ふたりならSNSの限界を超えられる 森もり子&トミムラコタ

返事をくれない彼氏を追い込むLINEスタンプ「もっと私にかまってよ!」のブレイクが、マンガ家転身のきっかけとなった森もり子さん(男性)。実父の特異なエピソードをマンガにしたツイートが大反響を呼び、一躍注目を浴びたトミムラコタさん。

いずれも、ひと昔前では考えられなかったルートでデビューに至り、人気を博すクリエイターです。2018年夏にご結婚され夫婦として「週刊ヤングマガジン」(講談社/以下、「ヤンマガ」)誌上で共作にも挑戦中のふたりに、デジタル時代のマンガ家として活動する上での心境をお伺いしました。

撮影/和久井幸一 取材・文/友清哲 デザイン/桜庭侑紀

SNS上でのブレイクがマンガ家転身のきっかけに

おふたりは共に、マンガ家として少し変わった経歴をお持ちです。もともとマンガ家になることを目標に活動されていたのでしょうか。
▲資料となる本が並ぶ、森さんのデスク。手描きのネームで消しゴムのカスが出るため、卓上クリーナーを常備しているそう。
森 正直、僕は本当に何も考えていなかったですね。大学では一応、デザイン系の勉強をしていましたけど、就職先は全く関係ない分野の営業職でした。
それがたまたまTwitterで、OLに扮して日々のストレスをつぶやき始めたら、わりと早々に2万5000人くらいまでフォロワー数が増えたんです。
そんな中、LINEが自由にスタンプをデザインできる「クリエイターズスタンプ」を始めるというので、試しに自分でも作ってみたところ、Twitterで拡散されて思いのほか売れたんです。それからマンガやイラストの仕事が来るようになりました。
▲キャラクターグッズやマーカーでカラフルに彩られた、トミムラさんのデスク。
トミムラ 私は中学生くらいまでは、本気でマンガ家になりたくて、「週刊少年ジャンプ」(集英社)の新人賞に応募したりしていました。でも、自分にはストーリーマンガを描く才能はなさそうだとすぐに気が付いて、そこからイラストやデザインの道を目指すことにしたんです。
20歳の時に1度、結婚と出産を経験しているのですが、その際に在宅で仕事ができる方法を考え始めました。ちょうどその頃、ブログやSNSで話題になったマンガ家やイラストレーターが本を出版する流れができてきたので、フリーランスのイラストレーターとして細々と仕事をしながら、「いつか自分もブレイクするぞ」と、ずっと夢見ていたんです。
そしてある日、実のお父さんのエピソードをマンガにしてTwitterに載せたことから、道が開けるわけですね。
トミムラ そうなんです。父のことをネタにしたツイートがバズって、「実録!父さん伝説」(イースト・プレス)という本にもなりました。その結果、こうしてマンガ家になれましたし、父には感謝しかないですね。
▲おふたりの仕事部屋と「ギャルと恐竜」制作風景をムービーで。
マンガはもともと、おふたりにとって身近なものだったのでしょうか。
トミムラ 「ジャンプ」はずっと読んでましたね。
森 僕もそうです。ただ、どちらかというとマンガより、巻末の読者コーナーにハガキを送ることが目的でした。いわゆるハガキ職人というやつで、書いたネタをいかに採用してもらうか、懸命に頭をひねっていました。
トミムラ 今でも大喜利とか大好きだもんね。考えてみれば、やってることはTwitterとあまり変わらない気がする。
森 確かにそうかも。特に高校時代は熱心で、投稿者同士のオフ会みたいなものにまで参加していました。
トミムラ 私の場合はそれに相当するのがインターネットで、自分のサイトにイラストを載せて、アクセス数が増えるのを楽しんでいました。そうした自己顕示欲みたいなものの矛先が、やがてTwitterに向かったわけですね。

