『the four GAFA』著者、スコット・ギャロウェイ氏にインタビューする筆者(写真:NHK)

12月25日夜9時、NHK総合「ニュースウオッチ9」でGAFA特集が放映される予定だ。
GAFAの出生地であるアメリカ本国からGAFAへの市民の反応、社会への影響などが生々しくリポートされる。なかでも、独自の分析眼によってGAFAの光と影を描き日本でも話題となった12万部のベストセラー『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』著者、スコット・ギャロウェイ、ニューヨーク大学教授の最新インタビューが必見だ。
GAFAとともにベンチャー企業経営の最前線にいた彼の目に、現在のGAFAはどう映っているのか? GAFAを取り巻くアメリカ社会の反応は? 
取材したNHKアメリカ総局・野口修司氏に取材の背景、エピソードなどを解説してもらった。

GAFAは「救世主」であり続けるか

ニューヨークに来て、半年が経とうとしている。

「雑踏」という言葉がぴったりのマンハッタンは、ビジネスパーソンから観光客、ベンダー(屋台)で物を売る人と、本当にいろんな人が行き交っている。車のクラクション音を聞かない日はなく、まさにそうした喧騒、活気が、アメリカ経済の原動力とも思える。


『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は、12万部のベストセラーとなっている(画像をクリックすると特設サイトにジャンプします)

それにしても、スマホの「ながら歩き」が多い(苦笑)。東京よりも断然多い印象だ。両耳には白いヘッドホンが輝き、後ろから怒鳴られているのかと錯覚するくらい、大きな声で電話するビジネスパーソン。スマホを見ながら道順を確かめる観光客。よくもまぁ、ぶつからないものだ、と感心さえしてしまう。そして、手にしているスマホ、使っている機能。多くがグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの「GAFA」のものだ。

いまや、彼らが提供するサービス、製品、機能がないと暮らしていけないとも言われる。それは、こちらニューヨークでも同じだ。そんなITジャイアントは、私たちの生活を、格段に「快適」にしてくれた。

その一方で、「すべての情報を握られているのでは」という不安があるのも確か。これからも、彼らが「救世主」であり続けるか、とあえて疑問を投げかけようというのが、今夜、『ニュースウオッチ9』で伝えようとしていることだ。

ニューヨーク・ブルックリンに住む、ダニエル・オバーハウスさん(25歳)。社会人2年目の彼は、この日、愛猫のトイレの砂袋を抱えて歩いていた。重さ10キロを超える砂袋を手に、自宅まで徒歩10分余り。ついこないだまでは、アマゾンでワンクリックで買っていたのが、今はペットショップまで買いに行っている。


ペットショップで買った「猫のトイレ用砂」を持ってニューヨークの街を歩くダニエル・オバーハウスさん(写真:NHK)

アマゾンを使うのをやめたからだという。アップルも、フェイスブックも、グーグルも。ついでにマイクロソフトも、やめたそうだ。きっかけは、今年3月に起きたフェイスブックの個人データの大量流出。自身の情報が悪用されていることに憤慨し、「全部、やめてみたらどうなるか」を試すことにしたという。

「フェイスブックがきっかけだったけど、グーグルとアマゾンについては、どれだけ自分の生活が彼らに支配されているかが気になっていました。特にグーグルは、私の生活のすべてを知っていますからね。世の中、無料なんてものは何もないはずなので、こうした表向き“無料”とされているサービスに隠されたコストについて、知りたいと思いました」

グーグルをやめるのがいちばん大変だったという。何せ、会社のメールサーバーが、グーグルだったからだ。周囲でも、「この1年くらいで、自分たちが普段使っているテクノロジーについて、考え直す人が増えてきた」という。

「やめてみて学ぶことが多かったので、今のところ、ハッピーです。これらのサービスを使わなくても、普通の生活ができることがよくわかりました。要はそういう『選択』をするかどうか、です」

