高校スポーツでアフリカからの留学生の活躍が目立っている。学校側は1人300万円にもなる多額の手数料を支払い、チームのレベルアップに躍起だ。その中には日本になじめない選手もいる。今年6月には高校バスケでコンゴ人留学生が審判を殴るトラブルが起きた。スポーツライターの酒井政人氏は「以前からトラブルは起きているが、留学生のおかげで日本人選手のレベルはアップしている」という――。
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■なぜコンゴの留学生は審判の顔面を殴ったのか

2018年6月に行われた全九州高校体育大会のバスケットボール男子準決勝で延岡学園(宮崎)の留学生が前代未聞のトラブルを起こしたことを覚えている方も多いだろう。オフェンスファウルを取られたことに激昂。審判員に歩み寄ると右手で顔面を殴りつけたのだ。

審判を殴った選手はアフリカのコンゴ民主共和国からの留学生だった。今年2月に来日するも、母国語のフランス語を話せる関係者がいなかったこともあり、5月末からホームシック気味だったという。慣れない日本での生活に、言葉の問題。試合に出れば徹底マークを受ける。フラストレーションが相当、たまっていたことは想像に難くない。

試合後、号泣しながら「スイマセン、スイマセン」と謝罪したが、SNSで殴打動画が拡散されたこともあり、このショッキングなニュースはすぐに世間の話題となった。

該当選手を自主退学し、学校側は早々と帰国させた。そして監督を解任し、対外試合を3カ月間自粛。出場権を得ていた8月の高校総体(インターハイ)も辞退することになったが、現在開催中のウインターカップ2018(全国高等学校バスケットボール選手権大会)には県代表として出場を果たした。

■スポーツ留学生の走りは「明徳義塾」出身の朝青龍と三都主

あまり大きく取り上げられることは少ないが、高校スポーツ界における「留学生」の存在は、その是非が何度も問われてきた。留学生と聞いて、スポーツファンがピンとくるのは大相撲の元横綱・朝青龍とサッカー元日本代表の三都主アレサンドロではないだろうか。

ともに明徳義塾(高知県)の出身で、スポーツ留学生として来日。朝青龍は高校を中退して角界に入り、横綱まで登りつめると、三都主は2001年に日本国籍を取得して、ワールドカップに2度出場している。

彼らは日本語も流暢に操り、その後の人生を考えるとスポーツ留学生として「成功」したと言えるだろう。現在も各競技で留学生の存在は散見できるが、ひと昔前と比べて多くない印象だ。

■留学生が“猛威”を振るっているのがバスケと駅伝だ

しかし、現在も留学生が“猛威”を振るっている競技がある。それがバスケと駅伝だ。

バスケでいうと、2000年代に入り、身長2mを超えるセネガル人の活躍が目立つようになった。その後、セネガル以外のアフリカ出身の留学生も参入するようになり、アフリカ系の選手を擁する高校が全国大会を制することが多くなった。かつて、「高校最強」を誇ってきた能代工業(秋田)が近年は、全国タイトルを獲得できなくなったことと無関係ではないだろう。

単に高校バスケの勢力図が変わっただけでなく、過去には留学生をめぐるトラブルも起きている。2004年のインターハイで優勝した福岡第一は、主力だったセネガル人留学生の年齢詐称が明らかになり、優勝記録が抹消された。高校入学時に実際は21歳と、5歳近くもサバを読んでいたという。高校側はパスポートを確認するなど生年月日をチェックしていたが、本人の母親が詐称を認めた。

なぜ年齢を詐称する必要があるのか。それは、実力あるプレイヤーを「高校生」として日本に送りたい、家族やブローカー(代理人)の意図があるからだ。陸上の世界でも、筆者はあるケニア人選手に「ケニアでは先輩だった選手が、日本に来たら年下になっていた」という話を聞いたことがある。また、年齢を詐称する意図はなくても、日本のように「出生届」が確実に機能していない国では、どうしても曖昧な部分が出てきてしまうこともあるようだ。

■普通の高校生にとって“黒船”の実力は恐怖しかない

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バスケと異なり陸上の場合、「タイム」という明確な物差しがあるため、留学生の実力がわかりやすい。陸上部(長距離)だった筆者が高校1年生(1992年)のときに“黒船”は突然やってきた。仙台育英(宮城県)にダニエル・ジェンガとジョン・マイタイという2人のケニア人留学生が入学したのだ。そして、その“存在”は日本の長距離を大きく変えていくことになる。

彼らの実力はずぬけていた。ジェンガとマイタイは高1春に出場した5000mでそろって14分08秒台(当時の高校歴代4位相当)というタイムをマーク。筆者の高1時のタイムが18分台だったことを考えると、その衝撃を理解していただけるのではないか。

そして、このケニア人留学生コンビを擁した仙台育英は翌1993年の全国高校駅伝で初優勝を飾る。またこの年、仙台育英は女子高校駅伝でも2名のケニア人留学生を起用してアベック優勝を果たしたことで、論議が勃発。高体連は1995年から「外国人留学生の参加はエントリー人数の20%前後」という規定を作った。

■「外国人留学生の参加はエントリー人数の20%前後」

なぜ人数制限ではなく「20%」という規定になったかというと、他の競技でも外国人留学生が出場するケースが増えてきたからだ。高校駅伝においては、外国人留学生選手のエントリーは2人まで、出場は1人のみとなった。

ジェンガは1994年の全国高校駅伝も1区で快走。区間2位の日本人選手に40秒という大差をつけている。それから2007年大会まで“花の1区”は、ケニア人留学生が区間賞を奪い続けた。そのパワーがあまりにも巨大だったため、2008年大会から、男女とも外国人留学生選手の起用について「1区を除く区間」という規定に変更されたほどだ。