バズる条件は、“秒”で理解できること

デジタル出身のマンガ家として、おふたりは紙とWebのメディアの違いをどんなところに感じていますか?
トミムラ 例えばTwitterで多くの人に読んでもらうためには、簡潔で分かりやすいものでなければならないと思います。バズっている作品を分析してみると、たいてい文字数が少なめで、“秒”で理解できるものが多いですから。
これは私自身も日頃から意識していることで、Twitter用に描くときは、内容に凝り過ぎず、ぱっと見て分かるものを心掛けています。
一方、本や雑誌の場合は、ページをめくってもらわなければなりませんし、1冊単位で構成を考える必要があります。これがSNS出身の私にとってはすごく難しくて…まだまだ修行が必要だと日々痛感しています。
この点については、スタンプ出身なのにしっかりコマ割りができる彼はすごいなと尊敬していますね。
森 初期の頃に出た「言うほどじゃないけど」(KADOKAWA/中経出版)あたりはまだ、ひとネタを2〜4コマで構成する、SNSの延長線上にあるようなものが多かったんですけど。ただ、この作品を見た編集者の方が声を掛けてくれたことが、後に自分にとって初のストーリーマンガとなる、「さよなら、ハイスクール」(秋田書店)につながりました。
▲(中央)森さんのスタンプを元にした初期の作品「もっと私にかまってよ!」(マイナビ出版)は、イラスト+テキストの体裁。(右)「言うほどじゃないけど」は4コマ形式。
Twitterでバズるためには、分かりやすいことに加え、広く共感を集める「あるある」感が必要なようにも感じます。
森 もちろん、共感もバズる条件のひとつだとは思います。でも逆に、反感が反響につながっているケースも多いのではないでしょうか。投稿内容にどこか異論があって、何かひとこと言いたくなるようなケースですね。
決して意図的にやっているわけではないのですが、「言うほどじゃないけど」でも、中には炎上して拡散したものもありました。
トミムラ この時は、そもそも書籍化する前提でTwitterにネタを投稿していたんだよね。
森 そう。だからバズらせなければいけないというミッションがあった。これはキツかったですよ(苦笑)。
つまり、森さんは戦略的にツイートをバズらせることができるんですか?
森 当時はある程度できていましたが、今は難しいです。何らかのテーマに対して「ひとこと言ってやるぞ!」という尖ったツイートは、もう食傷気味じゃないですか?
それよりも最近は、かわいい動物やキャラクターなど、癒し系のツイートの方が拡散されやすいように思います。
トミムラ 実際、2009年くらいからずっとTwitterを見てきた実感として、昔と今ではリツイートされる投稿の性質が全然違います。お笑い番組などと同じで、何がウケるかという傾向も、時代とともに変化していくんですよね。
森 そこで最近、試しにツイートの再利用をやってるんです。5〜6年前にバズったネタを、今もう一度投稿してみると、反応が全然違うことに驚かされます。

フォロワー数でいえば当時の倍になっているのに、リツイートの数も「いいね」の数も当時の半分以下だったりしますからね。つまりは最近のTwitterはもう、自分にそれほどマッチしなくなってきているように感じています。
トミムラ ボケの芸風が、今のTwitterに合わなくなってきてるというのはあるかもね(笑)。
▲自身の立ち位置を分析し、冷静に受け止めているふたり。

SNS時代に見る、「フォロワー」と「ファン」の違いとは?

