スマートに新年のあいさつができる英語表現を紹介します(写真:sasaki106/PIXTA)

毎年12月に入ると、筆者は「そろそろ年賀状を用意しないと!」と焦り出し、デザイン集と年賀状を買いに本屋と郵便局に駆け込みます。そして、「今年こそは早めに書いて投函しよう」と思い立つのです。ところが、年賀状を買ったところで安心してしまうんですよね。結局、会社が休みになるまで何もせず、夏休みの宿題が終わっていない小学生のときのような気分で、年末に慌てて書くのが常。


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年々、年賀状を出す人は減少しているようですが、今後は新年のあいさつをSNSで済ませるのが主流になっていくのでしょうか。妻と「うちも、もう年賀状はやめようか……」と話すものの、送ってくださる方もいるなか、なかなかやめるわけにもいかず、毎年べそをかきながら、なんとか継続している筆者です。

先日、年賀状を英語で書きたいという研修生が相談にきました。今回は、そのときの話にちなんで、年賀状で使用する英語表現を紹介したいと思います。

Aをつけないで!

東京近郊のあるメーカーでのこと。英語研修後に筆者が帰ろうとすると、社員のタロウさんに呼び止められました。「研修とは関係のない英語の質問をしても構いませんか?」と遠慮がちに差し出されたのは、英語で書いた年賀状の下書きでした。

まず飛び込んできたのが「あけましておめでとうございます」の部分。

A Happy New Year!

毎年いただく年賀状のなかでもよく見かけるこの表現。実はちょっと不自然なんです。英語であいさつや祝辞などを述べる際にhappygoodで始めるときは、冠詞を用いないのが通常です。

Happy New Year! (あけましておめでとう!)
Happy birthday! (誕生日おめでとう!)
Good afternoon! (こんにちは!)

Happy birthday!Good afternoon! を誤って A happy birthday! A good afternoon! と言う日本人はほとんどいないのに、新年のあいさつにだけ Aをつけてしまうのはなぜなのでしょう? なんだか不思議ですよね……。

12月に入るとよく耳にするあのクリスマスキャロル、

We wish you a merry Christmas,
We wish you a merry Christmas,
We wish you a merry Christmas,
And a happy New Year.

(クリスマスおめでとうございます
クリスマスおめでとうございます
クリスマスおめでとうございます
そしてよいお年を)

皆さん、ご存じですよね?

例の歌が原因?

「クリスマスおめでとう(原題 We Wish You A Merry Christmas)」という歌なのですが、このサビの最後の部分 And a happy New Year から、「あけましておめでとう(よいお年を)=A Happy New Year」になってしまったのではないかと筆者は想像、推測するのですが、皆さんはどう思われますか?

もちろんこのキャロルにかぎったことではなく、そもそもHappy New Yearというフレーズは、クリスマスの祝辞と一緒に使われることが多いのです。その観点で考えると

I wish you a merry Christmas and a happy New Year. (楽しいクリスマスとよい新年をお迎えになられますように)

という決まり文句から同様の勘違いが発生した可能性もおおいにありますよね。

まあ、間違いが広まった原因はともあれ、こんなふうにキャロルの歌詞やフレーズの中ではAがついているのに、どうしてあいさつではつけてはいけないのかと疑問に思う方もいるかもしれませんね。

これは、このフレーズを文中で使っているのか、独立したあいさつとして使っているのかが決め手になるのです。I wish you…Have…などと一緒に使うときには、あくまでも文の一部ですので、きちんと冠詞を使用しなければならないのです。

I wish you a happy New Year. (あけましておめでとうございます)
I wish you happy New Year.
Have a merry Christmas. (楽しいクリスマスになりますように)
Have merry Christmas

ただ、面白いことに

A happy New Year to you all. (みんな、よいお年を)
A merry Christmas to everyone of you. (皆さんおひとりおひとりに、クリスマスおめでとう)

という言い方では、Aを使用できるんです。これらも、ほぼあいさつのような感じなのに、ここではAがつくって妙ですよね。うしろにto…とフレーズが続くことで、響きが文のようになるからかもしれませんが、筆者も真相はわかりません。

