最繁忙期を迎えた宅配業界。最大手のヤマト運輸は現場改革を進めているが、まだ途上だ(撮影:大澤 誠)

クリスマス商戦まっただ中の3連休、宅配便ドライバーの配達が佳境を迎えている。ネット通販ではプレゼント用に注文が激増する。大量の小包をクリスマスイブまでに届けられるか、まさに時間勝負だ。クリスマスが終わっても、今度は正月に向けたおせちの配達があり、年末まで気が抜けない日が続く。

今年、宅配最大手のヤマト運輸は最繁忙期の12月を見据えて、戦力増強を進めてきた。その一つが午後から夜間の配達を担う配達特化型ドライバーの「アンカーキャスト」だ。現場改革の切り札として導入された契約社員制度だが、足元の採用人数が社内計画の半分にも満たない実態が明らかになった。

社内計画の半分にも達せず

同社は2020年3月末までに1万人規模のアンカーキャストを確保する目標を掲げる。本誌が入手した内部資料では、2018年11月末時点の在籍数は3679人。11月までに8400人あまりの確保を計画していたが、その半分にも達していなかった。

12月は宅配会社が取り扱う宅配便の量は通常月の1.5倍近くにも膨れ上がる。ヤマトの長尾裕社長は2018年春の経済紙の取材で「この冬の繁忙期までには(目標の1万人の)半分は超えないと話にならない」と意気込んでいたが、採用の遅れは明らかだ。

ヤマトの現場は2016年の年末にかけ、ネット通販拡大による宅配便の急増で混乱し、フルタイムのセールスドライバーなど社員のサービス残業が常態化。会社側は2017〜2018年度の2年間を宅配体制再構築の期間と位置づけ、現場改革を進めてきた。

セールスドライバーにとって夜間の再配達が長時間労働の主要因になっていたが、この部分をアンカーキャストが担うことでセールスドライバーの負担を軽減させる狙いがある。


10月下旬の平日、千葉県のショッピングモールで開かれたアンカーキャストの説明会。午前の会には参加者が1人しかいなかった(記者撮影)

アンカーキャストの導入は2018年春から本格化。会社は半数程度をパートなど社内からの移行、残りを外部からの採用で確保する考えだ。2018年夏から秋にかけ、全国でアンカーキャストの説明会や面接会を開いたが、思うように採用が進まなかった。

10月下旬の平日の午前中、千葉県内のショッピングモールで開かれた説明会にはわずか1人しか参加者がおらず、ヤマトの担当者2人は手持ち無沙汰だった。


求人情報誌に掲載されたアンカーキャストの募集広告。午後からの勤務をアピールしている(出所:タウンワーク社員)

あるヤマト社員は、「アンカーキャストの想定年収は300万円〜400万円。もう少し稼ぎたいというパート社員からアンカーキャストへの移行は一定数あったが、この年収では外からはなかなか集まらない」と話す。宅配業界はドライバー争奪戦の様相を呈しており、外部からの採用における訴求力は弱いといえる。

会社は質よりも人数確保を優先か

アンカーキャストの質にもバラツキがありそうだ。セールスドライバーは1日100個程度配達するのが日常だが、「1日で30個しか配達できないアンカーキャストもいる」(別のヤマト社員)。アンカーキャストが配り切れない荷物が多いと、同じ地域を担当するセールスドライバーの負担軽減につながらない。「アンカーキャストの集まりが悪く、会社は人材の質よりも数の確保をとにかく優先させる方針に変わっていった」(同)。

また、アンカーキャストの制度が現場に十分に周知されていたのかも疑問だ。セールスドライバーの労働時間削減を目的に、アンカーキャストに集荷業務まで担当させていた支店もあった。

アンカーキャストの質や運用に反省があったのか、2018年11月の決算会見で、ヤマトの親会社・ヤマトホールディングスの芝粼健一専務執行役員は「ただ人を入れても意味がない。どう活用するか、現場と相談しながら慎重に導入を進めている」と話した。

ヤマトの改革は少しずつ前進している。2018年4〜9月のフルタイム社員の総労働時間は平均1209時間と前年同期よりも62時間(4.9%)減少した。荷物数が前年比6%減となったことが大きい。アンカーキャストの導入も寄与し始めている。

ただ、セールスドライバーからは待遇面で不満の声も聞かれる。今期は運ぶ荷物の数が減ったため、給料の2〜3割を占めるインセンティブ(歩合給)が減っているからだ。「『もっと稼ぎたい』と、ヤマトを辞めて完全成果主義の個人事業主に転身する社員もいる」と複数の業界関係者は口をそろえる。

ヤマトは今2019年3月期の宅配便の平均単価は662円と前期比約11%を見込む。荷物量の9割を占める法人荷主向けの運賃引き上げが進んでいるからだ。荷物量は約2%減の計画だが、単価増がこれを補って余りある。その結果、ヤマトホールディングスは今期の営業利益を期中に2回上方修正し、660億円(約85%増)とV字回復を狙う。2020年3月期には宅配便の数量を本格的に回復させる計画だ。

アンカーキャストの成否が改革の焦点に

しかし、アンカーキャストの生産性が高まらなければ、セールスドライバーの負荷が再び高まることは必至。セールスドライバーは配達量が増えればインセンティブは増えるが、労働時間も再び増えかねない。

JPモルガン証券の姫野良太アナリストは「アンカーキャストが軌道に乗らなければ、外注コストが再び増え、値上げによる業績改善効果が損なわれかねない」と指摘する。数量を回復させつつ利益成長を持続できるか。ヤマトの改革の成否はアンカーキャストがカギを握っている。