矛盾や葛藤の渦中にある繊細な若者たちの「インスタ映え」の定義は、どんどん変化している(写真:Fast&Slow / PIXTA)

まだ記憶に新しいと思いますが、昨年2017年のユーキャン新語・流行語大賞で大賞を受賞したのは「インスタ映え」でした(ほかに「忖度(そんたく)」が同時受賞)。

この数年で、SNSのインスタグラムをやっていない中高年にも、「インスタそれ自体の存在」と「インスタ映え」なるものが、大体どんなものであるのかという認識が浸透したように思います。

また、この数年で、若者たちの中には「インスタ検索」、つまり、ネットを検索するのではなく、インスタを検索して、その日行きたいレストランや次に行く旅行先を決める、という検索行為も一般化しており、多くの企業や商品にとってインスタとどう関わるか(インスタ上でどうプロモーションするか、インスタ上に一般人にどう投稿してもらえるか)ということが大きな課題になりつつあります。

こうして「インスタ映え」が中高年にも企業の意識にも浸透する間に、若者たちの間では、きらびやかな世界観を演出する従来のインスタ映えが廃れつつあるようです。

今回、若者たちの間ではやり始めている新しいインスタ映えについて、現役の大学生たちがレポートしてくれているのでご覧ください。

作り込まれた「インスタ映え」は時代遅れ?

このところ、若者のインスタグラムの投稿に変化が起きています。「ブランド品や高級なレストラン・カフェでの食事を紹介するためのツール」「カワイイ自分を堂々とアピールするツール」ではなくなってきているのです。


今回リポートしてくれる大学生たち。左から、城石優希(日本女子大学2年)、山中悠暉(明治大学3年)、今野花音(上智大学3年)(写真:筆者提供)

ただかわいくて美しい、インスタ映えするきれいな写真ばかり投稿しているのは、時代遅れかもしれません。今の若者は、投稿への「いいね!」の数を稼ぎつつ、実際の生活での好感度を高めるべく、工夫をしているのです。

今までは多くの人が、自分をよりよく見せようする投稿を目指していました。しかし、インスタ映えをあからさまに狙っている人たちは「インスタ蝿」などと呼ばれ煙たがられる傾向も出てきています。

「インスタ映えするアイスクリームの写真だけ撮って、アイスは太るから食べずに捨てている人がたくさんいた」という内容のツイートが2017年6月ごろに話題になりました。この頃からインスタ映えへの世の中の風向きが変わってきたかもしれません。

そうした中で最近、若者の間で増えているのが、「デイリージェニック」な投稿です。

デイリージェニックとは私たちの造語ですが、今まではやっていたインスタ映えする投稿は、非日常的できれいな景色やモノ、キメ顔を被写体とし、アングルや小道具にこだわって、さらにきれいに見えるように加工された写真でした。徹底的に非日常を追求し、日常的なものは排除するため、隙がなく生活感はありません。

それに対してデイリージェニックは、非日常と日常を掛け合わせたものです。きれいではあるけれど、どこか隙があります。そしてそれが「いいね!」という好感度につながっているのです。

事例を交えながら、具体的にご紹介してみたいと思います。

インパクトと親近感、両方欲しい

まず、デイリージェニックには2種類のパターンがあります。1)日常のものを非日常的に変えるパターンと、2)非日常な場面であえて日常感を出すパターンです。どちらのパターンでも、インスタ映えするものと、本来単体ではインスタ映えしないようなものを組み合わせてインパクトと親近感を同時に生み出しています。

(1) 日常的なものを使って、非日常感を出すパターン


写真左:Aさんのインスタグラムの全体図。どの投稿も白の背景で統一感を出している。ニベアのリップやワセリンなどドラッグストアで購入ができるアイテムの写真が投稿されている。写真右:スーパーで購入できるチチヤスのヨーグルトを自宅の壁を背景に撮影したもの(写真:筆者提供)