そうした時代の変化、そして自らの立場の変化を踏まえて、SNSの利用の仕方も変わりつつあるのでは?
森 そうですね。フォロワー数の推移でいうと、LINEスタンプのヒットで5万人くらいまで増えて、さらに「言うほどじゃないけど」で9万人に達しました。
それが現在、11万人ほどで落ち着いているんですが、初期からのフォロワーさんと最近のフォロワーさんとでは、僕のアカウントに求めるものが異なるんですよ。
昔からのフォロワーさんが主に恋愛系の面白ネタを欲しているのに対し、最近のフォロワーさんは作品を見てTwitterをチェックしてくれるようになった人が多くて、必ずしも絵を描いて載せてほしいと思っているわけではなさそうです。
なので、何をつぶやいても、必ず一定数フォローが減ったり増えたりするのが現状で…そのたびに一喜一憂していては疲れてしまいます。だからツイート内容に心血を注ぐより、せっかくこうしてマンガ家、マンガ原作者になれたのですから、今は本業に全力を尽くしたいと思っています。そもそもフォロワーとファンは全くの別物ですし。
フォロワーとファンの違い。これは興味深い視点です。
トミムラ 2年前に、合計フォロワー数が約42万人になるマンガ家・イラストレーター仲間が集まって、イベントをやったんです。会場は100人くらいのキャパでしたが、皆で告知すればすぐに満員になるだろうと高をくくっていました。
ところが告知から1週間が経った段階で、予約はたったの12人。これこそ、フォロワーが必ずしもファンではないということを、如実に示した実例でしたね。
最終的には人が集まらないことをネタにもう一度告知して、どうにかイベントの体をなしたのですが、調子に乗ってはいけないぞと、自分たちを戒める良い機会になりました(笑)。フォロワーが1万人いるイラストレーターよりも、フォロワー数3000人の地下アイドルの方が、おそらく集客力ははるかに上なんです。
森 だからバズを狙ったり、フォロワー数を増やしたりすることに、あまり熱心になるべきではないと思うんですよ。
トミムラ もしかするとTwitter自体、遠からず廃れるかもしれないですしね。
紙媒体出身のマンガ家ではあり得ないマーケティングを、身をもって体験されている感じですよね。
トミムラ そうですね。最近はSNSから、noteなど読者からの支援が見えやすいブログに移行するクリエイターも増えているように感じています。

私たちの場合は、たまたまそのタイミングで「ヤンマガ」の連載が決まったので、ブログではなく紙に少し比重が移ったということですね。
▲森さんは、読者に飽きずに楽しんでもらえるよう、連載各回の登場人物と読後感を整理し、似た展開が続かないようにスプレッドシートで管理しているそう。

編集者とのマッチングサイトで「ヤンマガ」連載が決定

「ヤンマガ」で連載中の「ギャルと恐竜」は、森さんが原作、トミムラさんが作画という夫婦での分業体制を採られています。こうした共作を行なうことになったきっかけは?
トミムラ もともと私は絵を描く方が好きで、ストーリーを考えることに苦手意識がありました。その反面、彼の書く物語が好きだったので、だったら互いの得意分野を組み合わせてやってみようと、試しに1枚絵のマンガを作ってTwitterにアップしたんです。

これが意外と多くの方に好評で、もっとやってみようという気になりました。
森 「恐竜くん」は、彼女が昔から描き続けてきたキャラクターなんです。そこで今度はこれをメインにした作品を作ってみようと考えました。あくまで遊び感覚ではありましたが、恐竜くんを使ってどんな物語が考えられるか、ふたりでアイデアを出し合って。
▲「ギャルと恐竜」第1話より。
トミムラ そこでふと、「ギャルと恐竜を組み合わせたら面白そうだ」とひらめいたのが始まりですね。最初に仕上げたのは、Twitterに載せることを意識した4ページものの作品でした。
森 さらにこの作品を同時に、「DAYS NEO(デイズネオ)」というマンガ家とマンガ編集者をマッチングするサイトにアップしてみたら、すぐに「ヤンマガ」の編集者さんからコンタクトがあって。わりとトントン拍子に連載が決まりました。
作画は当然、フルデジタルで?
森 そうなんですけど、僕が彼女に渡すネームだけは手書きでやっています。最初はデジタルでやっていましたが、内容さえ伝われば、きれいに仕上げる必要はないので、手書きの方が手軽だなと。
▲正確な手付きで線を引いていく森さん。
原作に専念するというのは、森さんにとって新鮮だったのでは?
森 僕は自分の絵があまり好きではないので、もともと描かないに越したことはないんです。LINEスタンプにした「もっと私にかまってよ!」にしても、実はそれより前に小説にして、電子書籍で自費出版しているんですよ。
トミムラ だからストーリーを考えるのが苦手な私としては、本当に最適なパートナーなんです。いつも机を並べて仕事しているので、ネームの相談くらいには乗りますが、ストーリーに関して私の意見が採用されるのは本当にごくわずかです。
▲左がトミムラさんの絵が印刷された完成原稿、右が森さん作成の手書きネーム。
共作だけでなく、それぞれ単独でマンガ家としてのお仕事もされている中で、信頼できる相談相手がすぐ隣りにいるのは、心強いことですね。
森 例えば自分の作品のカラー原稿を描いている時、絵の得意な彼女に「ここ、どうやって塗ればいいかな」とすぐ相談できるのはありがたいです。
トミムラ 逆に私はネームの相談をすることが多いです。ただ、聞かれればお互いにいろいろ意見を言うものの、どちらも頑固で人の言うことを聞くタイプではないので、作品に反映されることは意外と少ないかもしれませんね(笑)。

