3度目の結婚は「いい人」が決め手だったといいます(イラスト:堀江篤史)

35歳以上で良縁をつかむ「晩婚さん」になるためにはどうすればいいんですか? 本連載もすでに100回を超え、独身男女からこんな質問をぶつけてもらう機会が増えた。その相手の年齢や状況によって答えを変えるように努力しているが、いまこの原稿を書いていて思いつくのは「考えすぎない力」だ。

過激な言い方をするならば、ある種のバカっぽさが結婚には必要だと思う。赤の他人と家族になるのはよく考えるとリスキーな行為なので、石橋を叩いているうちに人生は終わってしまう。よさそうな橋があったらとりあえず渡ってみる。もし崩れて川に落ちたら泳いで岸に戻り、疲れを癒やしてから次の橋を探せばいいのだ。

結婚するなら父親と逆のタイプがいい

6年前に3度目の結婚をした中村祥子さん(仮名、44歳)に会ったのは東京・西荻窪にあるアジア食堂「ぷあん」だった。司会業に従事しているという祥子さんは、背が高く細身の体を黒Tシャツとカーディガンで包んだ美人で、ボブカットと丸眼鏡もよく似合う。人前に立つ仕事なので自分の見せ方をよく知っているのだろう。パクチーを小さくちぎって料理に散らす手つきまで不思議な品がある。


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祥子さんは中小企業を経営する両親に育てられた。祖父が始めた会社を継いだ父親は厳格な人で、何事も「真っ直ぐ」にしないと気が済まない性格だった。母親は事務の一切を引き受けながら家事も怠らない。良妻賢母の典型のような女性だ。

「私は父親とはまったく違うタイプの自由な感じの男性と一緒になりたいな、と思いました。堅い両親への反発だったのでしょう。学生時代のアルバイト先で知り合ったミュージシャンと長く付き合って結婚したのは28歳のときでした」

しかし、彼はミュージシャンとして生活することができず、過酷な労働条件の会社で働いて疲弊していく。祥子さんは不器用な彼にもどかしさを感じながらも支えていた。いつの間にか母親に似ている自分に気づいた。

そんな祥子さんに申し訳ないと思ったのだろうか。彼が家を出ていって2年間の結婚生活が終わった。

「もう1回結婚するぞ、と思って少しだけ考えました。親への反発心で自由な人と結婚して失敗したのだから今度は自分のフィーリングで相手を選ぼう、と」

飲み屋で知り合ったのが2番目の夫になる3歳年上の貴明さん(仮名)だ。外資系金融機関に勤めていて、カウンターで居合わせた人全員にごちそうしてしまうような気前のよさ。博識だが威張ったりはしない。当然、モテる。祥子さんもすぐに貴明さんに好意を抱き、付き合って半年で結婚した。

「父が病気で亡くなる直前の時期だったこともあり、支えが欲しかったのだと思います。でも、結婚前からセックスレスになり、すぐにほかの女性がいることがわかりました。彼のカバンの中から私とではない旅行のチケットが2枚出てきたんです」

貴明さんはそのままほかの女性の元へ行き、家には帰ってこなかった。争うことなく離婚が成立。1人に戻った祥子さんはまた「少しだけ」考えた。

「夢追い人もダメで、フィーリングで選んだ人とも離婚してしまいました。ならば今度は『いい人』を見つけようと思ったんです」

『ドキドキ』ではなく『慣れ親しんだ安心感』

いい人の定義はさまざまだが、祥子さんにとっては堅実さと誠実さを兼ね備えた男性だ。ドキドキするような恋愛感情ではなく、慣れ親しんだものを思い出させてくれるような相手。祥子さんは仕事仲間の洋二郎さん(仮名、48歳)にそれを感じたのだ。

「仕事で知り合ってきちんと話してみたら、親が会社をやっていたなどの共通点があることがわかりました。金銭関係はすごくしっかりしている人です。(前夫の)貴明さんは収入も支出も多くて、面白いからという理由だけで8万円の炊飯器を買ってしまうようなタイプだったので、すごく違いを感じました」

