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将来のクラシックカーを選ぶ

クラシックカーの地位につきそうなクルマを見極めるのは、簡単ではない。かつては、モータースポーツの血統をひくという事実が将来のクラシックカーになれるお墨付きといえた。だが、最近はそうともいえなくなってきた。公認規則は変わるし、いまやどのメーカーも競技車両を公道用に焼き直すことにこだわらなくなってきたからだ。

かわって何がポイントかというと、まず希少性、そして定評だ。すなわち生産数が少なく、クラスやカテゴリーを代表するクルマだと広くみなされていれば、クラシックカーになる素質は十分あるといえよう。

美しさもはずせない要素だ。デザインでカテゴリーに新風を吹きこんだクルマは、ゆくゆくは高く評価されるはずだ。

ここにご紹介するクルマはいずれも、そういう条件をひとつは満たしている。次第に価値の上がっていくクルマが多いだろうが、それについては考慮せず、所有し運転して楽しいかに的を絞った。さあ、たったの500ポンド(7万5000円)から、将来のクラシックまちがいなしのクルマを手にいれよう。

500〜2000ポンド(7万5000円〜30万円)クラス

フォード・プーマ(1997-2002)

このクルマ、フォード・フィエスタのメカニズムに猫を思わせるシャープなボディを被せただけといわれればそれまでだ。だが、しつけの良いシャシーとキレのあるステアリング、そして元気な1.7ℓエンジンのおかげで、実に気持ちよく走れる。

だが、サビというクルマのもっとも厄介な疫病に侵されて年々生存車は減る一方だ。いまはたった500ポンド(7万5000円)から手に入るが、サビのない個体の相場は今後上がっていくかもしれない。

アウディTT(1998-2006)

フォルクスワーゲン・ゴルフの着せかえ版といえるアウディTTは、もともと運転の楽しさを一途に追い求めてクーペ市場に新しい標準をもたらそうとしたクルマではなかった。むしろ、バウハウス・デザインと称されて賞賛をうけた、極限まで要素を削りとったスタイルでクーペデザインの流れを変えたのだ。

程度のよくないクルマは1000ポンド(15万円)以下で見つかるが、強力な228psの1.8ℓエンジンをつんだ手入れの良い個体でも1800ポンド(27万円)くらいの相場だ。

500〜2000ポンド(7万5000円〜30万円)クラス(その2)

フィアット・パンダ100HP(2006-2010)

この背高でかわいらしいパンダに、威勢のいい辛口版があったとご存じの方がどのくらいいただろうか。この100HP、実用ハッチそのものの見た目はさておき、ステアリングを握るととんでもなくおもしろいのだ。

標準モデルよりもスプリングは硬いので跳びはねる傾向はある。だが1.4ℓエンジンを思いきり歌わせてタイヤを鳴らせば、バタバタした乗り心地もなるほどと思えてくるのだ。100HPは希少だが、1500ポンド(22万円)あたりから探せる。

スズキ・スイフト・スポーツ(2005-2012)

ちっぽけな体つきとにっこり顔のスイフト・スポーツは、蝶ネクタイを結んだ子犬みたいにかわいい。そんな一見小粋な1.6ℓエンジンのハッチバックだが、インリフトからの唐突なオーバーステア傾向には細心の注意が必要で、雑な運転をすると道の外へ飛んでいくことになる。

ただ、そういう尖ったハンドリング特性だからこそ無類に楽しいともいえるのだ。運動性に荒さをのこした古きよきホットハッチの掉尾を飾る1台として、評価は今後高まっていくと思われる。今のところは1400ポンド(21万円)くらいで見つかる。

2000〜5000ポンド(30万円〜75万円)クラス

ポルシェ・ボクスター986(1996-2004)

1990年代中盤に初代ボクスターがデビューしたとき、このクルマの目指すところがいまひとつわからなかった。前半分を2つくっつけたようなスタイリングもそうだし、どう見てもポルシェの旗艦たる911の劣化版にしか映らないとあっては、イメージ重視の顧客には受けいれかねるものだった。

