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観測気球だ!撃つか!?止めるべきか!?

手戻り、それは人間が忌み嫌う罪です。せっかく途中までことを進めたのに、誰かの一言でそれが引っくり返ってしまったときの、時間・労力すべてが無駄になるあの感じ。なるべくそれを減らすために、各方面にご意見をうかがいつつ慎重に議論を進めていくわけですが、それでも全員に確認をするのは無理です。

そこに東京都知事・小池百合子氏のような「アテクシはその話、存じ上げておりません」「ゼロベースで」「一度立ち止まるべき」などというトップがやってくると、説明の最初からやり直しになってしまいます。そして、世の中のすべての人にとって一切不利益のない案などないというのに、Aの不利益よりもBの不利益を重視したりし始めて、それが解消されるまで物事の動きを止めたりするのです。

そして、もっと厄介なのが世間。どう転ぶかわからない世の中の風を読み、あーだこーだ言われないようにするのは極めて難しい。たとえば東京五輪・パラリンピックのエンブレム初案であった佐野研二郎氏の「T」は、世間の風が思いがけず吹き荒れた事例でしょう。

「T」に関しては、パクリかどうかということが肝だったのではなく、「何となく敵視された」ことが肝でした。何となく敵視されたことから始まった執拗な粗探しとネガティブキャンペーンは、実際に行なわれていた氏のパクリ仕事の発見につながり、ついに「T」を撃墜した。もしあれが「いいね!」から始まる動きであったなら、パクリ仕事は特に発見されることもなく、東京には今頃「T」があふれていたはずです。

「受け入れられるかな?敵視されるかな?」

そんな世間の風を読もうと、17日に打ち上げられた観測気球。それは聖火リレーに関するものでした。何と、東京五輪の聖火リレーは「瞬間移動」をするというのです。17日に開かれた都内の聖火リレールートを検討する実行委員会では「都内の全自治体をまわる」という大方針を確認し、その実行にあたって諸島部に点在する町村をいちいち手渡しでリレーするのが面倒なため、あらかじめリレー先に種火を運んでおいて、「リレー元の火を消すと同時に、リレー先で火を点ける」という瞬間移動案を検討しているというのです。

↓「リレーだから萌える」っていう部分を一番真っ先に切り捨てていく感じの検討!


もうちょっと考えようや!

たとえば「小笠原村は無視する」とか!

ダメですかね!無視しちゃ!


この観測気球に脊髄反射する前にまず前提条件を整理していきましょう。聖火リレーの聖火というのはギリシャ・オリンピアのヘラ神殿で採火されたのち、日本に種火として運ばれ、開催都市へとリレーされていきます。その際、「リレー期間は100日以内」とされており、「聖火を分けて運ぶことはできない(※複数のトーチで運んではいけないの意)」と定められています。

この「分けて運ぶなよ」というルールが厳しい。

もし、この基本的ルールがなかったなら、「瞬間移動ということでどうでしょうなぁ?」みたいなアホなことは検討委員会からも出てこなかったでしょう。極端な話、聖火が日本についたらすぐ2000本くらいのトーチに火を点けまして、それをトラックで運べば都合1週間くらいで全国すべての市区町村に聖火を運ぶことだってできるのですから。瞬間移動などせずとも。

東京都はいわゆる東京以外に、大島が属する大島町や三宅島が属する三宅村、父島・母島が属する小笠原村など9つの町村と東京都直轄の無人島で形成される諸島部を抱えています。特に小笠原村は遠く、移動には竹芝桟橋から出る定期船で片道24時間を要します。本州から約1000キロ、八丈島からでも700キロあまり離れた小笠原村・父島にはヘリコプターでの輸送は叶わず、現地には空港もありません。

