炎上記事の推移

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まもなく終わりを告げる「平成」を象徴する出来事に、インターネットの発展とともに拡大した「ネット炎上」が挙げられる。

2018年1月に改定された『広辞苑第7版』では、「火が燃え上がること」としていた「炎上」に、「インターネット上で、記事などに対して非難や中傷が多数届くこと」と付記された。炎上という言葉は、すっかり市民権を得た感がある。

そこで、J-CASTニュースの過去記事をもとに06〜18年の炎上史を総括。専門家にはポスト平成の"炎上像"を占ってもらった。

13年で750記事

「炎上」という言葉は、00年代の半ばから一般メディアでも使われるようになり始めた。

現在確認できる全国紙での初出は、産経新聞の04年6月付記事「佐世保・小6女児死亡 『ネット書き込みトラブル』 加害少女表現腹だった」(産経データベースより)、雑誌は現在休刊中の新潮45で、06年1月の「私の『ブログ炎上』体験記」(大宅壮一文庫雑誌記事索引検索より)である。

06年に開設されたJ-CASTニュース。見出しまたは本文に「炎上」が含まれた記事(火災、野球での大量失点、解説など不適当な記事は除く)の初出は、同年5月の「元女子アナ藪本ブログ 『パンツ盗撮』で火ダルマ」だった。

炎上記事の推移は以下の通り。

06年 21本(著名人13本、組織6本、一般人3本)
07年 36本(著名人20本、組織9本、一般人7本)
08年 22本(著名人11本、組織5本、一般人7本)
09年 31本(著名人15本、組織9本、一般人7本)
10年 23本(著名人13本、組織5本、一般人6本)
11年 50本(著名人27本、組織14本、一般人13本)
12年 40本(著名人21本、組織12本、一般人12本)
13年 76本(著名人33本、組織20本、一般人28本)
14年 61本(著名人37本、組織16本、一般人14本)
15年 58本(著名人41本、組織13本、一般人7本)
16年 104本(著名人66本、組織35本、一般人17本)
17年 114本(著名人78本、組織32本、一般人6本)
18年 114本(著名人79本、組織32本、一般人12本)
※内訳は重複あり※18年は12月21日時点 

黎明期〜ミクシィと2ちゃんねる〜

J-CASTニュース記事をもとに、「黎明期」(06〜09年)、「成長期」(10〜13年)、「確立期」(14〜16年)、「成熟期」(17〜18年)に分けて振り返っていく。

黎明期のキーワードは「mixi(ミクシィ)」と「2ちゃんねる(5ちゃんねる)」だ。

炎上の発生場所は、SNS(交流サイト)の草分け的存在であるミクシィが多かった。

・ドコモPR用「SNS」 10日で「炎上」(06年7月)
・「東京ダイナマイト」の結婚発表 ミクシィで「オフレコ破り」(07年6月)
・ホームレスへの生卵襲撃動画 神戸大生の自作自演だった(09年10月)

ミクシィは04年にサービスを開始。日記やコミュニティー機能が支持され、06年9月の月間ページビューは28億4000万を記録した。上記の見出しにもある通り、当時日本で「SNS」といえばミクシィだったが、だからこそ炎上の場ともなった。

ミクシィ利用者への08年の調査では、「自身に関する情報の漏えいや炎上に対する不安がある」と考える人は48.3%に上った。

現在、炎上の主流となっているツイッターでは、2件のみ記事化している。

・梅田望夫、はてブ「バカ多い」 賛否両論殺到してブログ炎上(08年11月)
・「記者クラブ公約破り」にコメント 民主逢坂議員のツイッター「炎上」(09年9月)

当時、炎上参加者は「ネットイナゴ」とも呼ばれ、ネット掲示板「2ちゃんねる」の利用者だとする見方が強かった。そのため、炎上に巻き込まれた著名人らによる「2ちゃん」バッシングも目立つ。

・桜庭VS秋山疑惑?試合 レフリーのブログ大炎上(07年1月)
・オーマイニュース 鳥越俊太郎編集長の「2ちゃんねるはゴミため 」発言(06年9月)
・キングコング西野 2ちゃんねらー批判で「大炎上」(07年12月)

