動車に明るいニュースが流れた。

日本自動車販売協会連合会(自販連)が1月10日に発表した2018年(暦年)の乗用車ブランド通称名別新車販売ランキング(登録車対象、軽自動車は除く)で、日産のコンパクトカー「ノート」が約13万6300台でトップに輝いた。2位のトヨタ自動車「アクア」(約12万6500台)に1万台近い差をつけ、2016〜2017年の王者だったトヨタ「プリウス」(3位、約11万5400台)も抑えた。

暦年1位は「ブルーバード」以来の快挙

日産は年度(4〜3月)ベースでは1968年度に「ブルーバード」で登録車販売のトップを飾ったことがあるが、暦年ベースは過去に例がなかった。登録車と軽自動車を合わせた2018年暦年の新車販売ランキングでトップだったホンダの軽自動車「N-BOX」(約24万1800台)には及ばなかったものの、日産として史上初の「悲願」がついに達成された。その割にこのニュースが目立たないのは、やはりゴーン事件の影響か。日産も本音はもっと大々的にアピールしたいに違いない。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

振り返れば一昨年の2017年暦年はプリウスが約16万0900台で2年連続の1位。ノートは約13万8900台で2位に甘んじていた。デザイン面の不評、ハイブリッド車の多様化、競合激化などの理由から失速していたプリウスに迫っていたノートだったが、2017年秋に発覚した日産の完成検査不正問題の影響で1カ月近く生産・出荷が止まったことは痛かった。

そして2018年上半期はノートが登録車1位。日産にとって1970年上半期の「サニー」以来、48年ぶりとなる快挙だった。かといって、2018年後半にかけてノートの地位が盤石だったわけではない。アクアという壁が立ちはだかったからだ。

プリウスと同じくハイブリッド専用車のアクアは2018年4月に一部改良を施し、特別仕様車も新たに設定された。現行ノートよりもさらに古い2011年末のデビューながら、トヨタはアクアをカローラ店、ネッツ店、トヨタ店、トヨペット店といったレクサス店を除くトヨタ国内4系列すべての併売車種として、5000店ともいわれるネットワークを駆使して拡販した。国内販売店が2000拠点程度とされる日産・ノートが、アクアに逆転される可能性もあっただろうが、その猛追をかわした格好だ。

現行ノートは2012年7月にデビュー。2016年11月には、新開発のパワーユニット「e-POWER」を導入した。ノートe-POWERはノートのベースモデルと同じ1.2L直列3気筒エンジンに、電気モーターを組み合わせている。ただしエンジンは走行には使用せず、発電機を回すことに徹しており、前席下に収めたリチウムイオンバッテリーに貯蔵し、この電力で走る。後席や荷室まわりはガソリン車のノートと共通なので、広さや使いやすさはそのままだ。

日本ではエンジンを発電のみに使用するこの方式を、「シリーズ式ハイブリッド」と呼ぶことが多い。ハイブリッドとは、2つの動力源を持つ車を指し、その一種であるが、エンジン、モーターを状況に応じて駆動力に使う「パラレル式ハイブリッド」とは異なる。ちなみにプリウスやアクアなどのトヨタ車のほか、ホンダ「フィット」などのハイブリッドがパラレル式を採用している。

クルマ好きの年配層からも注目

ここ最近立て続けに、筆者の周りにいる70〜80代の人から「ノートe-POWER」について相次いで聞かれる機会があった。「2018年上半期登録車販売ナンバー1」というキャッチと、「充電いらずの電気自動車」といったキャッチフレーズによる車種紹介が、クルマ好きの年配層に注目されたようだ。

この世代のなかには新車に乗り換えるときに、「俺にとって人生最後の新車購入になる」などと冗談交じりに話す人がいる。半分本音的な部分もあると考えると、クルマに興味のある人なら、「それなら最新トレンドのクルマに乗っておきたい」という気持ちもあるようだ。

ノートだけでなく程度の差こそあれ多くの人気車といわれるクルマは、「レンタカーやカーシェアリングなどのフリート(法人向け)販売や、ディーラーなどが自社名義で登録したうえで一定期間を置いて中古車市場に流す、『登録済み未使用車』が目立つ」という自動車販売業界関係者の声がある。筆者が定点観測している中古車店でも、2018年はアクアの登録済み未使用車よりも、ノートのそれのほうをよく見かけたし、レンタカーやカーシェアリングステーションでも、アクアよりもノートが目立っていた印象もあった。

とはいえ、自社登録やフリート販売強化はあくまでも“上積み”でしかない。ちゃんとクルマとしての一般ユーザーの実需がなければ登録車年間トップはとても取れない。e-POWERの目新しさが、プリウスやアクアに勝ったのは間違いない。

ただ、冷静に考えると日産にとって手放しで喜べる状況でもない。自販連の2018年(暦年)の乗用車ブランド通称名別新車販売ランキングを見ると、トップ10に入った日産車はノートとミニバン「セレナ」の2車種のみ。ほかはトヨタが7車種、ホンダが1車種。ホンダよりはヒット車種を出しているものの、トヨタには大きく水をあけられている。

かつてはプリウスやアクアがトヨタのハイブリッド車の代名詞だったが、今や「C-HR」をはじめとするSUV(スポーツ多目的車)や「ノア」「ヴォクシー」などのミニバン、「カローラ」「ヴィッツ」などの定番車種にもハイブリッド仕様が設定されている。

ノートに需要が集中せざるをえない事情

対して日産には手頃なサイズのエコカーが少ない。車種のモデルサイクルが軒並み長期化しているからだ。コンパクトカーでいえば現行「マーチ」は2010年デビュー、「キューブ」は2008年デビューと、基本メカニズムが古すぎるし、目新しさも薄れてしまっている。

同じく廃版になった「ウイングロード」や「ブルーバードシルフィ」などのオーナーも日産車の中で乗り換える選択肢が少ない。日産ユーザーが手頃なサイズの新車を買おうと思ったら、ノートぐらいしかほどよい選択肢がない。つまり、ノートに需要が集中せざるをえないという事情もノートがよく売れている背景にある。

現行ノートにはデビュー時から、「メダリストシリーズ」と呼ばれるグレードが設定されている。標準のノートよりも上級イメージを持たせた仕様ながら、これは廃版になった「ティーダ」ユーザーをノートへと振り向けさせるために設定されたと、自動車販売業界では言われている。

ティーダは2004年に初代がデビュー。海外市場では今でも3代目がラインナップされているが、日本国内では2012年に3ナンバーサイズの2代目デビューとともにラインナップから外れた。ティーダは5ドアハッチバックと「ティーダ・ラティオ」と呼ばれる4ドアセダンが日本国内ではラインナップされ、日産のヒット車種だった。

ティーダユーザーにしてみると、乗り換えの受け皿となる同クラスのモデルがほとんど見当たらないことから、現行ノートにメダリストシリーズがラインナップされたという流れに見える。

2012年に登場した現行ノートが、ここへ来て登録車販売の年間王者の座を獲得したことは、確かに快挙だ。ただ、日産の国内販売という視点で見ると、それはアンバランスな状態でもある。