急病人とかが出たときはどうするかと言うと、自衛隊に頼んで厚木基地から海水面に着水できる飛行艇を飛ばして迎えに行くか、一旦患者を硫黄島までヘリで運んでそこから自衛隊機を飛ばして本土に運びます。ほとんど戦争みたいなことをして行き来するような場所なのです。ていうか硫黄島って戦争の話でしか出てこないような場所ですよね。順風満帆ならフェリー移動でも3日もあればリレーできるでしょうが、台風でもやってくれば何日も足止めという事態もあり得ます。

限られた日数のなかで、聖火を分けることなく、「東京のすべての市区町村をまわる」…という課題を解決するために出てきたのが「瞬間移動」案なわけです。運ぶ作業自体は1本のトーチで行ないつつ、空路あるいは海路の部分は「あらかじめ現地に種火を置いておく」ことでショートカットしようという。「パッと消して、パッと点けたら、しゅんかんいどう〜」とかいうアホの世迷言じゃないんですよ!「諸島部は行かんでええんちゃう?」「島からも見に来ないだろ」「ていうか、アソコ東京じゃなくない?」とか言ったりしない、優しい人たちの議論なんですよ!この瞬間移動案は!

↓ダーウィンが来ちゃうような場所に聖火を持っていくのは、それなりに大変なのです!


行く時間だけ考えたらニューヨークのほうが近いけど、この島は都内!

東京の一部を無視することはできないという優しい理念!



戦後、小笠原諸島が日本に返還されたのは1967年のこと。つまり、1964年の東京五輪を小笠原諸島は経験していないのです。「え?アメリカの一部として1960年のスコーバレー冬季五輪を経験してるべ?」などと冷酷漢なら言うのでしょうが、それではいくらなんでもあんまりですよね。ようやく迎える地元での五輪。競技会場を持っていくのは無茶としても、聖火リレーくらい行ってあげたいじゃないですか。

小笠原にも行きたい。

でも、日程は限られているし、島めぐり用に別のトーチを走らせることもできない。

かといって、出たとこ勝負で台風に閉じ込められたらかなわん。

そんな複雑な諸事情を勘案した結果、「瞬間移動」案を思いついたものの、「絶対コレSNSでボロクソ言われるよなぁ」と思って打ち上げられたのが今回の観測気球なわけです。案の定、SNSではボロクソ言われております。「箱根駅伝の繰り上げスタートかよ」「完全に別の火じゃん」「やめちまえ」などなど、ごもっともな意見が並んでおります。しかし、それらはすべて前提条件を踏まえていない的外れなもの。今のままでは正しく世間の風を探ることはできません。

まず、今回ご説明差し上げたような前提条件をご理解いただいたうえで、正しく反応していただきたい。それでこそ、観測気球を打ち上げた意味もあります。前提条件を踏まえれば、「では、父島に空港を作りましょう」とか「ギリシャから日本にトーチがくる際、一旦硫黄島に降りて父島に立ち寄りましょう」とか「万一の遅延の際に開会式への影響を緩和すべく、東京都の諸島部を最初にまわることにしましょう」とか、もっと建設的な反応が出てくるはずなのです。

「つながってないやん!」だけで終わったら無駄になるこの観測気球、どうぞみなさん正しく反応してあげてください。

東京五輪組織委員会と聖火リレー実行委員会では、みなさんの正しい反応をお待ちしています!

↓ちなみに、最後になりますが僕からも意見を述べさせていただきます!

「つながってないやん!」

それが開催都市住民としての率直な心情です。「A地点で火を消して、B地点で火を点けたらリレー完了」などというアホな話がどこにあるでしょう。それを言い出したら、沖縄へのフェリー移動とか、北海道へのフェリー移動とかもまったく意味ないですよね?先に種火を運んでおいて、「ハイ、瞬間移動でござーい」で、そのぶんリレー日程にあてたほうがよくないですか?そもそもギリシャで採火したあと、種火だけ持ってきまして新国立競技場で「ハイ、瞬間移動でござーい」をやったら済む話じゃないですか?

