男子バスケットボール日本代表・比江島慎インタビュー

 2017-2018シーズンのBリーグMVPを獲得したシーホース三河(当時)の比江島慎は、オフシーズンに大きな決断をした。海外挑戦を最大限サポートするという条件で2018年7月19日に栃木ブレックス移籍が発表されたことに続き、8月2日にはオーストラリアのプロバスケットボールリーグ「NBL」のブリスベン・ブレッツへの移籍が電撃発表された。

 28歳にして、初の海外挑戦――。日本代表のエースであり、日本バスケットボール界を背負って立つ男が海外でどんな生活を送っているのか。現状を知るために、オーストラリアへと飛んだ。

 しかし、2019年1月5日、比江島のブリスベン・ブレッツ退団がチームより発表される。海外挑戦半ばでチームを去ることになった心境について、現地で話を聞いた。(インタビュー実施後の1月9日、栃木ブレックスが2018-2019シーズンの比江島との契約合意を発表した)


比江島慎をブリスベン・ブレッツの練習場にて撮影

―― まずは、退団することが決まった時の心境を聞かせてください。

比江島慎(以下:比江島) ブリスベン・ブレッツを退団することになり、悔しさもありますが、オーストラリアで海外挑戦をさせていただいたことに感謝しています。

 自分のバスケットボール人生で一番の目標は、2019年のワールドカップ中国大会と、2020年の東京オリンピック。個人としても、チームとしても、世界を相手に戦えることを証明したい。自分の挑戦はまだ始まったばかりなので、このオーストラリアでの経験を活かし、これからも英語やコミュニケーションを学んでいくつもりでいます。

 今後のバスケットボール人生、どのようなキャリアを積んでいくかはわかりません。ですが、失敗にくじけず、目標に向かって前向きに挑戦し続ける姿を、ファンのみなさん、そして将来を担う子どもたちには見てほしいと思っています。

―― 昨シーズンはBリーグでMVPを受賞するなど、目覚ましい活躍を見せた直後にオーストラリアリーグへの移籍を電撃発表されました。海外挑戦を考えるようになった経緯を教えてください。

比江島 日本国内やアジア大会、アジアの強豪チームにはある程度、通用するという自信はついていました。しかし、リオデジャネイロオリンピックの世界最終予選(2016年7月)で世界のチームと初めて戦った時、チェコとラトビアに自分のプレーが通用しなかった部分が見えたので、そのころから「海外のチームで経験を積んでみたい」と思い始めました。

 また、ワールドカップや東京オリンピックの開催が決まったことで、そこまでにピークを持っていきたいとも感じました。オーストラリアがアジア枠に加わってくれたおかげで、ワールドカップ予選で世界のレベルと戦うことができるようになった。そこでは、通用した部分もあるし、しなかった部分もある。そういった経緯もあったので、世界を見てみたいと思って海外移籍を考えるようになりました。

―― もともと海外やNBAが好きでした?

比江島 海外が好き、ということはないです。日本が一番好きです。ただ、海外が好きというよりは、成功するために海外でやってみたいとは考えていました。もちろん、NBAは好きですよ。

―― なぜ、オーストラリアを選んだのですか?

比江島 オーストラリアリーグにはアジア選手枠があるのを耳にしたので、自分も契約してもらえるんじゃないかという考えがありました。どこの国でも全然よかったんですけど、ワールドカップ予選で対戦したというのも大きいですし、契約できる可能性が一番高いと感じたので、そういった経緯からオーストラリアを選びました。

―― 契約に至るまでの経緯を教えてもらえますか?

比江島 2017年11月にワールドカップ・アジア地区1次予選をオーストラリアのホームでやった後、母に「オーストラリアに行ってみたい。アジア人枠があるらしいから」と伝えたら、いろんな人に聞いたり調べてくれたりして、オーストラリアへの道を切り開いてくれました。また、後押ししてくれる人たちの協力もあり、契約できることになりました。

―― オーストラリアに来てみて、日本とのバスケの違いはどうでした?

比江島 ほぼ全部、違っていましたね。個人のスキルや運動能力、シュート精度、フィジカルなどはもちろん日本より上なんですが、それらに頼らずしっかりとチームバスケットもします。いろいろな細かい決まりごとがありますし、組織的なバスケをするので、最初に来た時には慣れるまでに時間がかかりました。

 今は組織的に動くバスケットスタイルにも徐々に慣れてきました。でも、高さだったり、パワーだったり、フィジカルの部分は、日本と比べて相当違う。そういったところに慣れるのが一番大変でしたね。

―― ブリスベン・ブレッツはオーストラリア代表、ニュージーランド代表、元NBA選手などが多く所属しています。そのようなチーム環境でプレーしてみた感想は?

