J1参入プレーオフ2回戦。横浜FC(3位)対東京ヴェルディ(6位)は0-0で推移し、7分間の追加タイムに突入した。事件が起きたのは96分。東京VはCKのチャンスを得ると、そのボールは攻め上がっていたGK上福元直人に向かっていった。

 躍動感溢れるアクションから放たれたそのヘディングを、横浜GK南雄太は際どくセーブ。しかし、そのこぼれ球をドウグラス・ヴィエイラに突かれた。

 横浜FCが下位チームの東京Vに土壇場で決勝点が生まれた瞬間である。

 ご承知のように下位チームにとって引き分けは敗戦に相当し、上位チームの引き分けは勝利に相当する。つまり、敗色濃厚だった東京Vにとってこの一撃は、「ソロホーマー」ではない、まさに逆転弾に相当した。

 ホーム&アウェー方式のアウェーゴールルールに似た意味がある。精神的にもスコア的にも優位に立っていた上位チームの足下は、この瞬間、大きく揺らぐことになった。ここで1点奪い返せば、それは再逆転を意味するが、時間が押し詰まっていると焦り、慌てる。

 参入プレーオフ1回戦、大宮アルディージャ対東京Vも例外ではなかった。5位と6位のこの対決は、後半13分、東京Vが退場者を出し11人対10人の関係になっていた。スコアは0-0。東京Vは圧倒的不利な状況にあった。

 大宮はその逆。このまま時間が経過すればオッケーだった。逆転にされにくい状況であったにもかかわらず、後半25分、FKからいきなり逆転弾に相当するゴールを奪われてしまう。

 残りは20分強。それまで守備的に構えていた大宮は慌てて反撃に転じ、大型FWシモビッチを投入するなど、パワープレーに打って出た。この試合で大宮が普通にサッカーをした時間は何分もなかった。本来の力を発揮できずに敗れたという印象だ。

 試合の設定に慣れていないことが一番だと思われるが、参入プレーオフを連続して観戦すると、試合の中身が必要以上にドタバタしていたことに気付かされる。

 横浜FC対東京V戦は、繰り返すが、追加タイムは7分の表示だった。3分だと少ない。4分だと標準。5分だと長い。これが追加タイムが掲示されたときの常識的な感想だと思われるが、それが7分と出たとき、三ツ沢スタジアムを満員に埋めた観衆はざわついた。少なくとも、そのうちの2分以上は、横浜FCのGK南の怪我の処置に費やされた時間だった。

 その時、南の背後に陣取った3千人ぐらいの東京Vサポーターは、時間稼ぎではないかとブーイングを飛ばしたものだ。しかし、いざ7分の表示が掲げられると、今度は横浜FCのファンが焦った。横浜FCの選手の反応もファンと同じだったに違いない。あと1点取らなければ敗退が決まる東京Vが慌てるのは当然。だが、それと同じぐらい、いやそれ以上に横浜FCの選手も平常心を乱していた。

 そしてレフェリーだ。この日、笛を吹いたのはプロフェッショナルレフェリーの松尾一氏だったが、不必要な警告を出したり、反則を取るべき所を見逃したりと、こちらの不安定ぶりも同じレベルで目に止まった。

 乱れがちな試合を上手く収める。優秀といわれるレフェリーは選手より精神的に落ち着きがあり、一段上をゆく存在であるべきだが、この場合はそうではなかった。特殊なレギュレーションに選手と同じように慌てていた。

 東京Vのロティーナ監督は、試合後の会見で不満を口にした。昨季のプレーオフ名古屋グランパス対ジェフ千葉戦における判定のおかしさについても、それから1年経ったいま、その当事者でもないのに語っていた。

 この複雑な設定の参入プレーオフを、キチッと裁ける審判は、日本に何人いるだろうか。とはいえ、サッカーのレベルというものは、選手が審判を大きく上回ることもなければ、審判が選手を大きく上回ることもない。どっちもどっち。お互いは相殺される関係にある。