キルギスがアジアカップ対策というのは後づけに近い論理だろう。日本代表選手たちにとっては、日常のJリーグよりはるかに楽な試合である。90分間を通して大半がミドルゾーンでボールを回収できて、GK権田修一はセーブの機会さえ訪れなかった。ただしそれでもまだ代表馴れしていない選手たちを、スタメンでプレーさせる実験の意味がなかったわけでもない。
 
 アジアカップは当然総力戦になる。前回優勝した7年前も、フィールドプレイヤーでピッチに立たなかったのは森脇良太ひとりだけだった。ロシア・ワールドカップでも、同じメンバーでノックアウトラウンドに臨むのが難しいと見た西野朗監督が、グループリーグ最後のポーランド戦で大幅にメンバーを入れ替えた。「2チーム分の戦力が欲しい」という森保監督のコメントも偽らざるものだったはずである。
 
 森保体制がスタートして4試合をこなし、スタメンの概要は見えてきている。そこでキルギス戦に出場した選手たちは、ふたつのテーマと向き合うことになった。ひとつはスタメン奪取へのチャレンジであり、もうひとつはサバイバルだ。
 
 現状で最も悩ましいのが最前線の選択だろう。大迫勇也には、現指揮官も含めて3人の代表監督たちが揺るぎない信頼を寄せて来た。だがそれだけに大迫抜きの選択肢が、まったく用意されていない。資質的には杉本健勇が二番手候補と見られているが、ボールを収める安定感や、その後に2列目の味方を活かす展開力も含めて落差が目立つ。また痛恨だったのは、同じ役割を託せば次善策と見られる鈴木優磨や小林悠が、相次いで故障のためにテストを見送られてしまったことだ。
 
 一方で欧州にも、それなりに結果を出しているFWがいる。だが武藤嘉紀については日本代表での最適解が見つからず、ベルギーへ渡って絶好調の鎌田大地もスペースへ抜けて前を向いての仕事が多く、2列目のレギュラーと目される堂安律、南野拓実、中島翔哉らと特性が被る。今から未招集の選手のために、2トップ、ゼロトップなどの選択肢を用意するなら、それなりに実力を把握済みの鈴木や小林を控えに据え、軸となる大迫のコンディションを見極めながら使っていく公算が強い。
 
 またキルギス戦は、引いて守りを固める対戦相手へのシミュレーションとも見られたが、そこは参考外になった。力不足ながらもキルギスは、ボールを奪えば、しっかりつないで攻め上がる意思を見せた。ただしそれでも代表最初のタッチがゴールにつながった山中亮輔の左足は、対戦相手との力関係次第では有力な武器になることが再確認できたし、ボランチでコンビを組んだ三竿健斗、守田英正もサバイバルへの可能性を示した。さらに2列目の伊東純也や原口元気は、スタメン組と併用に近い形でプレーすることも可能だ。
 
 大陸王者を決めるアジアカップは、極めて優先度の高い大会だ。しかし優勝の先にあったコンフェデレーションズカップがなくなり、タイトル奪取のメリットは薄れたし、欧州のクラブ側からすれば、シーズン真っ盛りなのに代表招集には応じる義務があるため迷惑な大会でもある。裏返せば、欧州組で所属クラブのレギュラー当落線上の選手がアジアカップのために抜ければ、出場機会を失い個の成長を損なうリスクが伴う。おそらく武藤の招集に慎重なのは、そういう気遣いもあるだろうし、もし昌子源や柴崎岳などが冬に移籍を決めれば同じような忖度も必要になるかもしれない。逆に三竿や鈴木は、クラブワールドカップという貴重な最終試験の機会を勝ち取ったことが、サバイバルを後押しする可能性がある。
 
文●加部 究(スポーツライター)