最近、コンビニやスーパーなどで販売されている日常的なものを、自分でかわいく・オシャレにアレンジして、日常の中の非日常をSNS上で演出する若者が増えています。

高価なものを投稿し続けると、フォロワーなどから気取っていると嫌がられてしまうのであえて生活感のあるプチプラなものを加工して投稿しているのかもしれません。

実際に、インスタグラムを利用する女子学生たちに、投稿する際に心がけていることについて聞いてみました。女子大生Aさんは、「自分のことを自慢するのではなく、程よく自分自身の生活の一部や好きなこと、知識などを投稿しています」とのこと。女子大生Bさんは「高いブランドのものばかりを投稿して、フォロワーからお金持ちアピールをしている・調子に乗っていると思われないように心がけています」と話していました。

プチプラなものをかわいく・オシャレに加工するコツを聞いてみると、「背景にかわいい小物を置く。系統をそろえることで全体の投稿がまとまってオシャレに見える」とのこと。

たとえば、Bさんのインスタグラムでは、写真の背景を白くして全体のトーンを合わせています。

(2)非日常的な場面で、日常感を出すパターン


ディズニーランドにて。モンスターズインク アトラクション前にある車に轢かれている風の写真(写真:筆者提供)

一方、ただかわいく写っているプリクラや自撮りだけではなく、あえて面白いポーズなどをするなど“楽しさ”を重視した投稿をしている人が増えています。

国内のテーマパークなど、行きやすいけれど非日常の場でよく見られます。非日常な空間で、コミカルで気取らない姿をあえて写しています。日常的な仲の良さが伝わるうえに、格好つけない等身大の姿のため、嫌みがありません。

コミカルな投稿をしている女子高生Cさんに話を聞くと、

「印象深い写真を撮りたかったのでこのポーズにしました。かわいさより面白さを求めてみた」とのこと。

ほかの女子高生にも話を聞いたところ、インスタ映えをする場所で、あえて格好つけない、ポーズをしている若者は増えているそうです。インスタ映えを狙いすぎて嫌みにならないよう気をつけている様子がうかがえます。

Cさん自身も「流行のポーズやみんなと少し変わったポーズなどをするように心がけている」とのこと。 “楽しさ・面白さ・ふざけた感じ”を交えることでより好感度が高いインスタグラムを作っています。

あえてネタに振り切った投稿

世界の渡辺直美タイプ

普段は行けないような高級で非日常的な世界(海外旅行や高級レストランなど)のなかで絶対にインスタ映えするスポットやモノを使って、「あえて」ネタに振り切った投稿をする人たちもいます。


グアムのプールにて。海とプールが繋がって見えるかのような写真。フードとサングラスを身につけ、てるてる坊主風にして、あえてちぐはぐに(写真:筆者提供)

彼らはインスタ映えする場所・モノの中に、変顔・変なポーズ・変な服装などを組み合わせて“ちぐはぐな要素”を取り入れます。

インスタ映えを明らかに狙った構図やキメ顔をした写真を投稿すると、狙っていることが表に出すぎてウザいと思われてしまわれがちです。そこで投稿に若干“崩し”を入れながら、楽しさをアピールしつつ、さりげなくすてきさをアピールするという工夫が生まれています。

嫌みな投稿にしないためには、それを緩和するような、面白いネタに振るなどの工夫が必要になります。

若者たちには非日常で高級なものへの憧れもありますが、その分ねたみも買ってしまいます。そこで彼・彼女たちは海外のインスタ映えするスポットに行ったり、ブランド品のインスタ映えするモノを持っていたとしても、少しネタ要素も入れて、面白くてセンスの良い画像を投稿しているようです。

こうした投稿をする若者たちの特徴は、オシャレで流行にも敏感であることです。普段の投稿もオシャレなものばかりで、フォロワーも多い傾向にあります。彼・彼女たちはかなりハイセンスですが、このようなネタに振り切った投稿をたまにすることで、「センスもいいし、面白い」という好感度の高くて憧れられるようなキャラクターを手に入れていると感じます。

芸能人で言うと渡辺直美さんがこの部類に所属するかもしれません。彼女の投稿は、きれいなプールや海で化粧がとれた顔や不意打ちの顔、インスタ映えするアイスを手に持って変顔をしたりして、よく写真に収めています。

