元手300万円から230億円を稼いだカリスマ投資家のcis(しす)も、株をはじめてしばらくは負けてばかりだった。それがあるときからウソのように連戦連勝に転じた。なぜ勝てるようになったのか。初の著書『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(KADOKAWA)の出版を記念し、本人に聞いた――。(第2回)
写真=時事通信フォト

■「2ちゃんのオフ会」以降、勝てるようになった

――cisさんは投資で230億円を稼いでいますけど、勝てなかった時期はあるのですか。

【cis】もちろんです。僕は20歳までにパチンコを中心にしてつくった2000万円のうち、1000万円を競馬で溶かしてしまいました。それで預金残高1000万円の中から300万円をネット証券の口座に入れて本格的な投資を始めました。21歳のときです。

株をはじめてから、しばらくはずっと負けてばかり。最初の300万円の投資資金が底をついてからは、残りの700万円もつぎ込み、さらには毎月の給料も口座に入れていました。口座の残高はいちばん減らした時で104万円になっていたから、結果1000万円以上溶かしたんじゃないかな。それでも、「3年はやってみよう」と思っていました。

そんな僕が勝てるようになったのは、「2ちゃんねる」の株板のオフ会に行ってからです。当時はデイトレード創世期で、2ちゃんねるも始まったばかり。メンバー8人中6人を占める男性メンバーの中には、いまでは200億円から300億円を持っているであろう「uoa」、数十億円を持っている「すくる〜じ」と「びびりおん」がいました。フロンティア中のフロンティアのような集まりでしたね。

■短期トレードに切り替えたワケ

当時僕は、割安株を買って長期にわたり保有する手法(長期トレード)を利用していましたが、それではダメだとうすうす気づいていて、他の方法を模索していたのです。だって、割安とか割高とか、将来この会社の業績は伸びそうだとか、そういった要素は自分が勝手に思い込んでいるにすぎないでしょう。勝っている人ほど、短期の値動きを見ている。あるいは株価指数に採用されるなど、株価が上がる理由が明確な銘柄を買っていることに気づきました。

何かを予想してお金を賭けるのはギャンブルと同じです。投資で利益を確保しようと思ったら「すぐ先にあるわずかな優位性」を生かすしかない。なのでオフ会をきっかけに長期トレードをやめ、値動きだけを見る短期トレードに変えました。すると、それまで負け続けていたところから連戦連勝になったのです。

麻雀でもポーカーでもわりと僕は強い人の意見を聞いたりセオリーを学んだりして勝つことができるようになってきたという実感があります。わかりやすい正解がある世界ではないんですが、負けているのに自分のやり方に固執している人は、他の人のやり方を聞いて、自分のやり方を見直すことから始めることはやって損はないと思います。

――最近では、相場を見ているのは午前中(前場)だけだと伺いました。チャンスを取り逃がしている気持ちにはなりませんか。

【cis】総資産が6000万円になった頃、会社を辞めて専業トレーダーになりました。1カ月に大体22日トレードして18日は勝っていました。最初の年で資産が3億円ほどになって、2年目には20億円以上に増えました。どんどんお金が増えるのが楽しくて、ずっとパソコンの前に座って相場を見ていました。

■抜け毛、肌荒れ……原因不明の症状に悩まされた日々

でも、だんだんと体調が悪化していった。髪の毛は抜けてくるし、肌は荒れるし、一週間の半分ぐらいはおなかを下していました。僕は病院嫌いで普段はまったく行かないのですが、調子が悪すぎたので、診察を受けることにしました。

いくつもの病院で診てもらいましたが、原因はわかりません。異常と言えば、白血球の数が基準値の3倍あることくらいでした。人間は興奮状態にあるときや集中しているときには、狩りの本能で、ケガをしてもいいようにと白血球が増えるようです。当時の僕も常に相場を気にしていて、夜に寝てもすぐに起きてしまうという興奮状態が続いていたので、白血球の数が増えてしまったのだと思います。

肌荒れがひどかった時には、高須クリニックにも行きました。診察をしてくれたのは高須院長ではなかったのですが、担当の先生からは「南の島にでも行って休んだらよくなると思いますよ」とアドバイスをもらいました。

その後は、前場で30分から40分集中してトレードし、それ以外の時間はゲームをしたり、外へ遊びに行ったりするようになりました。それで体調がだいぶ良くなったので、長時間トレードするのは諦めました。自分の健康と資産を天秤にかけたときに、まあ、いまのバランスがいいんだろうと思っています。

