韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊P-1哨戒機へのレーダー照射事件について、防衛省は「非常に危険な行為」と表現しました。なぜそういえるのか、理由は「撃てば当たるミサイル」にあります。

P-1哨戒機はどれほど危険な状態だったのか?

 2018年12月20日(木)に発生した、韓国海軍駆逐艦「広開土大王(クァンゲト・デワン)」による、海上自衛隊P-1哨戒機に対するレーダー照射事件は、日韓双方とも譲らないまま1週間が経過しました。


海上自衛隊のP-1哨戒機(画像:海上自衛隊)。

 本事件は、海上自衛隊P-1哨戒機が搭載する「ESM(電子戦支援装置)」において、「広開土大王」の火器管制レーダー照射を逆探知したことがきっかけでした。日本側の電波情報解析によると、「一定時間継続して複数回照射された」ことが明らかとなっています。

 これに対し韓国海軍は、当初「火器管制レーダーSTIRを船舶捜索中使用していたが、偶然P-1に当たってしまった」という主張をしていましたが、後には「STIR自体使用していなかった」と前言を翻すなど、説明が一貫しません。

 火器管制レーダー照射が1回ないし極めて短時間であれば、「不幸な偶然」は十分に考えられましたが、複数回となると意図的なものであるとしか考えられず、韓国側の対応は極めて不可解であると言わざるを得ません。

 防衛省は「非常に危険な行為」だとして、韓国側へ遺憾の意を伝えるとともに再発防止を要求していますが、そもそもこの火器管制レーダー「STIR」とは何のために使われるものなのでしょうか。

問題は照射の次の「艦対空ミサイル」

「STIR」は、一般的に「イルミネーター(照射器)」と呼ばれる種類のレーダーであり、レーダー電波を極めて細い(指向性の高い)ビーム状で照射することに特化しています。おもに対空目標に対して使用され、対象の位置、高度、速度といった情報を高い精度かつリアルタイムに取得することができます。そしてこの状態を「レーダー照射」または「ロックオン」と呼びます。

 問題はこのSTIRが、「広開土大王」に搭載される127mm砲やRIM-7P「シースパロー」艦対空ミサイルの射撃に特化した装置であるということです。


RIM-7P「シースパロー」を発射する米海軍強襲揚陸艦「ボクサー」。「広開土大王」が使用する「シースパロー」と同型(画像:アメリカ海軍)。

「シースパロー」は、「セミアクティブレーダー・ホーミング」と呼ばれる誘導方式を採用しており、ミサイル先端部に取り付けられた「シーカー(検知器)」が、STIRによってレーダー照射された航空機の反射する電波を拾います。そして航空機の方位を取得、自己の針路が航空機との衝突コースに乗るよう、誘導・飛翔します。原理上、「シースパロー」発射後も標的に命中するまで、STIRによってレーダー照射をし続ける必要があるものの、P-1より遥かに機動性の高い戦闘機に対しても有効であり、また小さな対艦ミサイルに対して使用することも可能な、高い誘導精度を持ちます。

「シースパロー」には40kgの大きな弾頭(爆弾)が組み込まれており、ミサイル自体は直撃する必要はなく近接信管によって炸裂。「コンティニュアス・ロッド」と呼ばれる金属製の鞭が円形に広がり、航空機ないし対艦ミサイルの胴体や構造物を、効率よく「切断」することに特化されています。

 1983(昭和58)年に発生した「大韓航空007便撃墜事件」では、「シースパロー」と同等の40kg弾頭(コンティニュアス・ロッドではない)を持ったR-98空対空ミサイルが、ソ連(当時)により使用されました。そして同ミサイルは、P-1よりもはるかに巨大なボーイング747「ジャンボジェット」を撃ち落としており、シースパローもまたP-1クラスの航空機に対しては、撃墜するのに十分すぎる威力を持ちます。

P-1は韓国艦にとって脅威たりえたか?

 つまり「広開土大王」がP-1に対してSTIRを照射したということは、「あなたの命はこちら次第」と宣言し、これを追い払ったとみなすことができます。また2014年に、日本や韓国、アメリカ、中国など21か国において合意された「海上衝突回避規範(CUES)」にも反しており、このような重大さから日本は韓国に対して強く抗議し続けているのです。


RIM-162D「シースパロー(ESSM)」。同じ名前だが事実上、別のミサイルであり、2018年現在はこちらが主流となりつつある(画像:アメリカ空軍)。

 一部報道においては、「他国なら(「広開土大王」の)撃沈もありえた」という声も聞こえますが、これはあり得ません。哨戒機にとって、駆逐艦へ単独で攻撃を仕掛けることは自殺行為だからです。

 仮に他国の哨戒機が対艦ミサイルを発射したとしても、「広開土大王」は遠距離の「シースパロー」、中距離の艦砲、近距離のCIWS 30mm機関砲による三段構えの迎撃手段を持ち、1発や2発程度の対艦ミサイルでは、この多層防御を打ち破ることは困難です。

 また「広開土大王」はSTIRを2基搭載し、対艦ミサイルと哨戒機(ないし複数の対艦ミサイル)に対して「シースパロー」を同時に誘導可能であるため、哨戒機側は対艦ミサイルもろとも撃墜されてしまうことになります。現代戦における「航空機 VS 軍艦」は、圧倒的に軍艦が強く、航空機側は退避する以外に手はありません。実際、P-1も退避行動をとっています。

「広開土大王」側に「シースパロー」を射撃する意図は無かったと思われます。しかし、意図せず誤射してしまったという事件・事故は、決して珍しいものではありません。韓国側はこうした事故を未然に防ぐためにも、再発防止と日本に対する説明を真摯に行うべきです。