躍動感を表現


同級生の結婚式の際の写真。ドレスを着ながら、教会であえてジャンプして写真に写っている。ブレ感を出すことで、写真写りを気にしないほど、その瞬間を楽しんでいる様子を表している(写真:筆者提供)

投稿写真で「躍動感」を出す人たちがいます。彼・彼女たちは、インスタ映えするような場所で絶対にキメ顔で写ったりせず、写真のようにジャンプをしたりあえてブレ感を出します。顔の写り具合や写真写りなどを気にせずに、その瞬間を本当に楽しんでいるということを表現しようとしているからです。

日頃こうした投稿をしている女子高生のDさんに聞いてみたところ、「投稿する際には統一感を出し、キメキメの投稿をしてイキってる、お金持ちアピールをしているなと思われないように気をつけています」と語ってくれました。

背景にあるのは若者の複雑な心理

若者は「他人にどう思われているか」をとても気にしています。一方、インスタグラムは承認欲求・自己顕示欲を満たすものとして使われています。しかし、その気持ちの強さがあまりにもフォロワーにみえみえだと敬遠され、「いいね!」の数は減ってしまいます。

実際に都内大学生のEさんは「自慢しすぎた投稿にはいいね!しない」そうです。それは「インスタ映えを狙いすぎた投稿・キメキメで気取った投稿・自慢した投稿はウザい」「インスタ映えインスタ映えと言ってるやつはダサイ」という若者の新たなムードが生まれているからではないでしょうか。

大学生のFさんは「SNSを見てくれている知り合いに、裏で何を言われているか気になります」と語ってくれました。他人の目を気にして、嫌われないように慎重にインスタグラムを投稿していることがわかります。

SNSの投稿を見る際には、誰しも斜に構えがちです。だからこそ、着飾った非日常的な投稿は気にさわるのでしょう。

ブランド物・旅行・高い食べ物などを購入し、オシャレに見えるように配置にこだわり、さらに加工して、徹底的にインスタ映えさせる――。これはある程度お金や時間に余裕がある人にしかできないことです。そして、ダメな部分は見せないので、隙がありません。そのためお高くとまっている・手の届かない印象を与えてしまいます。身近な人がそのような投稿ばかりしていると、一部ですが、嫉妬を感じたり毒づいてしまう人も出てきます。

都内女子大生のGさんは「あまりにもブランド物や高級レストランばかり載せているのを見ると、もしかして見栄を張っているだけのセレブ気取り? パパ活?と思ってしまいます。何となくイラつくから『いいね!』しないです。こういった投稿を見て、女子会のネタにして盛り上がっています」と答えてくれました。

盛る、映えるを意識し尽くした投稿は、「高慢だ」「嫌みったらしい」「一般人のくせに気取っている」「お金持ちぶっている」「ナルシストでイタい」と批判的に思ってしまうようです。

一方、だからといって気取りすぎない日常的な投稿は「汚い」「ダサい」と思われます。それは「いいね!」したい投稿ではないのです。そのため、非日常・日常のどちらかに振り切りすぎない「程良い」投稿が好まれているのでしょう。

原田の総評:自慢の仕方が変わっている

SNSによって友達の数は格段に以前より増えたし、そのつながっている多くの友達に日常的に何かをアピールする場もできた。一方、あまりに直接的に自慢すると、それだけ多くの人に批判をされたり、うざがられる機会も格段に以前より増えた……。

こうした矛盾や葛藤の渦中にあるのが今の若者たちと言えます。2015年に筆者らは『間接自慢する若者たち』という書籍を出しました。この本はこうした矛盾に置かれるようになった今の若者たちが、直接的・ストレートな表現ではなく、間接的・婉曲的な表現を駆使し、自慢をするテクニックを身につけ始めた、という内容のものでした。

それから数年経ち、若者たちの間接自慢が、インスタ上でも見られるようになり、それが”現時点”では「デイリージェニック」ということなのだと思います。”現時点”と言ったのは、この若者たちの間接自慢の手法は、とても変化のスピードが速いからです。

読者の皆様もぜひインスタ上での若者たちのデイリージェニックに注目して、今後の変化も追っていただきたいと思います。