■相場混乱時に真っ先に考えるべきこと

――cisさんは、2005年の「ジェイコム株誤発注事件」でも大勝ちしています。一瞬の出来事でしたが、よく大きな決断ができましたね。

ジェイコム株誤発注事件
みずほ証券の担当者が東証マザーズに新規上場した人材派遣会社のジェイコムの株を誤発注した事件。午前9時27分で初値が付く前に「61万円で1株の売り」と注文するところを「1円で61万株の売り」と入力してしまったことに起因する。
誤発注の直前には90万円前後が予想されていたが、そこに大量の売り注文が出されたので初値は一気に下がって、67万2000円になった。その後も下がり続けてわずか3分後の9時30分にはストップ安の57万2000円に張り付いた。
みずほ証券の担当者は、すぐにミスに気付いて取り消し注文をしたが、当時の東京証券取引所のシステムでは取り消すことができなかった。この事件で20億円以上の利益を稼いだB・N・F氏は、その後「ジェイコム男」と呼ばれた。

【cis】当時、何か重大な事件が起こると、2ちゃんねるの株掲示板に投稿されるので、リアルタイムで知ることができたのです。

僕の場合は、まず誤発注かどうかを調べるため、ジェイコムの上場資料を確認しました。すると、61万株は発行済み株式数の約40倍だとわかった。誤発注だと確信して、とりあえず買えるだけ買ってみようと思いました。ここまでにかかった時間は約20秒でした。

パソコンのウインドウを次々と開いて片っ端から500株ずつの買い注文を入れていきました。結局、買えたのは3300株。このとき僕が心配したのは、取引が無効にされないかということ。売り注文が全部買われると兆円レベルの損失になるので証券会社に負担できるはずありません。

そこで買った10分後に最初のストップ高になった時点ですべて売却し、約6億円の利益を得ました。知り合いの個人トレーダーの中にはもっと稼いだ人がいましたが、僕は利益の最大化よりも、どうすれば日本政府にチャラにされないかを考えていましたね。

――どうしたら、cisさんみたいにチャンスをつかむことができるのでしょうか。

【cis】ジェイコムの時には、日本で大きな誤発注が起こったらどうするか、ということを考えていたから勝てました。僕は常に仮説を考えています。「こんなことが起きたら、こんな展開で儲かる」というアイデアを数十個は持っています。それがたまに現実になることがあって、そのときは「はい、きた」という感じです。

■チャンスをつかむための仮説の立て方とは

そのアイデアとは、「円安になれば輸出産業が儲かって株価も上がるはず」とか、すでに常識になっているものではありません。ほとんどの人が考えていないけれど、明確なロジックのあるもの。あるいは誰も指摘していないし、ロジックは不明だけれど、経験則として明確な関連が認められるものです。

cis『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(KADOKAWA)

その一つに日経平均株価の計算方法にまつわるものがあります。細かい説明は省きますが、株価が高い銘柄を日経平均株価に採用すると、一瞬で300円くらい動いてしまうことが起こり得るため、1株で1万円を大きく超える任天堂や村田製作所は日本を代表する上場企業で「採用されるのではないか」と言われながら、いまだに採用されていません。

しかし、1万円超えの会社が1社でも採用されたら、その他の会社も順次組み入れられることになるでしょう。あるいは、日経平均株価の計算方法が変わって、株価が高い銘柄でも組み入れられるようになるかもしれません。

どちらかが実現したら、僕は発表された瞬間に株価が1万円超えで日経平均に採用されてない銘柄を買うでしょうね。おそらく組み入れの1カ月前になると、アナリストが話題にするでしょうから、株価は上がるはずです。ニュースが報じられた瞬間、10億円ずつ5〜10銘柄買って、全体で10〜20%のアップを目指しますね。マーケットのこと学んで株価が上がる仮説をふだんから考えるようにするとチャンスをつかみやすくなるはずです。

----------

cis(しす)
個人投資家
1973年3月生まれ。2018年11月現在、資産約230億円。大学4年生の2000年夏に口座を開き300万円で株式投資を始める。01年法政大学卒業後、親族が経営する企業に就職。02年デイトレを開始。一時期資産を104万円まで減らすもスタイルを変えてからは勝ち続け、資産6000万円で04年6月に退職。以後専業トレーダーとして04年内に2億円、05年内に30億円弱の資産を築き、トッププレイヤーの仲間入りを果たす。その取引の影響力の大きさから「一人の力で日経平均を動かせる男」とも言われる。

----------

(個人投資家 cis 聞き手・構成=向山 勇 写真=時事通信フォト)