亡き父親も「お買い得」が好きで、ムダ金はいっさい使わない人だった。趣味は車だが、不要な買い替えはしない。愛車を長く大事にし、新車を買うときは吟味し尽くすプロセスを楽しんでいたのだろう。若い頃の祥子さんはそんな父親を疎ましく思っていたが、現在の夫である洋二郎さんも車好きの倹約家である。

「同居している母からも『洋二郎さんはお父さんにそっくりだね』と言われることがあります。うちの兄よりも、血のつながっていない洋二郎さんのほうが父に似ているのは不思議です」

結婚当時は42歳だった洋二郎さん。仕事中心に生きてきたけれど40歳を過ぎて結婚したくなり、近くにいる美人の祥子さんに心惹かれたようだ。祥子さんの仕事ぶりを見て、「この人ならば1人でも生きていける」とも感じたらしい。

あなたは1人でも生きていけそう――。責任感を持って働く独身女性ならば数えきれないほどぶつけられる言葉だろう。必ずしも「だからあなたは結婚できない」という意味ではないところに注意してほしい。現代のアラフォー男性は結婚相手の女性に経済的・精神的な頼もしさを要求することも多いのだ。

お互いに1人でもなんとか生きていけるからこそ、夫婦になって支え合えば子どもを養うゆとりが生まれるかもしれない。真面目な男性はこれぐらい現実的な感覚で女性を見つめている。また、対等な関係で語り合い、高め合えるパートナーとしての伴侶を求めている男性も多い。

祥子さんの話に戻ろう。結婚の1年後には息子が生まれ、その3年後には介護が必要となってきた母親との同居を始めた。現在は、居間だけは母親と別の一軒家での4人暮らしだ。

「次男なのに王子様のように育てられた夫は家事ができません。でも、私がお願いした作業はやってくれるので不満はありません。高齢の母に家事をしてもらって平然としていたときは『おばあちゃんにやらせるな!』と叱りましたけどね。子どもとは何時間一緒にいても平気な人なので、温めて食べる料理だけ用意しておけば、私が出張で2日ぐらい自宅にいなくても大丈夫です」

家庭では祥子さんがリーダーだが、仕事面では尊敬し合う関係を保っている。2人は同じ業界で働いているが得意分野は異なり、一緒に働く機会はない。

「彼は大勢の人の前で話す私を『すごいね』といつも言ってくれます。私は50歳近いのに新しいことにもチャレンジしている彼を見習いたいと思っているところです」

2度の離婚経験があるからこそ「ありがたい」と思えることもある。洋二郎さんとは一緒に生活をしていて不安を感じることがないのだ。

「2回の結婚生活はつねに不安の只中にいました。彼は今夜こそ帰ってくるのかな、将来はどうなるんだろう、と。今の夫は人としての筋が通っているので、安心できるし信頼もしています。何があってもちゃんと私たち家族のところに戻ってきてくれると確信できるのです」

晩婚とは“自分にとってのいい人”探し

再び冒頭の質問に戻る。「晩婚さん」になるためにはどうすればいいのか。多くの独身者が突き当たる壁は、年齢を重ねるほどに「条件」と「気持ち」の両方を満たす相手に出会いにくくなることだ。スペックでお互いを検索してお見合いをする婚活では気持ちが追いついていかない、と嘆く男女は少なくない。

祥子さんの場合は、「父親とは正反対の人」という条件で最初の結婚相手を選んで失敗した。次は自分の恋愛感情に従って結婚したが、その相手は家庭生活にはまったく向かない人だった。

彼女が手痛い経験をしながら行きついた結論は「いい人」だった。世間体のいい人、ではない。自分の仕事と状況を理解してくれて、離婚歴も気にせず、堅実に誠実に向き合ってくれる人だ。

“自分にとってのいい人”はどんな相手なのか。あれこれ考えているだけでは答えは出ない。行動をし、ときには悲しい思いを味わいながら、少しずつ明確になっていくのではないのだろうか。