これらを説明すると、タロウさん、ビックリして「今まで、ずっとA Happy New Yearって書いてました!」と苦笑い。「でも、ユーミンの曲にもA Happy New Yearっていうのがありますよ! あれも間違いですか?」とのこと。その部分だけを取り上げると、誤りに聞こえますけどね。その歌、筆者は知らないのでなんとも答えられませんでした。

「でも、2019年の年賀状からはバッチリですね!」と励まして話をそらすと、「あ、あと、本文も見てほしいんですけど……」と下書きを指さしました。

大変お世話になりました。

そこに書いてあった英文が、

You took care of me very much last year. (あなたは昨年、大いに私の面倒を見ました)

「旧年中は大変お世話になりました」と言いたかったのでしょう。気持ちはわかりますが、まずtake care of … very muchという言い方は不自然です。強調するのであれば、take very good care of … とするといいでしょう。

でも「お世話になる」というのをtake careを使って訳すのはあまりお勧めできません。しかも、そもそもこの日本文はお礼を述べているわけですから、英語ではこんなふうにするのがいいのでは?

Thank you very much for your kindness in the past year. (旧年中は大変お世話になりました)
I really appreciate the kindness you showed to me in the past year. (旧年中は大変お世話になりました)

お礼はThank you very much for …でも、I really appreciate … でもいいと思います。後者のほうがかしこまった感じに聞こえるでしょう。

上の例文では、「お世話になった」という部分を、「親切にしてもらった」と解釈して「旧年中の相手の親切」に対して、お礼を述べる文にしてみました。こんなふうにシンプルにyour kindness in the past yearyour kindness last yearと言うといいでしょう。ちょっとかしこまった感じにするのであれば、the kindness you showed to me in the past yearのほうがいいかもしれないですね。

kindnessの代わりに、友人に当てたものならfriendship(友だちでいてくれたこと)、同僚や上司ならsupporthelp(サポート)、お客様ならpatronage(ご愛顧)などにしてはどうでしょう?

Thank you very much for your friendship last year. (〔友人に〕去年も仲良くしてくれてありがとう)
I really appreciate the support you gave to me in the past year. (〔同僚や上司に〕旧年中はサポートいただき、誠にありがとうございました)
I really appreciate your patronage over the past year. (〔顧客に〕旧年中もお引き立ていただきまして、誠にありがとうございました)

続いてタロウさんの下書きに書いてあったのが「今年もよろしく」にあたる部分でした。

今年もよろしくお願いいたします。

Please be good to me this year too. (今年もまた優しくしてよ)

まあ、直訳するとそうなりますよね。伝えたい意味はその通りかもしれませんが、ネーティブはこんなふうに言わないでしょう。「よろしく」というのは、非常に日本的な言い回しなので、そのまま英語にするのが難しいですね。あえて訳すなら、こんな感じが無難だと思います。

I’m looking forward to working with you again this year. (また今年も一緒にお仕事できるのを楽しみにしています)
Let’s have a lot of fun together this year! (今年は一緒にめいっぱい楽しもうぜ!)

ただ、こういったフレーズをグリーティングカードのフレーズとして使うのは、英語ではあまり一般的ではなく、通常は「よい年になりますように」のような言い方のほうがなじみやすいです。ただ、こういうメッセージを使いたいのであれば、印刷したものに、手書きで添える方法をタロウさんにはお勧めしました。できれば「お世話になりました」の部分も、手書きのコメントに回すほうがスマートな気がします。

もしHappy New Yearと一緒に何かを印刷したいのでしたら、

May the year 2019 bring you a lot of fun and happiness. (2019年が、あなたにとって楽しく幸せになりますように)
I hope you have a year filled with a lot of happiness. (あなたにとって、幸多き1年になりますように)

のようなフレーズが筆者はいいと思いますが、このあたりは個人の好みかもしれませんね。

面倒だとは思いますが、本当はこういったフレーズも手書きだとさらにうれしいですよね。日本語でも手書きの部分があるほうが、心がこもっている印象を受けますもんね。

すると、必死にメモを取っていたタロウさん、「手書きの文章も教えてもらったので、これで今回の年賀状は完璧です! 先生にも英語で年賀状送るので、住所教えてください」とのこと。That’s so nice of you, Taro. (それは、ご親切にありがとう、タロウさん)。Guess I’ve seen too many spoilers already… (でも、かなりネタばれがひどいことになってますが……)もう、コメントまで知っているんですけど。