サイバーセキュリティも担当する桜田義孝五輪担当相の珍回答は海外メディアでも大きく取り上げられた(写真:REUTERS/Issei Kato)

10日の臨時国会会期末を前に、外国人労働者の受け入れ拡大を目的とする出入国管理・難民認定法(入管難民法)改正をめぐって、野党は「生煮え」との批判を展開している。重要な改正法案審議での与野党激突の陰に隠れる形で、召集直後から「口利き疑惑」や「珍妙答弁」で集中砲火を浴び続けてきた片山さつき地方創生相と桜田義孝五輪担当相の「閣僚の資質」問題も"継続審議"となった。

10月下旬以来1カ月半余の臨時国会での与野党攻防で、終盤まで炎上し続けた「片山・桜田」劇場だが、「閣僚辞任という最悪の結末は避けられた」(自民国対)ことで、安倍晋三首相ら政府与党首脳は安どしているとされる。ただ、片山、桜田両氏の「強烈な個性」もあって、年明けからの通常国会でも疑惑拡大や不規則発言などで“再炎上”する可能性は大きい。来年は12年に1度の統一地方選と参院選が重なる「選挙イヤー」だけに、片山、桜田両氏の言動は「政権運営の時限爆弾」として、年明け以降も首相を悩ますことになりそうだ。

臨時国会序盤での「片山・桜田答弁の“ハチャメチャぶり”」(自民国対)に、与党内にも早期更迭論は浮上した。しかし、片山氏の「疑惑」への野党の追及は決定打に欠け、桜田氏の「お粗末極まる」答弁も致命傷にはならなかったことに加え、「年明けまで泳がせて、通常国会で攻撃を続けるほうが効果的」(立憲民主幹部)との野党側の思惑もあって、「いったん幕引き」(同)となったのが実情とされる。

窮余の名誉棄損訴訟でしのいだ片山氏

首相が「全員野球内閣」と胸を張った10月2日発足の第4次安倍改造内閣での唯一の女性で「目玉閣僚」として注目された片山氏だが、閣僚就任を狙い定めたような「文春砲」と呼ばれる『週刊文春』の暴露記事で、臨時国会直前から大炎上した。指摘された「国税庁口利きで100万円」という疑惑が事実なら、あっせん収賄にもなりかねない重大スキャンダルだったからだ。

しかも、文春が「振り込み要求」のコピーや当事者とのやり取りとされる「音声データ」も公開したことで、片山氏は就任早々「絶体絶命のピンチ」(自民国対)に追い込まれた。しかし、片山氏は記事内容を「まったくの虚偽」として、すかさず発行元の文芸春秋社を名誉棄損で提訴し、国会での追及にも「係争中」を理由に事実関係の説明を拒み続けた。

さらに、各週刊誌などが続報として相次いで取り上げた片山氏の政治資金収支報告書の記載漏れ問題も、片山氏は厚顔無恥ともみえる「謝罪する」「訂正した」の繰り返し答弁でしのぎ、野党側が「自前の追及材料を発掘できなかった」(自民国対)こともあって、決定的事態には至らないまま時間ばかりが経過した。

当初は与党内にも、「放置していると事態はより深刻化しかねない。早く(辞任で)決着をつけるべきだ」(自民国対)との声があったが、片山氏が直接担当する法案もなかったため、「国会混乱の責任」というお定まりの更迭理由もつけにくく、首相も任命権者だけに、「与えられた職務をしっかり果たしてもらいたい」と擁護せざるを得なかった。

国辱との批判にも「有名になった」と桜田氏

一方、国会審議が始まってから、片山氏以上のお騒がせ閣僚となったのが桜田氏だ。参院審議で立憲民主の蓮舫副代表から五輪の基本理念などを聞かれても「頓珍漢な答弁」(蓮舫氏)を繰り返し、しかも、質問者の名前を「レンポ―さん」などと間違って失笑を買い、与党内からも「人の名前を正確に呼ぶのは人間の基本だ。注意してほしい」(斎藤鉄夫公明幹事長)など苦言が相次いだ。

桜田氏が五輪担当との兼務で所管することになった改正サイバーセキュリティ基本法の審議でも、桜田氏は「普段からパソコンは使用しない」「(USBメモリーは)穴を(に)入れるらしいが細かいことは分からない」などと平然として答弁し、世界各国のメデイアが「ありえない」「システムエラー」などと面白おかしく書き立て、野党側も「国辱だ」といきり立った。

