今シーズンで女子プロ野球「埼玉アストライア」の監督を退任した辻内崇伸(写真:TBSテレビ提供)

華やかなプロ野球の世界。活躍した選手には名誉と莫大な報酬がもたらされる一方で、競争に敗れ、表舞台から去りゆく選手がいる。そんな「戦力外通告」を受けた選手をドキュメンタリーで描いてきたのが、TBSテレビの『プロ野球戦力外通告〜クビを宣告された男達』だ。
12月30日(日)夜11時からの放送回で通算15回目を迎えるこのシリーズ。プロ野球選手の姿は特別な存在ではなく、不況の中では誰の身にも起こりうる“究極のリアル”でもある。放送を控え、番組に関わるサイドストーリーを取材班が3回にわたってリポートする。
第3回は2005年に高校生ドラフト1位で巨人に入団し2013年に現役を引退、2014年から2018年シーズンまで女子プロ野球「埼玉アストライア」のコーチ、監督を務めた辻内崇伸(つじうち たかのぶ)を取り上げる。
第1回はこちら→「松坂世代」37歳實松の何ともしぶとい戦い方
第2回はこちら→中後悠平、二度「戦力外」を受けた男の恩返し

監督業の難しさを肌で感じた1年間

「連覇を目指して臨んだシーズンだったのですが、結果は最下位の3位。戦力的には上だったと思うのですが、選手たちに力を発揮させてあげられなかった。監督としての力量のなさが敗因です。うちの両親はやめることを残念がっていましたが、妻は僕の決断を尊重してくれました。これからのことは妻と娘が待っている秋田にいったん移って、話し合いながら決めていこうと思っています」

今シーズン、女子プロ野球の埼玉アストライアで初めて監督を経験した辻内崇伸は、監督業の難しさを痛感したと話す。

「本当に大変でしたね。チーム全体を見るのは当然ですし、試合では作戦面や選手起用で頭をフル回転させる。しかも攻撃が終わっても守備、守備が終わっても攻撃と、つねに気が休まるところがない。最初のころは本当に頭が痛くなりました。

試合は2時間くらいで終わるんですけど、すごくしんどかった。脳が疲れて甘いものが欲しくなるのでチョコレートを食べながらやっていたほどです。でも、すごく勉強になりましたし、それまでは特に考えずに野球をやっていたんだと気づかされました」

辻内は今夏の甲子園で史上初となる2度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭高校出身。そこで野球を教わった彼が言うのだから、監督の仕事はいかに大変かが伝わってくる。

大阪桐蔭時代は3年の夏に甲子園にも出場。田中将大を擁する駒大苫小牧の前に延長で敗れたもののベスト4まで勝ち進んだ。当時の大会タイ記録となる1試合19奪三振、左腕最速の152/hをマークするなど、この夏の主役となった金足農業(秋田)のエース・吉田輝星のように脚光を浴び、巨人に高校生ドラフト1位で入団した。今の吉田同様、将来の日本球界を背負って立つピッチャーとして嘱望された。

しかし、辻内がプロの1軍公式戦で投げることは1度もなかった。

「ジャイアンツに入ったときから左肘に不安があったんです。それでも投げられない状態ではないので投げていたのですが、2年目のキャンプで痛めてしまい、検査の結果は内側側副じん帯断裂。手術を余儀なくされました。あれが自分のプロ野球人生の分岐点だったのかなと思います」

辻内はその後も度重なるケガに悩まされ、8年間のプロ生活はつらいものとなった。それでも巨人に入団できて良かったと言い切る。

「たしかにつらい思いもたくさんしましたが、楽しかったこともいっぱいありましたし、プロ野球選手はそんなに多くの人がなれるわけではない。入っていなければ女子プロ野球で指導することもなかった。

ジャイアンツのドラフト1位というのも正直、重荷でしたし、今でもそう感じるときがあります。ただ、それと付き合っていかないといけないですし、自分の中では整理できたのかなとも思っています。女子プロ野球ではその肩書が役に立つこともありました」


ジャイアンツ時代を振り返る辻内。『プロ野球戦力外通告〜クビを宣告された男達』(TBS系)は12月30日(日)夜11時から放送です(写真:TBSテレビ提供)

辻内にとっての女子プロ野球での5年間

2013年オフに戦力外通告を受けて引退した辻内は、翌年から女子プロ野球界に新たな活躍の場を見出した。埼玉アストライアや東北レイアのコーチ、監督として、5年間女子プロ野球の発展に力を尽くしてきた。

「ずっと男社会で生きてきたので、3年目くらいまでなかなか慣れなかったのですが、それ以降は楽しくやらせてもらいました。もともと人を育てるということに興味があって、技術の向上もそうですし、選手としての成長に携われるような仕事をしたいと思っていたので、コーチのお話をいただけたのはありがたかったです。

ただ、自分はその器ではないと考えていたので監督をやりたいとは思っていませんでした。それまでに監督代行で何度か試合を指揮したこともありましたが、実際にやってみると全然、違った。自分の采配で落とした試合もある。責任の重さをひしひしと感じた。結果を残してあげられなければ、その選手の人生を左右することにもなる。そう考えると怖いなとも思いました」