だが運転すれば、それが誤りだったとわかる。前輪の状況をよく伝えるステアリング、すばらしくバランスのとれたしつけの良いシャシー、そしてピリ辛のフラット6がおりなす、目もくらむ楽しさなのだ。そこそこの程度のものなら4000ポンド(60万円)くらいで、ちょっと力不足の2.5ℓよりずっと魅力的な2.7ℓ版もそれくらいで見つかる。時満ちて、ボクスターはポルシェうとともに世界に冠たる地位へと押し上げたことをあらためて知ることになるのだ。

フォルクスワーゲン・フェートン(2002-2006)

自動車市場の動向などにとんと疎いひとでも、フォルクスワーゲン製の高級車というものが悲惨なまでの失敗に終わることは予測がついただろう。だが、移り気なフェルディナント・ピエヒが先頭に立って開発されたフェートンはとにもかくにも2002年に世に送りだされた。売れゆきの鈍さは氷河の進むがごとしだったが、地道に改良を重ねられ、ほんの数年前までは新車価格表にも載っていたのだ。

このクルマにふさわしいエンジンは4.2ℓV8と6.0ℓW12のガソリン版だが、売りに出されることは皆無だ。運がよければ3.2ℓV6のガソリン版を5000ポンド(75万円)以下で「発掘」できるかもしれないが、この価格帯ではほとんどが3.0ℓのV6ディーゼルだ。企業の愚行をあらわす記念碑としては、最高の1例だろう。

2000〜5000ポンド(30万円〜75万円)クラス(その2)

ボルボ850 T5-Rエステート(1995-1996)

角ばった箱形をしたボルボ850エステートが縁石で跳ね上がりながらサーキットを駆けまわるという、あまりに場違いで奇妙な光景は、今に至るまでツーリングカーレースの一番の象徴的な絵図になっている。

その公道版たる850 T5-Rは、メカニズム的な共通点はほとんどないとはいえ、ただレースカーとの関連だけで引く手あまたのモデルになっていくだろう。そもそも、T5-Rはもともと公認のための特別モデルでもなんでもなかったのだ。

ポルシェ944(1982-1991)

齢36となったポルシェ944は順調にクラシックへの道を歩んできているが、相場の方はようやく上を向きつつあるというところだ。同時代の911が今でも優に3万ポンド(445万円)はするのにくらべれば、944ははるかに安く手に入る。

具体的には、192psとよりパワフルな2.5ℓ4気筒を積んだ後期の944S、それも走行16万kmを大きく超えない個体が8000ポンド(120万円)前後で見つかる。パワートレインのトランスアクスル配置によるところが大きい、完ぺきと言っていいシャシーバランスをもつ944。これからも、運転が楽しく乗る価値のある1台には変わりないだろう。

2000〜5000ポンド(30万円〜75万円)クラス(その3)

シトロエンC6(2005-2012)

シトロエンは、奇妙で反体制的なクルマづくりが評価されてきた。小さな泡の中に閉じこもるかのように、長い間わが道をいっていた。2CV、DS、XM、BXなど、まさに変わり種というほかない。

そこで、その「へんてこ」の最後を飾るC6を、たったの3000ポンド(45万円)であなたのものにしてみてはいかがだろうか。いまのシトロエンのラインナップに、あの頃の奇天烈さなど見る影もないのだから。

スバル・インプレッサ2000ターボ(1994-2000)

スバル・インプレッサは、おとなしい見た目ながら高性能で魅力にあふれる1台だ。特にターボパンチの効いた加速、バラバラというボクサーエンジン特有の音、英国のデコボコ道も豊かなストロークで滑らかにいなしてくれるサスペンションが秀逸だ。

乱暴に扱われていない個体を探しだすのがきわめて難しいのが難だが、これからもその独創性で人気を集めることになるだろう。

5000〜1万ポンド(75万円〜150万円)クラス

BMW Z4クーペ(2006-2009)