しかし、桜田氏は「そんなに私の名前が世界に知られたのか。いいか悪いかは別として、有名になったんじゃないか」とどこ吹く風で、担当閣僚としての資質を問われても「いろんな能力を総結集して、ジャッジするのが私の仕事。判断力は、私は抜群だと思っている」などと開き直った。

さらに桜田氏は、今月改定の「防衛大綱」に絡む質疑でも、自らの所管と絡むサイバー空間での防衛力強化について「防衛に関することは国防省だ」と省名まで間違えて答弁して野党から「閣僚どころか政治家としての見識や資質に欠ける」(国民民主幹部)と攻め立てられ、民放テレビのワイドショーでも「失言・放言閣僚」として大きく取り上げられる状況が続いた。

ただ、「資質に欠けるかどうかは客観的な指標がない」(自民幹部)ことに加え、桜田氏所管のサイバー基本法も会期末前にすんなり成立したため、野党の追及も"尻切れトンボ”に終わった。

2012年暮れの第2次安倍政権発足以来、組閣・改造人事のたびに「問題閣僚」の追及で国会が混乱し、事態打開のための辞任・更迭劇が繰り返されてきた。とくに、2014年秋の臨時国会では、同年9月発足の第2次安倍改造内閣の人事で首相が抜擢した小渕優子経済産業相と松島みどり法相が、政治資金スキャンダルなどで就任から1カ月半余で辞任に追い込まれた経緯もある。このため、今回も永田町では「片山、桜田両氏も臨時国会中の辞任は避けられない」(閣僚経験者)との見方が少なくなかった。

しかし、臨時国会終盤の与野党攻防は、「事実上の移民法」とされる入管難民法が最大の対決案件となり、「片山・桜田劇場は観客の飽きもあって、優先順位が落ちた」(立憲民主幹部)のが実態だ。しかも、会期末直前までもつれ込んだ入管難民法をめぐる攻防も、有力紙のコラムで「お定まりの“激突ショー”」と揶揄されたように、「野党側にも本気度が欠けていた」(自民長老)ことで、片山・桜田問題の決着は年明け以降に持ち越しとなった。

ただ、片山氏の隠れ蓑となってきた名誉棄損訴訟は12月3日の第1回口頭弁論で文春側が争う姿勢を示し、年明けからの審理で「黒白がつけられる」(関係者)ことになった。片山氏側の泣き所とされる「音声データ」ついて、片山氏は「自分の声かどうか判断できない」などと同氏と大蔵省(現財務省)同期入省で、今春にセクハラ問題で辞任した福田淳一前財務事務次官の真似のような答弁をした。だが、今後の審理に絡んで声紋鑑定などで真偽が明らかになる可能性が大きい。

来年1月中旬から続開となる名誉棄損訴訟の審理の過程で、片山氏が国会で否定した「疑惑」が「事実」と認定されれば、一気に進退問題に発展することは避けられない。このため、首相にとっても、片山氏が「政権運営の時限爆弾」(自民長老)であることに変わりはないわけだ。

参院選に向け、政権へのボディ―ブローにも

一方、桜田氏についても「まともに答弁できない」ことへの国民の不信感は根強いとされる。同氏の過去の「暴言・失言・迷言」もメディアの好餌となっており、与党内でも「通常国会での予算委審議は長丁場なので、官僚が作った答弁メモの棒読みだけでは乗り切れるはずがない」(自民国対)との指摘もある。

しかも、年明けには2020年東京五輪・パラリンピックの準備も大詰めを迎えるだけに、担当閣僚の桜田氏が国会対応に追われれば、「オールジャパンで進める準備作業の障害になる」(東京都幹部)ことも避けられない。

こうしてみると、「野党の腰砕けと、閣僚としての追及慣れもあって、臨時国会はなんとか逃げ切れた」(自民国対)とされる片山、桜田両氏だが、現状では来年の通常国会でも改めて野党の標的となり、国会混乱の火種となる可能性は否定できない。

首相周辺では「2人のお騒がせ大臣のおかげで、首相の泣き所の“もり・かけ疑惑”はほとんど追及されずに済んだ」(周辺)とほくそ笑む向きもあるが、与党内には「通常国会でもこんな状況が続けば、参院選に向けて安倍政権のボディブローになる」(自民幹部)との不安は隠せない。