「桜庭VS秋山疑惑?試合」は"K-1秋山事件"と呼ばれ、黎明期を代表する炎上だ。

06年の「K-1 Dynamite!!」で体にクリームを塗っていたとして無期限出場停止処分を受けた秋山成勲選手。大会の運営会社は当初、そうした事実は無かったと主張し、ファンからの抗議が相次いでいた。J-CASTニュースの取材に運営は「2ちゃんねるが騒いでいるだけ」と答えていた。

成長期〜バカッターとデマ〜

「成長期」(10〜13年)は、「バカッター」と「デマ」が横行した期間だ。

08年に日本での本格展開を開始した「ツイッター」は、ミクシィと比べて誰でも気軽に情報発信できるとして急成長した。だが気軽さゆえに不用意な投稿をする「バカッター」行為が相次ぐ。

13年のネット流行語大賞では4位にバカッターが選出。投稿者の立場によって「バイトテロ」、「客テロ」(モンスタークレーマー)とも言われた。

・「早慶大学生」ら次々ネットで炎上 車内で無断撮影、ツイッターで中傷(11年11月)
・ミスド半額セール「品切れ閉店」続出 店員ストレス「暴言」つぶやき「炎上」(12年9月)
・玉木宏も「バイトテロ」の餌食に カード利用レシートが曝される(13年9月)

大学生を対象にした調査では、悪ふざけ写真の投稿について「面白い」が2%、「騒ぐほどの問題ではない」が9%と、1割以上が容認姿勢。11年7月には、東京大学の教育学部長が、学生のツイッター利用について「慎重に考えて責任を持って行動」するよう異例の注意喚起を出し話題となった。

また、災害時をはじめとした「デマ」が問題視され始めたのもこの時期。芸能人がデマ投稿を拡散するなど、ネットリテラシーの重要性が叫ばれた。この流れは、やがて「フェイクニュース」問題にもつながっていく。

・ねつ造 されたツイート、2ちゃんで晒され炎上 「証明が難しい」ネットの怖さ(12年1月)
・アニメ「ラブライブ! 」の聖地が出入り禁止! とんでもないデマに昭和5年創業の老舗が激怒(13年8月)
・北川悦吏子 「ツイッター」使用を自粛 「よつばと!」実写化のデマ信じた(10年6月)

確立期〜炎上マーケティングとインスタグラム〜

炎上のプラットフォームはミクシィ→ツイッターと変遷をたどったが、この「確立期」(14〜16年)には新たに2010年リリースの写真共有SNS「インスタグラム」が加わった。

・ファン晒し上げ炎上の木下優樹菜に応援団 能町みね子「『変にからんでくるやつウゼえ!』っていう話で盛り上がりたいな」(14年1月)
・水原希子、今度は「FUCK YOU」騒動 Tシャツ表記めぐり、「またか」の声(15年8月)
・「インスタグラム」もバカ発見器の仲間入り レールに寝そべって、電車に轢かれる写真のアップで書類送検(16年2月)

運営側は16年に「コメント非表示機能」を導入し、誹謗(ひぼう)中傷対策をしている。

炎上の頻発を受け、ネットの投稿監視や炎上対応サービスを販売する会社も現れた。

一方、「炎上マーケティング(商法)」という言葉も生まれ、炎上をポジティブにとらえる考えも広がる。

タレントの新山千春さんは15年10月放送のテレビ番組で、「炎上ブログは金になる」と自身の経験をもとに明かした。ブログが炎上するとアクセスランキングの上位となって注目を集め、子育て本の出版やCM出演の依頼が舞い込んできたそうだ。

そのため新山さんはコメント欄を閉鎖するとアクセス数が減るとして、スタッフが閉鎖を提案してきても断固拒否。「本当に儲けさせていただきました」などと語っていた。

「炎上芸人」「炎上タレント」「炎上ママタレ」といった肩書きによって、知名度や存在感を高めた芸能人も少なくない。

成熟期〜ユーチューバーとCM〜

直近の「成熟期」(16〜18年)には、05年に日本語版が開始した動画配信サイト「ユーチューブ」を中心に活動する「ユーチューバー」の騒動が際立った。ユーチューブでは視聴数に応じて投稿者は収益を得られるため、視聴者の目を引きやすい過激な動画が「人気ジャンル」となった。