なぜロードスターよりもクーペのほうが魅力的というのかふしぎに思われるかもしれない。それは、希少性(全Z4中クーペはわずか9%だ)とスーパーカーの縮小版のような流麗なファストバックのスタイルが大きいからだといえる。特に斜め後ろから見ると、現代のBMWに共通する美しさの要素が備わることがわかる。

Z4クーペは程度極上のクルマでも1万5000ポンド(220万円)くらいだ。だが、馬力てんこ盛りのMバージョンでなく3.0siはどうだろう? たしかにZ4Mより76ps劣るが、6000ポンド(90万円)から見つかると聞いたらグラッとこないだろうか。低走行車なら8000ポンド(117万円)は見ておこう。そうそう、室内は笑ってしまうほど狭いので、身体がおさまるか確認をお忘れなく。

ルノー・アヴァンタイム(2001-2003)

奇妙奇天烈なクルマをつくっては毅然として送りだすことにかけて、ルノーに並ぶものはそういないだろう。少なくとも15〜20年くらい前までは、開発担当者が(たぶん赤ワインで酔っ払いながら)思いついた突飛なコンセプトカーをそのまま生産車にしてしまうような会社だったのだ。

クリオV6、ヴェルサティス、そしてこのSUVもどきのアヴァンタイムなど、世に出る前にどこかでお蔵入りにされてもおかしくなかったクルマばかりだ。そのアヴァンタイムは今、そこそこの程度のものが6000ポンド(90万円)くらいで買える。

1万〜1万5000ポンド(150万円〜225万円)クラス

メルセデスSL55 AMG(2002-2008)

SLがスポーツカーだなんてとんでもない、のんびり流すクルマだろうと鼻であしらうのは造作もないことだ。だが、AMGがみっちり手塩にかけると、隠れていた野性的な面があらわれる。

SL55 AMGのスーパーチャージャーつきV8エンジンは、500ps級のパワーもさることながら低空飛行するスピットファイアのようなサウンドで、SLのブルジョア的なイメージを完膚なまでに吹き飛ばす。ただ、電動ハードトップにアクティブ・ボディ・コントロールサスペンションを備えるSL55は決してシンプルなクルマではない。

実際、特に初期モデルではシールの劣化した電動ルーフがトランクへ水漏れを起こすことがあるし、凝ったサスペンションもひとたび故障すれば高額な請求が舞いこむことになる。それらが仇となってSL55の価値は下がったし、これからも上がる見こみは薄いかもしれない。だが雷鳴のようなエンジンサウンドを耳にすれば、そんなことはどうでもよくなってしまうだろう。

ランド・ローバー・ディフェンダー(1982-2016)

ディフェンダーを買うというのは、家を建てるのにレンガとモルタルを買うような確かなお金の使い方といえる。おまけにこのクルマをカルト的に支持する一部のひとにとっては、その他大勢の「理性ある」ひとびとが考えるよりもはるかに高い価値があるのだ。

たしかにこのディフェンダー、遅いしウルサいし、快適とはほど遠い上にどうしようもなく古臭い。それでもあこがれの的ではあるし、だからこそ価値も上がっているのだ。1万ポンド(147万円)以下の売り物はそうそうないが、1万4000ポンド(206万円)も出せば良い買い物ができるだろう。

1万〜1万5000ポンド(150万円〜225万円)クラス(その2)

アルファ・ロメオ164 Q4(1993-1998)

ピニンファリーナが、おそらく定規や三角定規もそれなりに使ってデザインしたとみえるこの164は、BMWの5シリーズに対するイタリアの反撃だった。1993年に登場したこのQ4は、V6エンジンと4WDで武装したとはいえ、たしかに315psを誇る当時のM5の敵ではなかった。

だが、アルファの232psだって決してダメなわけではない。今となってはまずお目にかかれないが、もし見つかっても1万5000ポンド(221万円)もあれば大丈夫だろう。

初代フォード・フォーカスRS(2002-2003)

ホットハッチの図式を塗りかえたのは、何をおいても初代フォーカスRSに他ならない。精度、細部へのこだわり、そしてサーキット仕上げのメカニズム。このいずれもスポーツカー並みの基準で開発されたはじめてのハッチバック車だったのだ。

