10日、開幕戦でバーレーンと引き分けた開催国UAEはインドとの第2戦に2-0と勝利を収めた。試合後、UAEを率いるアルベルト・ザッケローニ監督の記者会見には日本人記者も多数参加していた。

ザッケローニ監督は登壇して日本人記者たちを見ると手のひらを見せて挨拶する。だが表情は固いままだ。日本を率いてカタールアジアカップに参戦した8年前の写真をチェックしてみると、この日は明らかに当時よりも顔がこわばっている。

開催国としての重圧が監督にのしかかっているようだった。会見では2回も「前回はみなさんを失望させてしまった」と述べ、この日はせっかく2-0で勝利したというのに一度も笑みを見せなかった。

勝利監督の会見だったにもかかわらず、終了時に拍手もない。司会、監督、通訳が立ち上がり、退席しようとしたところでザッケローニ監督はすっと記者たちに向かって降壇した。

日本人記者たちがさっと近寄る。監督は優しい表情になり、みんなと握手を交わした。そして「お元気ですか?」と流ちょうな日本語で語って、ようやく口元がほころんだ。監督と記者たちはお互いにニコニコ笑いながら見つめ合い、しばらくして監督は思い出したように会見室を後にした。

時間にすれば1分もなかっただろう。だが監督の対応は大会の厳しい決まりから言えば異例中の異例と言える。そこまでして監督は昔の友情を温め直してくれた。監督はみんなの顔も、日本語も忘れていなかった。そして監督の手は、昔と同じように柔らかかった。

【森雅史/日本蹴球合同会社】