将来はバンド・デシネ風作品での共作を

おふたりは現在、SNS、雑誌、単行本と3つの発表の場を持っています。それぞれのフィールドによって、見せ方など意識することはありますか?
森 描き方を変えることはありませんが、強いて言えば、「ヤンマガ」は暴力やギャンブル、エロなどの要素が多い雑誌です。だからこそ「ギャルと恐竜」を読んでくれる人がいるのだと思っているので、箸休め的な癒やしであることは少し意識しますね。

「カイジ」(福本伸行作の賭博シリーズ)の直後に「ギャルと恐竜」が掲載されたりもするわけですから(笑)。
▲取材中、お互いの発言を補足するように絶妙な合いの手を入れていたおふたり。
トミムラ それから、Twitterでマンガを告知する際には、SNSユーザーに喜ばれそうなシーンをピックアップして載せるようにはしています。でも、そのくらいですね。私たちの場合は、メディアによって作品の作り方を変えることはあまりしません。
共作は今後も続けていかれるのでしょうか。
▲トミムラさんお気に入りのバンド・デシネのひとつ「タンタンの冒険」。左は「サルヴァドール」。
トミムラ やりたいですね。特に私はイラストが大好きなので、海外のバンド・デシネ(フランス語圏で人気の、1枚絵形式のマンガ)のような作品をふたりで作れたらいいなと思っています。

「タンタンの冒険」(ベルギーのマンガ家・エルジェの作品)みたいな作品を描くことに、昔からすごく憧れているので。私ひとりで描くと、中身の薄いおしゃれぶったマンガになりがちなので、彼に構成を考えてもらって、読み応えのあるバンド・デシネ風作品を作りたい。そしてそれをいつか1冊の本にするのが、今一番の夢です。
▲映画や本にたくさん触れながら「物語の作り方」を研究しているという森さん。
森 僕はより原作の方に力を入れていきたいですね。彼女の言うバンド・デシネ風の作品もそうですし、他のマンガ家さんと組んでやろうとしている企画も進んでいます。

これも「DAYS NEO」をきっかけに声を掛けていただいた企画なんですが、何とか形にできるよう頑張っています。やりたいテーマはたくさんあるので、ひとつずつ形にしていければと思います。
森もり子
1988年福岡生まれ。2014年に発売した「返事をくれない彼氏を追い込む」LINEスタンプでブレイク。以降、マンガ家、原作者、イラストレーターとして活躍中。
トミムラコタ
1990年沖縄生まれ。イラストレーターとして活動中の2016年、Twitterに投稿した実父のエピソードが支持され、マンガ家に。「ぼくたちLGBT」(集英社ふんわりジャンプ)も話題を呼んだ。

「【動画あり】デジタル時代のマンガ家の机」特集一覧

サイン入り色紙をプレゼント!

今回インタビューをさせていただいた、森もり子さん&トミムラコタさんの直筆恐竜イラスト&サイン入り色紙を抽選で2名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2018年12月22日(土)12:00〜12月28日(金)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/1月7日(月)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し) のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから1月7日(月)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき1月10日(木)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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