自然にある岩や、人工の岩をボルトで壁に固定したクライミングウォールを最低限の道具のみで登る「ボルダリング」は、手軽に始められるスポーツとして近年脚光を浴びています。このボルダリングの歴史と、ボルダリングを支える「ルートセッター」という職業を、海外メディアのOutsideが紹介しています。

How the World's Most Difficult Bouldering Problems Get Made | Outside Online

https://www.outsideonline.com/2017711/path-beta-flash-resistance-route-setters

レクリエーションとしてのロッククライミングは20世紀初頭に人気を博し、オフシーズンにもクライミングができるように人工の岩壁が作られるようになりました。初めて人工的なクライミングウォールが作られたのは、1930年代後半、レーニア山の主任山岳ガイドを務めていたClark Schurman氏が、クライミングの練習用に、シアトルに花こう岩とコンクリートを敷き詰めた25フィート(およそ7.6メートル)の壁を作ったのが最初でした。

1964年にリーズ大学のスカッシュコートに沿って建てられた世界初の屋内クライミング施設は、表面にモルタルを手ごねしてボコボコにした岩石をレンガに貼り付けたものでした。このリーズ大学のクライミング施設は非常に人気が高かったそうですが、「岩を変えることができない」という大きな欠点がありました。

そこで、ロッククライマーのFrançois Savigny氏は1985年にボルトで脱着可能なポリエステル樹脂製の岩を開発し、EntrePrisesという会社を立ち上げて販売しました。ボルトで脱着可能な岩が開発されたことで、崖の内向きの輪郭や亀裂を忠実に再現するのではなく、平らな壁面上へ無限に岩壁を配置することができるようになりました。



by Eli Christman

80年代までは、ジムで行われるロッククライミングは「山や岩場に行けない人が代わりとしてクライミングを行うもの」という扱いでした。しかし、1990年代になって、より純粋に岩に登ることに集中できる屋内でのボルダリングは人気が高まっていきました。その中で、クライミングウォールの岩をどのように配置するかを設計する「ルートセッター」という職業が成立していきました。

2000年代の初めには、クライミングウォールはボルダリングのためのものだけではなく、機能的な芸術作品のキャンバスにもなっていました。現代では、ルートセッターは色つきのテープで特定のルートをマーキングし、難易度を設定します。ボルダリングの課題は初心者のグレードであるVBから、最も難しいV16というグレードまで分類されます。

ボルダリングのルートは、登山者が課題をこなすのに十分な長さに設定しておく必要がありますが、クライマーの重力の加減や指先の操作によって難易度が絶妙に調整されます。一見すると簡単そうでも、気を抜くと下に敷かれているボルダリングマットへ真っ逆さまに落ちる羽目になります。



ボルダリングのクライミングホールド(岩)にはさまざまな形・サイズ・テクスチャが存在しています。クライミングホールドのデザイナーであるLouie Anderson氏は、毎年1000種類以上のクライミングホールドをデザインしていますが、彼のデザインするものは、自然にある岩の特徴を持ち合わせた昔のクライミングホールドとは全く異なり、カラフルかつ芸術的で、人間工学に基づいた設計が行われています。

また、ミズーリ州の登山用具会社So Illは以下の画像のような、赤ちゃんの顔をかたどった蛍光性のクライミングホールドを発売しています。



ルートセッター資格認定プログラムのインストラクターを務めるMike Helt氏は「いろいろな点で、屋外でのクライミングは窮屈で退屈です。なぜなら、屋外のクライミングには自然という限界があるからです。しかし、屋内であれば、テクノロジーと人間の想像力以外に限界はありません」と、コメントしています。

クライミングに関するニュースを扱うメディア・Climbing Buisiness Journalによると、2016年には屋内クライミング施設がアメリカ国内で365店舗存在し、そのうち29店舗は2016年内に新しくオープンしたものだとのこと。多種多様なクライミングホールドが次々と発売されていて、大きなジムでは、4万個以上のクライミングホールドをストックしているとのこと。7万ドル(約790万円)も稼ぐようなトップクラスのルートセッターは全国のジムから招かれてあちこちを飛び回るような生活をしているそうで、さらに国内外の大会に出場しているようなプロフェッショナルがほとんど。

メリーランド州とコロラド州で4つのクライミング施設を運営するChris Warner氏は「ルートセッターに適切な報酬が支払われるようになっているのはとてもよいことです」と語っています。