・はじめしゃちょー、広田ゴルフにお詫び 真っ二つ動画「このように扱われ残念です」(17年3月)
・サイゼ「食べ残し」YouTuberがまた「炎上」 謝罪翌日のネタ動画に「全く反省してない」(17年11月)
・人気ユーチューバー「ブスババ抜きゲーム」動画が波紋 「やり過ぎでは」「全然笑えない」(18年10月)

また、セクハラ被害を訴える「#MeToo」のムーブメントもあり、ジェンダー関連で配慮に欠けた「CM」が物議を醸した。

・「安い電気か、稼ぎのいい夫か」 「ENEOSでんき」CM炎上(17年2月)
・二股かけられた男性を「保険」呼ばわり... 「保険のビュッフェ」CMに「男性差別」指摘(17年12月)
・イケメンには笑顔、ブサイク男には怯える表情 新CMに「シンプルに差別だろ」(17年9月)

そのほか、過去の投稿を掘り起こされて炎上したケースも多く、炎上対策の難しさが浮き彫りとなった。

・「ぶすに人権はない」発言の人気モデル夏目雄大 事務所が「お詫び」(18年5月)
・「炎上マンガ」作者、ツイッターが炎上 過去に差別的発言...「深くおわびします」(18年6月)
・「二度目の人生を異世界で」出版社が謝罪声明 作中表現、作者ツイート受け...原作書籍も「慎重な対応」行う(18年6月)

おおつねまさふみ氏が語る「炎上史」

「ネット炎上は、1980年代後半の『パソコン通信』時代からありました」――。ネットの炎上対策を指南するコンサルタント会社「MiTERU」の代表で、ネットウォッチャーとして知られるおおつねまさふみ氏はこう話す。

ただし、当時の「炎上」はネガティブな出来事ではなく、議論に近かったという。

「2000年代前半までは、ネットにアクセスするには相応の苦労と費用がかかり、ネットに明るい大学生や研究者、システムエンジニアが利用者の大半でした。そのため、今でいう炎上は『アップルとマイクロソフト、どっちが優れているか』といったテクノロジーに関する議論が多かったです」
「議論の中身が現在の炎上のようになったのは、2003〜04年にウェブログというブログツールが流行り、いわゆる文系的な人もネットで情報発信をするようになったころです。それまでの炎上はエビデンスをもとに意見をぶつけ合うことが多かったですが、議論に文系の人が参加して、『それって関係あるの?』っていうどうでもいい揚げ足取りの書き込みが増えました。特に新聞記者が情報発信を積極的にしていて、古参のユーザーが『あなたの主張には証拠も根拠もないので議論にならない』というと、『僕はなにそれの記者でその分野に関しては詳しいんだ』みたいなマウンティングが始まり、話にならないという(笑)」

このころから、議論が盛り上がるという意味で海外で使われていた「フレーミング」が直訳されて、「火だるま」や「炎上」という言葉が広まったそうだ。実際、前出した産経新聞の04年6月付記事「佐世保・小6女児死亡 『ネット書き込みトラブル』」では、ネット炎上を「フレーミング(炎上)」と表現していた。

ポスト平成の炎上はどうなっていくのか。おおつね氏は「炎上は人間の普遍的な心理にもとづくので、今後も無くならないのでは」と推測する。

「意図的に炎上させてやろうという『ネット荒らし』は圧倒的に少数派で、大体の炎上は何らかの善意やこれは反省すべきという正義感が強い人の関与で起きます。正義感の強い人は、集団内ヒエラルキー、帰属意識、内集団バイアスという根源的な心理が働き、個人や企業の落ち度を指摘したくなります」

しかし、炎上は負の側面だけではない。既存の価値観を見直す機会にもなるという。

「『クイーン』のフレディ・マーキュリーがカリスマ的に描かれている映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしていますよね。クイーンが活躍していた1970〜80年代はLGBT差別が今では想像できないほどあり、2010年代になってやっと理解が進みました。これも、ジェンダーロールをめぐる表現が啓蒙活動やネット炎上などをきっかけに議論されたことで、昭和の価値観的なものが変わっていったのかと思います」(おおつね氏)

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)