GAFAに左右されるアメリカ経済


NHK総合「ニュースウオッチ9」GAFA特集は、12月25日夜9時より放送予定。詳しくはこちら(写真:NHK)

リーマンショック以降のアメリカ経済を引っ張ってきたのがGAFAだ。アップルを除けば創業20年くらいの新興企業が次々とイノベーションを起こし、私たち生活者のニーズに応えてきた。いや、ニーズを喚起し、われわれの暮らしに“食い込んで”きた。

ニューヨークでは、株価を見るのも重要な仕事なのだが、彼らのおかげで、今年ダウ平均株価は最高値をつけた(10月3日)。それに先駆けて、アップルとアマゾンが相次いで、史上初の「時価総額1兆ドル」を突破したことも大きなニュースだった。1兆「円」ではなく、「ドル」だ。2つ合わせれば、経済規模で日本の半分くらいになってしまうほどの大きさだ。

しかし、ニューヨーク株価は、その後急落する。12月に入ると、今年の最安値まで沈んでしまう。これもまた、GAFAたちの株価が伸び悩んだからだ。そして、それに「取って代わる」銘柄が見当たらないのも、彼らの大きさを表している。

そんなニューヨークで、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者、スコット・ギャロウェイ氏にインタビューする機会を得た。最強企業の徹底分析と、彼らがいる世界で生きる「心構え」を説いた彼は、終始、明快に、わかりやすく、GAFAの時代を、こう評した。

「GAFAはあまりに大きくなりすぎて、分割されるべき時をはるかに過ぎてしまったように思う。それぞれの企業が、全世界の市場の姿を変えてしまった。彼らの特徴は、『逆に年を取る(These companies age in reverse.)』ことだ。検索するたび、レビューを書くたび、インスタで投稿するたび、その価値は高まっていく。資生堂の乳液のキャップを開けてしまえば、ほとんど商品価値が失われるのとは正反対だ」

「今や、彼らは超人的な肺活量を持ったボクサーのようなもの。たとえば、アマゾンが小売業界でやっているのは、リングをダンスするように回っているだけだ。今以上にイノベーティブになる必要はなく、ただ相手(ほかの企業)が倒れるのを待っていればいい」

GAFAは「イノベーションの芽を摘む」存在に

GAFAのせいか、シリコンバレーの“神話”のおかげか、アメリカは雨後の竹の子のように新しい企業が次々と生まれ、イノベーションを次々と生み出しているイメージがあった。しかし、彼は言う。

「ビジネスメディアを読むと、すばらしいイノベーションとスタートアップの時代に生きているように感じるだろう。でも、年間の新規事業の数は、40年間で半分に減っているんだ。カーター大統領の頃は、今より新規事業が生まれていた。なぜ、新規事業が生まれにくくなったのか。その理由のひとつが、多くの起業家がGAFAと競い合うのではなく、彼らに買収してもらえるような事業をしたい、という認識を持っているからだ」

起業数の話、調べてみると、確かにそうだった。かなりの驚きだ。少しいい企業が出てくれば、巨額の資金でもって買収する。中に取り込み、うまくいかなければ、次を探す。結果的にアメリカでは、「上場企業数の減少」にもつながっている。IPOをするより、手っ取り早く多額の資金を得られる。

いまや、GAFAは、イノベーターではなく巨大インベスターでもある。そして、膨大な個人データを持つプラットフォーマーだ。彼らの作った「土俵」でしか、仕事はできない。

スタートアップ企業の多い、アメリカ西海岸サンフランシスコ。

ここで話を聞いたのが、スペンサー・シューレムさん(23歳)。19歳でアプリビジネスを立ち上げ、いま、彼の開発した生活管理アプリ「WeDo」は世界800の学校で使われているという。彼が言うGAFAの問題点も、その「土俵」と「データ」だ。


インタビューに答えるスペンサー・シューレムさん(写真:NHK)

