ブロードキャピタル・パートナーズ株式会社
CEO/元グッドウィル・グループ CEO 折口 雅博(おりぐち まさひろ)

2018年9月、成長企業の経営者約300名が一堂に会する経営者イベントBestVenture100 Conference 2018が開催されました。

「会社を成長させたい」「大きな組織にしたい」―。経営者なら誰しもが持っている願望ですよね。それを10年ちょっとの短期間で実現させてしまった経営者がいます。設立12年で年商7,700億円、従業員は世界で10万人という驚異の“スピード記録”を打ち立てた元グッドウィル・グループCEOの折口さんです。「ポイントさえ押さえれば急成長や急拡大は可能ですよ」と話す折口さんに、実体験に基づいた “実践ノウハウ”を聞きました。

[概要]
BestVenture100 Conference 2018
2018年9月3日(月)
主催:イシン株式会社
協賛:株式会社あしたのチーム/有限責任あずさ監査法人/IPO Forum/宝印刷株式会社/三幸エステート株式会社/株式会社オービックビジネスコンサルタント/株式会社オロ/株式会社プロネット

[セッション]
10人を制すれば「10万人企業」を創れる〜「折口流組織マネジメント」の具体論〜

[スピーカー]
ブロードキャピタル・パートナーズ株式会社 CEO/元グッドウィル・グループ創業者 折口 雅博 氏

「センターピン」を外している経営者が多い

「なぜ、短期間でグッドウィルグループ(以下、GWG)を急成長させることができたんですか」。こんな質問を経営者のみなさんからたびたび頂きます。

私が起業家として、経営者として重視していたのは「事業戦略」と「人事組織」。このふたつこそGWGを短期間で成長させることができた理由です。

事業戦略では「センターピン」と「ブランディング」に注意していました。

センターピンとは、スポーツのボーリングでいちばん前に立っている真ん中のピンのこと。このセンターピンを倒さないとストライクは絶対に取れません。

だけど、私の目から見て、センターピンを倒しにいっていない経営者が意外と多いように感じます。どんなに格好良いフォームで投げても、ボールがセンターピンを外し、その後ろのピンを倒しているだけでは勝てません。

「この事業のセンターピンはなにか」を見抜き、絶対に倒す。それができるかどうかにビジネスの成否はかかっています。グッドウィルの前に「ジュリアナ東京」(脚注1)を立ち上げた時もそうでした。

(脚注1)ジュリアナ東京:折口氏がプロデュースしたバブル時代を象徴する伝説のディスコ。正式名称は「JULIANA'S TOKYO British discotheque in 芝浦」

すべての業種業態に通じる法則

ジュリアナ東京(以下、ジュリアナ)の立ち上げに備え、都内の有名ディスコをいくつか視察しました。豪華な内装や最新の音響システムなどを導入していて、素晴らしい設備を誇っていました。

しかし、4回ほどリサーチして、どのディスコも「センターピンに気づいていない」ことを確信しました(参照記事:「再上陸したレジェンド『折口雅博』“超成功のセンターピン”」)。

ディスコのセンターピンとはなにか。それは「連日超満員にすること」です。ジュリアナ以前のディスコといえば、満員になるのは週末だけ、平日はガランとしていました。客層も「ディスコ好き」の人たちに限られていました。

私は「連日超満員にする」というセンターピンを倒しに行くため、ジュリアナをオープンさせる前から無料の招待券を大量に配るなどしました。結果は、オープン初日からジュリアナは大盛況。週末だけではなく平日も超満員です。

そうなると「あそこはスゴイ人気だね」「じゃあ、行ってみようか」と話題になり、「ディスコに行ってみたいけど、ちょっとコワイな」などと敬遠していた人も「みんな行ってるから安心だな」と感じてくれます。だからジュリアナには連日お客さんが押しかけ、大きな社会現象にすらなったのです。

ジュリアナの後、ヴェルファーレ、グッドウィル、コムスン、MEGUなどさまざまな業種業態のビジネスを手がけました。どんな場合も「このビジネスのセンターピンはなにか」を見抜くことに全力を傾け、倒すことに集中しました。