パンチの効いたターボパワーとそれを路面に伝えるクワイフ製LSDの組み合わせでとんでもない性能を披露したが、同時に危なっかしい一面もあった。オリジナルを保った個体は今後価値が急上昇する可能性がある。今のところは、程度の悪くないもので1万2000ポンド(177万円)というところだ。

編集部員のおすすめ

3代目トヨタ・MR2

こちらの程度極上なMR2、なんと5000ポンド(74万円)で手に入る。2000ポンド(29万円)でもその気になれば悪くない個体が見つかるし、その間ならよりどりみどりだ。当時もエキサイティングなことにかけては随一のスポーツカーだった。

しっかりとした鋭い感じはマツダMX-5より上だったし、日常の実用性もロータス・エリーゼにまさる。完ぺきなバランス、といっても良い。相場もこれから上がるいっぽうだろう。(アレックス・ロビンス)

シトロエン・サクソVTR

わたしはかつてシトロエンがつくった3ドアスーパーミニのサクソ、それも1.6ℓ 8バルブエンジンを積んだ高性能版のVTRにしたい。走りはプジョー106 GTiのほうがよかったが、こちらはちょっと予算が合わない。

もっともサクソだって、後輪のリフトによるオーバーステア傾向が強いのと足元がちょっと狭いくらいで、そう大きく劣るわけではない。信頼性はあやしいが、お笑いネタにできそうだし。(マット・プライアー)

すでに値上がりしてしまったクルマ

BMW M3 CSL(E46型)(2003)

新車価格5万8500ポンド(862万円)とひじょうに高価だったM3 CSLだったが、中古車相場は一度2万5000ポンド(368万円)まで下がった。いまでは、程度のいいクルマは4万ポンド(590万円)級だ。

ポルシェ911 2.7 RS(1973)

空冷911の相場はうなぎ上りの一方だ。なかでも一番名高いこのクルマの価値は15年間で10倍にはね上がり、いまや最低60万ポンド(8843万円)の値がついている。

フォード・エスコートRSコスワース(1992-1996)

一度は1万ポンド(147万円)前後まで下がったが、そこからは搭載するターボエンジンさながらのロケット上昇に転じた。程度が極上だと7万ポンド(1031万円)という目もくらむ価格になる。

ホンダNSX(1990-2005)

フェラーリ355への回答だったこのクルマ、ほんの数年前は2万ポンド(295万円)前後とあきらかに低い評価に甘んじていたが、いまや少なくとも5万ポンド(737万円)はする。NSX-Rとなればその3倍だ。

プジョー205 GTi(1984-1994)

プジョー製ホットハッチのシンボル的存在だったこのクルマは、長いあいだ1000ポンド(15万円)もしない価格でやりとりされてきた。それがいまや、8000ポンド(118万円)ないと買えないというのだ。

これからの注目株

いまは無理でも20年後にはクラシックカーになるかしれないクルマたちをご紹介しよう。

フォード・フィエスタST(2013-2017)

7代目フィエスタSTのシャシーはこの上なく上手にしつけられている。操作力もつり合いがとれているうえ、十分にすばしっこい。偉大なホットハッチだ。

トヨタGT86(2012-)

トヨタの小型FR車GT86(とスバル版のBRZ)は、性能よりも運転にかかわる楽しさを優先して作られたが、実際それはうまく現れている。

アストン マーティンV8ヴァンテージ(2005-2017)

このV8ヴァンテージは由緒ある血統を継ぐ最後のクルマだ。電気自動車がはびこる世の中になろうとも、ガレージには自然吸気V8をおさめたい。

BMW M3(E92型)(2007-2013)

この前のE46型の相場は上がりはじめているが、E92もあとに続くだろう。珠玉のV8エンジンの神通力に衰えがくるとは思えない。

日産GT-R(2008-)

世界一になったと自称できるクルマはそうそうないが、R35型GT-Rはその数少ない1台だ。生産が終わり、相場はじわじわ下がるかもしれないがまた回復するだろう。