仙台育英の狎功瓩大きく、その後は全国各地にアフリカ(大半はケニア)からの留学生が入学するようになった。インターハイの男子5000mでは、ケニア人留学生が26年連続で優勝をさらっている。今年度(2018年)の男子5000mランキングを見ると、上位をケニア人留学生が独占。50位以内に10人の留学生が入っている。ちなみに長距離以外の種目では、外国人選手の名前は見当たらない。「駅伝」という人気種目で、学校名をPRしたい経営者側の思惑が影響しているのだ。

■留学生の獲得は勝敗の“即効性”がある

なぜバスケと駅伝に留学生が多いのか。

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ひとつは留学生の「20%ルール」を最大限生かせるというメリットがある。バスケは5人でプレーするので、留学生は常に1名をオンコートすることができる(エントリーは2名)。2mを超すセンターがいれば、ボールの支配率がグンと上がるため、留学生が1名いるだけでかなり有利になるのだ。高校駅伝の場合、男子は7区間42.195kmで競われる。留学生が起用されることが多い3区は約8.1kmと、こちらも20%ルールの上限に近い。近年は3区の留学生で抜け出して、そのまま逃げ切るというのが勝ちパターンになっている。

それから、全国上位クラスの強豪校がない都道府県では、圧倒的な実力を誇る留学生がひとりいるだけで、地区大会を突破することはさほど難しくない。手っ取り早く「成果」を出すという意味では、留学生の獲得は“即効性”があるといえるだろう。

■留学生選定にはコーディネート料+年間200万〜300万円の手数料

しかし、留学生を迎え入れる側も、楽ではない。

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学校生活だけ面倒を見ればいいというわけにはいかないからだ。18歳以下の生徒が異国で生活をするわけなので、24時間態勢で、指導を行うことになる。また、留学生は「アタリ」「ハズレ」が小さくないのも悩ましいところだ。一度、迎え入れたからには、特別な事情がない限り、3年間は在籍することになる。選手として実力が不足している、実力は素晴らしいが素行が良くない、勉強についていけない、日本での生活になじめない、チームメイトと打ち解けられない。そんな問題が次々と浮き彫りになってくるのだ。

さらにお金もかかる。学校側の大半は現地の事情に詳しい代理人を介して、留学生を選定している。そのコーディネート料が必要となり、中には、それにプラスして留学生1名あたり年間で200万〜300万円ほどの手数料を要求する代理人もいるという。

世間からは留学生がいれば強いのは当たり前と見られる。その中で問題が起きれば、学校の評判は下がる。バスケで殴打問題が起きたが、費用をかけて、面倒も見て、本当に泣きたいのは学校側かもしれない。

■高3でも日本語をほとんど理解できない選手もいる

そして、留学生の“待遇”は学校によって、かなり差がある。実際に取材をすると、日本語で堂々とインタビューに答えることができる留学生がいる一方で、3年生になっても日本語をほとんど理解できていない選手もいる。

高体連は外国人留学生のインターハイの参加について、「在籍する高等学校を卒業する目的で入学した生徒(短期留学は不可)であること」と明記しており、授業についていけない選手は、その目的に沿わないことになる。だが、日本語の理解度を考えると、授業についていけているのか、かなり疑わしい。

貧しい家庭出身ばかりとは限らないが、アフリカからの留学生は、年に一度の帰省時には、家族にお土産をたくさん買って帰るのが大半だ。中にはわずかな奨学金を貯金して、家族に仕送りをする選手もいる。

■留学生は単なる「助っ人」なのか、それとも「良き仲間」か

日本の高校や大学に入るには、代理人に実力を認められないといけない。そのため、セレクションが行われると、夢をつかむために少年たちは死にもの狂いで駆け抜ける。

こうした留学生の奮闘は日本人選手にも影響を与える。

家族の期待を背負って、異国の地にやってくる留学生と、普段から接することで、日本の高校生も多くを学ぶことができるのだ。単なる「助っ人」なのか。それとも「良き仲間」となるか。それは、そのチーム次第ということになるだろう。

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そしてバスケでいえば、高校の試合でも2mを超すビッグマンと戦うことができるし、陸上では圧倒的な走力のあるケニア人に挑むことができる。それは「世界」を目指すという意味では、貴重な経験になるし、そのため日本人選手のレベルは格段にアップした。

留学生を受け入れる学校側は、スポーツで学校名をアピールすることができて、留学生は生活の面倒を見てもらいながら勉強ができるうえに将来の展望も開ける。両者の橋渡しをする代理人は報酬が手に入る。3者にメリットが出る仕組みが続く限り、日本にスポーツ留学生は次々とやってくるだろう。

■日本で学んだ留学生アスリートがその後さらに成功する事例

日本で学んだ留学生アスリートは、その実力が認められれば、国内で次のステージ(実業団など)に進むことができる。中には国際的に成功を収めた選手もいる。バスケのモーリス・ンドゥールはセネガルから岡山学芸館高校に入学。同校を卒業後、米国の大学を経て晴れて世界トップのNBA選手にまでなった。

また、ケニアから仙台育英に入学したサムエル・ワンジルは、北京五輪の男子マラソンで金メダルを獲得。私生活ではトラブルに見舞われ、すでに故人となったが、高校時代に「我慢」を学び、大きな夢をつかんだ。

高校バスケの殴打問題は留学生の「我慢」が足りなかったのかもしれない。だが、来日する留学生は、日本のスポーツ界を荒らすためにやってくるのではない。自分の夢をつかむためにやってくるのだ。そして、それを支援しているのが、学校のアピールに必死な日本の大人たちだ。そう考えると、むしろ留学生を応援したくなるのは、筆者だけではないだろう。

(スポーツライター 酒井 政人 写真=iStock.com)