日程が限られている、わかります。

聖火を分けられない、わかります。

東京都の全市区町村をまわるという理念、素晴らしい。

ただそれで出てくる答えが「ハイ、瞬間移動でござーい」というのでは、あまりに安易ではないでしょうか。何のためにこれまで世界の人々が、頑張って火をつないできたのか。「つなぐ」という行為に心惹かれるからでしょう。ギリシャで採火された火が一筆書きのようにめぐっていくからこそ、この火をつなごう、この火を絶やしてはならないという情緒も生まれるわけでしょう。繰り上げスタート前提の箱根駅伝のようなもので、瞬間移動し始めた瞬間に台無しの気分です。瞬間台無しです。

グレートバリアリーフの海中を、エベレスト山頂を、宇宙ステーションを聖火がめぐってきたのは「どんな困難があろうとも、この火を届ける」という限界打破への挑戦だったはずです。無理に思えるようなことを、人間の英知と創意工夫で突破していくことに意味がある。それは東京五輪を通じてアスリートが見せる挑戦と同じ性質のものです。アスリートたちが「2メートルの高さの棒を飛び越えるんですか…?」「2メートルきついっすね…」「手前に踏み台を置かせていただきまして…ヒョイ」とかやり始めたら、気分は台無しじゃないですか?例え話は台有りですけど、台無しじゃないですか?

小笠原村、素晴らしい挑戦のテーマです。

東京ならではの秘境です。

そこにどうやって聖火を届けるのか、その物語こそがこの聖火リレーを彩り、世界の人々に東京五輪を伝えるのです。今回の聖火リレーにあたっては東日本大震災からの復興を祈って、岩手・宮城・福島3県で聖火の展示を行なうそうですが、その聖火が「台風がきたら小笠原村に行けないor戻れないかもしれないから、瞬間移動にしとこう」と言い出したら、自然の脅威に挑む気概を欠いていやしないでしょうか。

聖火がめぐることが大事なのではなく、どうやって聖火を届けるのか、困難に挑むことが大事なのです。エベレストだの宇宙だのいらぬ困難を探してこいとまでは言いませんが、東京都の外れにある村に聖火を届けることくらい、まっとうな「リレー」で行こうという気持ちはないものかと。安易な瞬間移動で解決しようという、その姿勢こそが問題です。

最終的に「保険として種火を置いておく」ことは許容するとしても、ちゃんとつなぐことを今の時点で諦めてはいけない。早々に諦める、という姿勢がいけない。届けましょう、聖火を。運びましょう、聖火を。沖ノ鳥島まで行っちゃうと「島っていうか岩ですね…」とよからぬ宣伝になりそうなので、端まで行けとは言いません。せめて父島までは行こうじゃないですか。それぐらいの困難がなかったらやりがいもないでしょう。

過去には確かに遠く離れた地に聖火を瞬間移動させた例もあります。1976年モントリオール五輪では、聖火を電子パルスに変換して衛星経由でカナダに送り、レーザー光線によってトーチに点火するというリレーが行なわれました。これも「つながってないやん!」な話なのですが、そういう方法を英知と創意工夫で生み出したら、心はつながる気がしませんか。

安易に逃げず、困難に挑戦する。

そのために時間が必要ならば千葉と埼玉の日程をカットしましょう。むしろアッチのほうが実質東京の一部みたいなものなのに、都合のいいときだけ「ウチは別の県です」って言い張るじゃないですか。千葉のぶんは江戸川区のリレーで浦安を一瞬通過すればいいことにしましょう。埼玉のぶんは板橋区のリレーで済んだことにしましょう。これで6日ぶんの日程が浮きますので、それを島めぐりにあてようじゃないですか。

諸島部を瞬間移動するよりも、埼玉と千葉を秒で終わらせるほうが納得感のあるリレーになる、僕はそのように思うものであります!

<1976年モントリオール五輪での電子パルス式「聖火瞬間移動」の模様>


小笠原村を諦めるのではなく、埼玉と千葉を省こう!

板橋区・足立区・江戸川区あたりのリレーに、両県からの参加希望者も組み込みますから!




パラリンピックの聖火は諸島部で採火してもいいかもですね!