液晶のシャープが有機ELスマホ「AQUOS zero」を出すワケと次に狙う一手とは?

写真拡大 (全6枚)

ソフトバンクは2018年12月上旬に、シャープスマートフォン「AQUOS zero」を発売する。

これまでシャープと言えばIGZO液晶をはじめとする“液晶のシャープ”、“液晶テレビのシャープ”というイメージだったが、AQUOS zeroは同社初となる有機EL(OLED)ディスプレイを搭載する。

この有機ELパネルは自社によるものと発表されており、今後スマートフォン以外にも使用されるのか気になるところである。

MM総研が11月14日に発表した「2018年度上期国内携帯電話端末出荷概況」によるメーカー別出荷台数シェア1位がアップル、そして2位にシャープが続いている。ちなみに3位が富士通、4位がソニーモバイルコミュニケーションズ、5位が京セラである。

SIMフリースマートフォンを含めると1位がアップル、2位がシャープで変わらず、3位にソニーモバイルコミュニケーションズ、4位にサムスン電子、5位にファーウェイがランクインする。


アップルとシャープの差は大きいものの、シャープは今や携帯電話市場において国内メーカーのトップである。シャープの躍進のきっかけとなったのは、昨年夏にブランドリニューアルを行ったフラグシップモデルの「AQUOS R」だ。

その高価なフラグシップモデルAQUOS Rのほかに低価格路線の「AQUOS Sense」シリーズを展開し、SIMフリースマートフォン市場向けにも製品提供することでシェアの拡大に成功している。

シャープは、新ブランド展開の際に出荷台数100万台を目指すとしていたが、1年足らずでその目標を達成し、その結果が今回のランキング結果にもあらわれているというわけである。




そして最新のAQUOSスマートフォンは、液晶のシャープが有機ELを搭載する攻めたプロダクトである。

製品名はフラグシップモデルの「R」ではなくAQUOS zeroとしていることから、Rとなにが違うのか気になるところだ。

旧来の液晶のメリットは、低コストであることが上げられる。
スマートフォンは高価なハイエンドモデルだけではなく、ニーズに合わせた低価格モデルもある。こうした製品の価格に合わせて液晶パネルを調達しているのである。

AQUOSのRシリーズに搭載する自社製の「IGZO液晶」は、HDR(ハイダイナミックレンジ)に対応する高輝度バックライト、残像が少ないスクロール表示を得意とする120Hz倍速駆動や、固定画面では画面のリフレッシュを行わない省電力仕様など、独自技術で進化を遂げている。

さらに、最近のスマートフォンのトレンドでもあるノッチデザインや角丸デザインなど自由な形状を実現するためにIGZOフリーフォームディスプレイをスマートフォンに採用するなど、液晶のシャープらしいパーツの調達能力の高さが注目すべき点である。





それでも有機ELを採用するには、理由がある。
有機ELの特徴は、
液晶パネルのようなバックライトやカラーフィルター、パネルまわりの配線を必要としないフィルム状のシンプルな構造にある。

これはどういうことなのかと言うと、
スマートフォンを構成する部品のなかでも
・ディスプレイ
・バッテリー
・メイン基板
これらは厚さに直結するものである。
メイン基板は小型化や実装の工夫でバッテリーと重ならないようにして厚みを減らすことが可能だが、前面がほぼ表示エリアとなるディスプレイは、これらの構成パーツと必ず重なることになる。

つまり、いまやディスプレイの薄型化は、
スマートフォンの厚みを左右する要素となるのである。




有機ELのもうひとつのメリットは、無発光の黒に対して輝度差で色を表現できるため、高いコントラストを実現できることにある。

さらに液晶のシャープが、液晶ではなく有機ELを搭載したスマートフォンを世に出す理由は薄いスマートフォンを作りたいからではない。AQUOS zeroのコンセプトは軽さだ。

2018年夏モデルの最新スマートフォン「AQUOS R2」は、画面サイズ約6.0インチで重さが181gであるのに対して、AQUOS zeroは画面サイズがそれよりも大きい約6.2インチだが重さは146gと、35gも軽い。

同じ大画面のスマーフォンは200gを超えるモデルも多く、“大画面で薄い“は実現できても”大画面で薄くて軽い”は実現できていない状況だ。

シャープのチャレンジはこの“大画面で薄くて軽いハイエンドモデル“の開発なのだ。




有機EL化で薄くするとともに、背面の構造を重いガラスではなく軽くて強度が高い「アラミド繊維」と側面のマグネシウム合金によるハイブリッド構造にすることで、薄さと堅牢性を実現している。
また、背面のカメラはデュアルではなくシングルにしていることでパーツ数を減らして軽量化しているようだ。

とはいえ、軽量化するために様々な制限が生まれてしまってはユーザーにメリットはない。

AQUOS zeroは前述したカメラ以外、なんとAQUOS R2を上回るスペックを実現してる。
・搭載するプロセッサはQualcommのハイエンド「Snapdragon 845」で共通。
・内蔵メモリーはAQUOS R2が4GBなのに対し、AQUOS zeroは6GB
・内蔵ストレージはAQUOS R2が64GBに対し、AQUOS zeroは128GB




AQUOS zeroのコンセプトは「世界最軽量」を謳うとともに「エンターテインメント・フラグシップ」としていることがこのスペックからうかがい知ることができるだろう。

動画視聴やゲーミングなどに活かすためのハイスペックと美しい大画面表示、そして手に持って疲れない重さを実現することが、エンターテインメント・フラグシップの目指すところなのである。

海外では既に、スマートフォンでも本格的なゲームを楽しみたいと言うユーザーに向けたゲーミングスマートフォンを発売しているメーカーが増えている。
シャープも国内メーカーとしてはいち早くその流れにのったスマートフォン開発を行っていると考えても良いのかも知れない。

こうした開発力と明確なコンセプトの打ち出し方が、国内メーカートップシェアとなったシャープの強みなのではないだろうか。


執筆  mi2_303