比江島 本当にそこは恵まれていましたし、やりがいがあるチームに来られたことに感謝しています。練習から高いレベルでやれていることは、自分にとってとても大きかったです。もちろん、そのなかでポジションを勝ち取って試合に出られればよかったですけど、練習でも自分が通用する部分を出せたので、いい経験ができたと思っています。

―― そこで得た新たな課題などはありましたか?

比江島 プレー面でもっとアグレッシブにいかなければと思いました。日本でやっていた時とは少し役割が違うかもしれないですけど、自分の役割をしっかりと果たさないといけないと感じました。また、英語でのコミュニケーションはずっと課題でした。そこはしっかりと勉強しながらやっています。

―― チームメイトとのコミュニケーションはどうでした?

比江島 まだまだ聞き取れない部分も多かったですけど、最初に比べたら少しはマシになったとは思います。徐々にチームメイトも自分のことを認めてきてくれているようには感じました。

―― オフコートでは、チームメイトと食事に行き、クリスマスパーティーにも参加されましたね。

比江島 そういったことも増えると、いろんなアドバイスももらえるようになったので、そういったところは大事にしていきたいと思いました。いろんな文化に触れる、本当にいい時間を過ごせました。

―― ブリスベンでの生活で困ったことや戸惑ったことはありましたか?

比江島 本当に住みやすい街だったので、そんなに戸惑うことはなかったですね。(海外での生活に)もっとマイナスなイメージを持ってきたので、それよりは過ごしやすい環境でした。ただ、クリスマスの日にお店がすべて閉まっていることは日本ではあり得ないので、そこはちょっと戸惑いましたね。スーパーも土日は早めに閉まるので、買い忘れたものがないようにと思いながら生活していました。

―― 昨年11月、12月にはワールドカップ・アジア地区2次予選で、カタール、カザフスタンと対戦しました。NBLへの参戦で自身の成長を感じる部分はありましたか?

比江島 高さはそんなに感じなかったですね。オーストラリアの練習で感じている高さやフィジカルのほうがすごいので。ただ、オーストラリアでは激しくディフェンスをしなくてはいけないので、そのまま同じように日本代表戦でもやると、ファウルを取られてしまったことはありましたけど……(笑)。あと、オーストラリアではちょっとのズレが生じたら(速さを求められるため)シュートを打たなければいけないので、代表では確率よくシュートを決めることができ、成長を感じられました。

―― フィジカルが強くなり、シュートがより速く、より正確に打てるようになったと?

比江島 そうですね、はい。

―― 同じく海外で挑戦している渡邊雄太選手(メンフィス・グリズリーズ)と八村塁選手(ゴンザガ大)の活躍について聞かせてください。

比江島 あのふたりに触発されてではないですけど、自分も海外に行ってみたいなという思いはありました。世界で通用することを証明してくれているので、ワールドカップやオリンピックは彼らが中心になると思います。

 彼らのポジション(フォワード)では世界で戦えることが証明できているので、2-3番(シューティングガード、スモールフォワード)、1-2番(ポイントガード、シューティングガード)のポジションは、自分がしっかりやらなければいけないと思っています。日本人として(渡邊と八村を)誇りに思いますね。

―― 昨年12月、サッカーの本田圭佑選手とブリスベンでお会いしましたよね。

比江島 尊敬する選手なので、本当にうれしかったですね。自分とは真逆の考え方の持ち主なので、本当に尊敬しています。僕は相当落ち込んでいた時期でしたので、いいタイミングで会わせてくれた神様に感謝したいですね。

―― 日本のトップアスリート同士で、どのような話をしたのですか?

比江島 プライベートの部分は言えないですけど、自分は基本ネガティブな性格なんですが、本田さんはすごくポジティブな考えの持ち主なので、どうやったらポジティブになれるのか、どうやったら海外生活でより快適に過ごせるか、アドバイスをもらいました。何事も楽しむってことが大事なのかなと感じましたね。

―― 将来の展望について、今の心境を聞かせてもらえますか?

比江島 正直まだ何もわかってはいないですけど、バスケットには携わっていきたいと思っています。監督という立場は無理かもしれないですけど、監督をサポートするアシスタントコーチのほうが自分には合っているんじゃないかと。まぁ、それもやれるかどうかは、わからないですけど。

 もしかしたら解説者をするかもしれないですし、子どこたちを教えるのかもしれないです。うまく人に言葉を伝えるのは苦手ですけど(笑)。何かしらバスケットに関わることをやりたいとは思っています。

―― 最後に、オーストラリアでの海外挑戦を決断したことについて、今の心境を。

比江島 それは絶対、後悔はしていないです。オーストラリアに来ないとわからないことは多かったですし、海外挑戦で新たな発見もありました。どういう結果であっても、ここに来た、この決断をした自分を褒めてあげたいです。いい経験ができました。