今シーズン前半戦はチームの投打がかみあわず、負けが先行した。そんなとき支えになったのがアストライアの初代監督で、退任後もチームを見続けてくれていた片平晋作さん(南海ホークス〜西武ライオンズ〜横浜大洋ホエールズ)のある言葉だった。片平さんは2018年1月にこの世を去った。

「自分がコーチで入ったときから、チームをどうまとめるかとか、いろいろなアドバイスをいただいていたんです。その中でもよく言われていたのが『常に笑っておけ』ということ。コーチのときからうまくいかないと、無意識のうちに怖い表情になっていたみたいで、『そんな怖い顔をするなよ』と言われていました。

そういうのは選手に伝わってしまうので、チームの雰囲気も悪くなる。片平さんがお亡くなりになり、すごく寂しかったのですが、片平さんの言葉を忘れずに戦っていました。最後の1年間だけでしたが、自分としては監督をやらせてもらえて、いい経験ができました」

女子プロ野球で感じた新しい発見

NPBの球団とは違って、女子プロ野球では野球の指導だけが仕事ではないため、社会人として学ぶところも少なくなかった。名刺の交換の仕方から始まったが、簡単なパソコン作業なら問題なくこなせるようにもなった。


女子プロ野球で感じたことを話す辻内。『プロ野球戦力外通告〜クビを宣告された男達』(TBS系)は12月30日(日)夜11時から放送です(写真:TBSテレビ提供)

「基本的には朝の7時半からグラウンドの掃除をして、8時から13時まで練習。一度、家に帰ってシャワーを浴びて昼食を済ませてから事務所に出勤。デスクワークや女子プロ野球のPR活動だけでなく、女子の野球部がある高校や大学などを回って、うまい子がいれば女子プロ野球への勧誘も行いました。

高校を卒業すると大学に女子野球部がなかったりしてやめてしまう子が多いんです。そうならないように、若い選手をどんどん増やしていこうという方針で動いていました。最初は戸惑うこともありましたけど、何事も慣れていけばできるようになるものですね」

家に帰るのは19時くらいだが、遠征に行けば2、3日家をあけることもあった。そんなとき驚かされたのが愛娘の成長の早さだった。

「コーチになった2014年の3月に生まれたので、本当に遠征から帰ってきたら大きくなっていたり、髪の毛が伸びていたり、しゃべれるようになっていたり。子どもってこんなにもすぐ成長するんだなって」

仕事は決して楽ではなかったが、大きな励みになったのは、やはり家族だった。疲れて帰ってきても、娘の顔を見れば「明日も頑張ろう」という気持ちになれた。


家族の支えをしみじみ感じていた辻内。『プロ野球戦力外通告〜クビを宣告された男達』(TBS系)は12月30日(日)夜11時から放送です(写真:TBSテレビ提供)

「それだけに今年の9月から妻と娘が秋田にある妻の実家に戻ったのは寂しかったですね。別居とかではなく、家庭の事情があって先に秋田に行ってもらったんです。仕事を終えて家に帰っても誰もいないというのは寂しかったですが、疲れているのですぐに寝て、すぐ朝が来て1日が始まる。そんな感じでした。来年5歳になる娘とは12月初旬に久しぶりに会ったのですが、またすごく成長していました。もう赤ちゃんではなく、女の子になっていましたね」

気になる今後については、どんなビジョンを頭に描いているのか。巨人を戦力外になった直後は「野球とは違う世界も見てみたい」として、不動産関係の会社に勤める方向で話を進めていた時期もあったが……。

「当時はケガで苦しんだこともあって、たしかに野球から離れたいと思っていました。だから、こうやって女子プロ野球で教えることになるとは想像もしていませんでした。でも、今思えば、あのときは野球でしんどい思いをして、不貞腐れていましたね(笑)」

最終的には奥さんの「野球に携われるならやってみたら」との後押しも受け、セカンドキャリアに女子プロ野球を選んだわけだが、その決断について問うと、辻内は前を見据えてから言葉を繋いだ。

辻内が描く「サードキャリア」

「本当にいい方向に進めていると思います。この仕事だからこそ、5年間でいろいろな方に数多く出会えた。あそこで野球を諦めて普通の仕事に就いていたら、それらの出会いはなかった。ただ、もっと勉強や経験を積んでから、また指導者になりたいという思いはありますが、次も野球に携わる仕事に絞っているかといったらそうではないです。一般の企業に勤めているかもしれません。それも自分の糧になるはずですから。

住所も秋田に移しますが、だからといって、秋田で働くとか、終着駅だとも決めていません。妻も娘もいますからゆっくりするつもりはないですが、人生は1度きりなので妻と、妻のご両親ともしっかり話し合って次を決めるつもりです。どんな仕事をするにしても、この5年間で得たものを無駄にせず、サードキャリアに向かいたいです」


サードキャリアに向け辻内は歩みを進めている。『プロ野球戦力外通告〜クビを宣告された男達』(TBS系)は12月30日(日)夜11時から放送です(写真:TBSテレビ提供)

まだ31歳。すべての経験を肥やしに変えながら、前に進んでいくつもりだ。

(敬称略、文:鷲崎 文彦/スポーツライター)

『プロ野球戦力外通告〜クビを宣告された男達』(TBS系)は12月30日(日)夜11時から放送。突然職を失った男には幼い2人の娘が…!! 生き残りを懸けたトライアウトに挑む!!【TBS】