医療費の負担を抑えるには、なにがポイントになるのか。「プレジデント」(2017年2月13日号)では11のテーマに応じて、専門家にアドバイスをもとめた。第10回は「歯科」について――。(第10回、全11回)

■成人の8割が、罹患している歯周病

「歯周病は万病のもと」が、新常識になりつつある。歯周病とは、歯肉と歯の根の部分(歯根)の間にある歯周ポケットから細菌が侵入、歯を支えている骨を溶かしてしまう病気。初期段階では自覚症状がないため早期発見・早期治療が難しく、成人の8割が罹患しているとされる。

放置すれば最終的に歯を失い、食べる楽しみを奪われる。それだけではない。「歯周病菌が放出する毒素が血流に乗って広がり、体のあちこちで微小な、慢性の炎症を起こす」。そう警鐘を鳴らすのは歯科医師で米国抗加齢医学会認定医の森永宏喜氏。その炎症が重篤な病気の引き金になるという。

例えば糖尿病だ。歯周病の病巣からTNF−αという物質が生じ、血糖値を下げるインスリンの働きを阻害する。そのほか動脈硬化、心筋梗塞、認知症、骨粗鬆症、関節リウマチなど、さまざまな病気のリスクが高まることが明らかになっている。

近年、歯周病とうつ病の関連も報告された。そもそも歯周病の原因は1ミリグラムあたり1億個もの細菌の塊である歯垢だ。代表的な歯周病菌であるジンジバリス菌を飲み込むと、腸内の細菌バランスが変化するという動物実験のデータもあり、腸内環境を悪化させるリスクが高い。人間の情動に作用する脳内の神経伝達物質の多くは腸内で作られる。「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンもその1つ。腸内環境が悪化すると、その前駆物質5−HTPの生成が妨げられ、セロトニン不足に陥る。結果、イライラ、不安、怒りっぽいなどの情緒不安定を招くと考えられているのだ。

歯周病の直接的な原因は歯垢であり、治療は、歯周ポケットに溜まった歯垢が固まってできた「歯石」を除去し、歯周ポケットから歯周病菌を取り除くことが中心になる。自覚症状はなくても、最低限、半年に1度は歯科医院を受診することが望ましい。しかし森永氏によれば歯周病は生活習慣病。治療を受けて終わりでは、再発は免れない。歯周病予防のため、必要なのは生活習慣の見直しだ。

写真=iStock.com/RoBeDeRo

1つには食生活の改善である。清涼飲料水やジャンクフードなど、精製度の高い糖質を控えること。白米よりは玄米。肉や魚、大豆製品、野菜から、たんぱく質やビタミン、ミネラル、食物繊維を摂取したい。そしてもちろん、適切な歯磨き習慣だ。毎食後、歯磨きをするのが理想だが、忙しい会社員はそうもいかない。森永氏がおすすめするのが、「最低1日1回は、歯垢をしっかり除去すること」。付着した歯垢が有害な作用を示すまでには丸1日以上かかる。その間に除去すればいいというわけだ。ただし、それは正しい磨き方ができてのこと。我流の歯磨きでは、どうしても磨き残しができるという。

「定期的に歯科医でチェックしてもらい、歯磨き指導を受けることをおすすめします。口の中の状態は人によって違いますし、器用不器用もあるので、個別指導が必要になる。『このあたりの歯に磨き残しができる』と、意識するだけでも違います」

歯がグラグラする、水を飲むとしみる、歯茎から出血するなど、わかりやすい症状が出るのは多くは40〜50代になってから。しかし歯周病はそのはるか以前から静かに進行しているとか。早期にケアを始めたい。

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歯周病菌が出した毒素が血流に乗って全身に

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森永宏喜(もりなが・ひろき)
米国抗加齢医学会認定医
東北大学歯学部卒業。東京医科歯科大学口腔外科に勤務。1992年千葉県鋸南町に「森永歯科医院」を開業。著書に『全ての病気は「口の中」から!』(さくら舎)など。

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(東 雄介 撮影=和田佳久 写真=iStock.com)