GAFAが大きくなりすぎたことが経済の成長を阻害しているのでは?との問いにはこう答えた。

「その質問に答えることは難しいです。僕たちはいま、将来競争する相手と同じ生態系にいます。だから、今は、僕たちに餌を与えてくれる相手の手にかみつくことはできません」

先述のダニエルと同様、彼も好青年だ。

「すばらしいプラットフォームを利用できることで、僕のアプリは成長できるのです。ただ、ルールを決めるのはたった1つの企業だったりします。僕たちにはそういうルールに疑問を持ったり、不公正な状況に直面した際に声を上げたくても、そもそも訴える場所さえありません。今のIT巨人の問題は、富の一極集中ではなく、彼らの集めたデータにどれだけアクセスできるか、できないのか、それが問題なのです」

あえて、50歳のオッサンがこんなふうに聞いてみた。

「アメリカンドリームという言葉は、君にとってどういうこと? 億万長者になること?」

「いい質問ですね(笑)。アメリカンドリームには「自由」という根っこがあると思います。選択の自由、起業の自由。こうした自由が、アメリカに移民が集まる理由です。そして、特に僕たちの世代は、“本当に自分がやりたいことの自由があるか“”自分には選択肢があるか“ということをつねに考えています。自分が生まれ育った中で考えるアメリカンドリームとは、こういうことなのです」

ダニエルの言った、「要は『選択』するかどうか、です」の言葉が頭に浮かんだ。

GAFAにはどのような「規制」が必要か

データの問題も含め、ギャロウェイ氏は、「GAFA」への規制に話を移した。

「問題は、社会として、ますます少数の企業が、経済や特権のより多くの部分をコントロールすることに対して、われわれが安心していられるかどうかだ。

私は、GAFAをより小規模な企業に分割した場合のほうが、より多くのイノベーションが生まれ、多くの株主の価値が上がり、多くの買収・合併が生まれ、ベンチャーキャピタルの支援を受ける企業が増え、雇用が拡大し、税収も上がると思う。

一方でアメリカにとって、GAFAは世界の他の国々から富を運んでくるすばらしい船だ。アメリカは彼らから利益を得ている。だからこそ、規制ということになれば、アメリカ以外の国が具体的な行動に出ると思う」

いよいよ、来年は、こうしたITジャイアントへの「規制」が、より広範囲に動き出す年になるのだろうか。

今年4月、情報流出で米議会に呼び出されたフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO。見慣れないネクタイ姿が印象的だったが、先ほどのダニエルは「今のテクノロジーを理解している政治家はほとんど見当たらず、議会で喚問をしても的を射た質問をできる議員はいません」と切って捨てていた。

それに比べて、今月初めのグーグルのサンダー・ピチャイCEOの議会証言は、「フェイスブックの時に比べると、議員が勉強をしていたという印象」(米国野村證券、雨宮愛知シニアエコノミスト)だと言う。

日本でも、こうした「データ経済圏」をきちんと管理しようという動きが、政府内で始まっている。2019年は、GAFAを取り巻く環境が大きく変わってくるかもしれない。国家レベルでも、利用者のレベルでも。

GAFAは「アメリカンドリーム」を変質させてしまった

つねに、世界をリードしてきたアメリカ経済。GAFAも体現した「アメリカンドリーム」について、ギャロウェイ氏は、こう語ってくれた。

「アメリカンドリームとは、何百万人もの『百万長者』を作ることだった。ルールに沿って、学校にも通い、いい人間であれば、そうなれた時代があった。しかし、現代は、できるだけ少ない企業が強大なパワーを持ち、一握りの『超億万長者』を生み出すのが、アメリカンドリームになってしまった。これは、社会にとって、いいことではない。かつてのアメリカンドリームの時代に戻るべきだ」

いろんな視点から考えることができるGAFAの時代である。

と、行き交うニューヨークの人たちの「ながら〜」を眺めながら思ったりもした。