今夏に行なわれたワールドカップで、もっともインパクトを放った日本代表選手は誰か?

“半端ない”ゴールを決めた大迫勇也(ブレーメン)はそのひとりだろう。ベルギー戦で先制弾を奪った原口元気(ハノーファー)も候補者に含まれる。2ゴール・1アシストと最高の結果を示した乾貴士(ベティス)だという人もいるだろう。ただ個人的には、卓越したパスワークと視野の広さを生かし、華麗にタクトをふるった柴崎岳(ヘタフェ)だと考える。


ウルグアイ戦の出来とは一転して積極性を見せていた柴崎岳

 長く遠藤保仁(ガンバ大阪)が担ってきた中盤のポジションは、その後、後継者が定まらないまましばらく時を過ごした。柏木陽介(浦和レッズ)や大島僚太(川崎フロンターレ)らが名乗りを上げたものの指定席は掴み取れず、柴崎自身も後任候補に挙げられながら、チャンスをモノにできずにいた。

 しかし、ロシアで示した柴崎のパフォーマンスはまさに司令塔と呼ぶにふさわしいもので、攻撃陣を巧みに操り、日本をベスト16に導く原動力となっていた。まだ26歳という年齢を考えれば、ウイークポイントと見られていたボランチのポジションは、4年後まで安泰かと思われた。

 ところが、輝かしい未来を切り開くかと思われたこのボランチは、ワールドカップ後に突如、奈落の底に突き落とされてしまう。所属先のヘタフェで試合に出られない苦境に陥るとは、想像もつかなかったに違いない。

 柴崎の置かれた状況は、森保一監督が就任した日本代表にも影響を及ぼすことになる。10月に行なわれたウルグアイ戦のパフォーマンスからは、ロシアで放った輝きが完全に消え失せていた。

 パスミスが目立ったのも確かだが、そもそもボールに触る機会が少なく、攻撃を司る役割を担えない。南野拓実(ザルツブルク)の2点目となるゴールの起点になったとはいえ、それ以上にマイナスな側面ばかりが目についた。攻守両面において積極的だったもうひとりのボランチ、遠藤航(シント・トロイデン)のパフォーマンスばかりが目立っていた。

 あれから1カ月、その間に所属クラブでの立ち位置に変化はなかった。リーグ戦では出番がなく、10月31日に行なわれた国王杯に途中出場したのみ。柴崎は好転のキッカケを掴めないまま、再び日本代表に合流した。

 同じ司令塔タイプのボランチ、青山敏弘(サンフレッチェ広島)が負傷離脱した影響もあったかもしれない。柴崎はベネズエラ戦でも再びスタメンとしてピッチに立っている。ところが、どこか自信なさげだったウルグアイ戦とは対照的に、この日は積極的にボールに絡む背番号7の姿があった。

 開始早々に右サイドの堂安律(フローニンゲン)にスルーパスを通し、持ち前のパスワークを示すと、その後もディフェンスラインからのクサビを引き出し、シンプルにボールをつないでいく。時折パスミスも見られたし、球際で競り負けるシーンもあった。それでもウルグアイ戦と比べれば、ずいぶん持ち直してきたように見えた。

 後半立ち上がりには、柴崎らしいプレーも見られた。ルーズボールを拾ってダイレクトで大迫につけ、そのまま右サイドを駆け上がり、再度ボールを引き出す。そこからのクロスは相手GKに弾かれシュートにつなげることができなかったが、守から攻に切り替え、プレーを止めることなく危険な位置に飛び出していった一連のプレーは、彼が持つセンスを示すものだった。

 その積極性の裏には、ある思いがあった。

「今日の試合に関しては、ああいった飛び出しを久しぶりに出せたかなと思います。チャンスメイクができたらなと思っていました」

 立ち上げからわずか3試合で、堂安、南野、中島翔哉(ポルティモネンセ)が形成する2列目トリオは、早くも森保ジャパンの象徴的な存在となっている。若く勢いのある3人は確かに日本の攻撃の核となっているが、柴崎にも世界を相手に結果を出した司令塔としての自負があるのだろう。いわば、ワールドカップ戦士としてのプライドが感じられたプレーだった。

 一方で、ミスがなかったわけではない。とりわけ前半はパスミスが目立ったし、守備の部分でもプレスをかけるものの、取り切るところまではいけない。その意味で物足りなさがあったのも事実だ。

 ただし、そこには観る側の偏見があるようにも思う。クラブで試合に出られていない柴崎に対する懐疑的なイメージだ。

 都合のいい言葉を使えば、「試合勘の欠如」というフレーズだ。ちょっとミスをすれば、「試合勘が足りないからだ」と短絡的にそこに結びつける。過去にも所属クラブで出番を失いながら代表に選出されていた香川真司(ドルトムント)や本田圭佑(メルボルン・ビクトリー)らも、同様の指摘を受けていた。

 では、試合勘とは何か――。日常のトレーニングでは体感できない、感覚的な部分を指すだろう。

 体力、スピード、球際の強さ、プレー強度、あるいはメンタル面……。真剣勝負のテンションでなければ培えないもの、と定義づけられるかもしれない。おそらく、その感覚は人それぞれであり、当人しかわかり得ないものだろう。そしてそれは、他人には知られたくない弱みでもあるはずだ。そう理解しながら、柴崎に聞いてみた。

「今日の試合で試合勘の影響を感じることはあったか?」

 我ながら、嫌な質問だと思った。しかし、生真面目なボランチは顔色ひとつ変えずに、持論を述べた。

「試合勘という表現は難しいですけど……」。そう前置きしたうえで、柴崎は続ける。

「僕自身、集中力を持って、今の自分にできることを最大限やろうとしている。そうやって取り組んでいることが、今の自分のマックスかなと思います。修正していかなければいけないこと、よかったことを伸ばしていくこと。今日の試合で感じたことは、続けてやらなければいけないことだと思っています」

 試合に出られない状況は、プロのサッカー選手として耐え難いものであるはずだ。しかし、置かれた状況を理解したうえで、そのなかでできることを全力でやり切るしかない。試合勘を培えないなら、他のもので補えばいい。つまり、試合勘の欠如など、言い訳に過ぎないのだ。

 野暮なことは聞くなよ――。

 クールな司令塔のまっすぐな瞳は、そう言っているように見えた。