グッドウィルグループは1999年の店頭公開から5年後の2004年に東証一部に上場した

事業拡大の武器

「ブランディング」は事業を拡大させる“武器”です。なぜなら、世の中は表面的なことで判断する場合が多いからです。良いか悪いかは別として、それは動かしがたい事実です。

良いイメージがあれば有利に事業展開できます。しかし、逆の場合は誰も近寄ってくれません。大きな成長はできません。

そんなイメージ、固定観念をガラッと逆転させるチカラがブランディングにはあります。

グッドウィルでは次のようなブランディングを行いました。グッドウィルは軽作業、つまり3Kの分野に特化した人材派遣ビジネスです。当初は良いイメージを持たれませんでした。資金調達のために投資家を回ってお願いしても、誰もいい返事をしてくれませんでした。

事業の成長性はすごく高いんです。たとえば引っ越し、お中元やお歳暮のシーズンの配送作業、イベントの設営など。短期間だけ働き手がほしい会社はたくさんありました。グッドウィルが提供していた“現金日払い”についても働く人たちから大きなニーズがありました。

こうした「短期間だけ働いてほしい」という企業側のニーズと「働いたその日に給与がほしい」という働き手のニ-ズをマッチングできれば、社会課題の解決に貢献する大きなビジネスになるはず。そう確信していました。

しかし、事業としての成長性を説くだけでは投資家は話を聞いてくれませんでした。業界のイメージが悪いからです。これは経営的にも大きな問題でした。「現金日払い」なので、売上が上げるほど潤沢なキャッシュが必要になるからです。前進するためには、どうしても資金調達が必要でした。

そこでグッドウィルでは「軽作業のアウトソーシング」というブランディングを打ち出しました。このブランディングによって “3Kの人材派遣”というネガティブなイメージを払拭でき、投資家は話を聞いてくれるようになりました。ブランディングによって資金調達という大きな壁を突破できたのです。

「ブランディング」による逆転劇

私がブランディングを行う際に注意しているのは「オフィシャルなもの」「メジャーなもの」と感じてもらえることです。介護事業のコムスンではテレビCMなどの広告宣伝に投資してブランディングを行い、先にイメージをつくって事業を進めました。介護事業にもよくないイメージ、暗い先入観があったため、コムスンのブランディングでは「明るいイメージ」をつくることに注力しました。

それが功を奏して「コムスンで働きたい」という人材や「コムスンで介護サービスを受けたい」というお客さまが増えました。「コムスンだったらいいよ」ということで、介護施設を建設・運営する際のパートナーである土地オーナーの方たちもたくさん参画してくれました。

クリスタル(脚注2)という企業を約880億円で買収した際は「1週間で買収資金を調達しなければいけない」という難問に直面しました。ふつうに考えれば、到底、あり得ません。しかし、わずか1週間で巨額の買収資金を調達できました。

(脚注2)クリスタル:2006年にグッドウィル・グループが買収した人材派遣・業務請負分野の大手企業

それまでに培ってきたグッドウィル・グループのブランディングと成功を積み重ねてきた信用がモノを言ったからです。ブランディングは企業経営の根幹のひとつ。成長戦略のキモなんです。

M&Aのセンターピン

M&Aで買収する際のセンターピンについてもお話しましょう。それは買収先の企業の利益状況。買収先に借入があっても、それをカバーできる利益が出ていればまったく問題ありません。

Photo:INOUZ Times

どのようにして利益状況を把握するのか。私が重視したのは決算書ではありません。税務申告書です。税務申告書の内容はかなり正確だからです。誰でも税務署はコワイですから(笑)

前述したクリスタル買収の際も税務申告書をチェックし、買収資金をカバーできるだけの利益があることを事前に把握したうえで買収を決断しました。何も知らないマスコミからは「リスキーな巨額買収」などと言われましたが、実体はまったく違います。十分な計算があり、むしろ割安な買収でした。

※※続きはPART2「『適材適所×理念徹底×公正な昇格』が “差別化された企業”を創る」で※※
10万人のGWGをまとめあげた折口さんの「組織マネジメント術」「人事戦略」などをお伝えします