今年最後となる、なでしこジャパンの国際親善試合が11月11日に行なわれ、ヨーロッパの強豪ノルウェーを4-1で下し、白星で最後の試合を締めくくった。


ノルウェー戦でボランチとして、存在感を示した三浦成美

 育成時代から高倉麻子監督と二人三脚で指導に取り組んできた大部由美コーチの地元・鳥取県で初めてなでしこジャパンの国際試合が開催されるとあって、6000人を超える観客が集まった。

 16分のFKを、大きく空いた壁の右側を抜いて横山久美(AC長野)が先制弾を叩き込むと、27分には長谷川唯(日テレ・ベレーザ)の縦パスを受けた岩渕真奈(INAC神戸)がDFをかわしてゴール。55分にも岩渕が加点すると63分には代わった籾木結花(日テレ・ベレーザ)がダメ押しのゴールを決めた。81分には「いらない失点だった」と熊谷紗希(オリンピック・リヨン)が悔やむセットプレイからの失点もあったが、見どころのある内容で快勝した。

 この日、最も目を引いたのはボランチを任された三浦成美(日テレ・ベレーザ)だった。三浦は、なでしこジャパンの心臓部でもある阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)と同じチームに所属しているが、阪口の長期離脱によって、チームでは4-1-4-1システムのアンカーを担った。

 その経験がなでしこジャパンで開花し始めたのは、8月のアジア大会直前のアメリカ遠征だった。156cmと小柄ながら、判断スピードと確かな技術で、相手と真っ向勝負になる前にボールを散らしていく姿が印象的だった。登録の関係でアジア大会の招集は叶わなかったが、その分、彼女のモチベーションが上がったようだ。

 三浦と組んだのは、鳥取に入ってからの練習でも組んでいなかった宇津木瑠美(シアトル・レインFC)。互いに低い位置で状況を見極めるタイプの2人だが、立ち位置を意識しながら三浦は前線の高い位置で岩渕とのワンツーパスからフィニッシュを伺うなど、攻撃にも参加。次のシーンには、宇津木がサイドからのパスをペナルティ付近で得ようと走り込むなど、これまで以上に攻撃的なプレイが見られた。

「自分が一番ボールを触ってさばいてリズムを作ろうと思っていましたが、単純なパスミスも多かった……。でも、るーさん(宇津木)とお互いにパス交換できた場面もあったのでよかったです」とは三浦。後半には、新戦力でU-20世代の主軸である長野風花(韓国・仁川現代製鉄)と組み、長谷川がトップ下に回ったことで、馴染み深い4-1-4-1に似た環境下で大いにボールに絡みまくった。

 一方で課題もあった。ノルウェーの攻撃の核であるキャロライン・グラハム・ハンセン(10番)への対応だ。飛び込んでかわされて逆を取られたらやっかいなことになる。選手たちが選んだのは”あえてボールを持たせる”ことだった。そこから二手先で奪えればという算段ではあったが、その前のボールの奪われ方がマズく、想像以上にいい形でハンセンにボールを持たれてしまっていた。

「2つ目の(プレイの)足が思った以上に速くて、逆に後手になってしまうところがあった。慣れてなかったのもありますけど、そこはもう少しうまく競り合えたら(抑えることは)できたと思う」(三浦)。

 実際に、ゲーム中はそれを試みていた三浦。正直、ノルウェーは球際も含めて戦いやすい相手だっただけに、この程度のレベルで向上の猶予がなくてはなでしこの中盤は務まらない。その点も三浦はすでに実感していた。

「もちろんスピードに関して強化はしていきたい。でも判断スピードも含めてほかにも工夫する余地はあると思います」と心強い言葉を残した。

 そんな三浦が「うまい」とその力を認めるのが長野だ。後半は「ひとつ飛ばしてボールをつなげる」という監督の指示が功を奏してサイド攻撃がハマっていたため、始めはフリーでありながらボールはまったくと言っていいほど長野に出てこなかった。ボールに触れなければ、彼女のよさは出てこない。それでも長野はいつでもカバーリングに入れるように、いつでも攻撃を担えるようにと、フリーランを止めることはなかった。

 ラスト10分に差し掛かり、ようやく長野にボールが入るようになると、相手を背負いながらでも韓国で鍛えた対応力でボールをキープ。セットプレイでもニアサイドからゴールを狙うなど、随所でそのポテンシャルの高さを披露した。ただ、練習では三浦とともに長谷川の自由な動きにも柔軟に対応し、フレキシブルな動きを見せていただけに、さらなる高いレベルのプレイを期待してしまう。なでしこジャパンの中盤のレベルは世界でもトップクラスと言っていいだろう。

「U-17、U-20とワールドカップを獲って、あとはなでしこジャパンで獲るだけ」と、FIFA U-20女子ワールドカップMVPの長野の目標はブレない。その言葉通り、長野がポジション争いに入ってくることは間違いないだろう。

 2018年のなでしこジャパンを文字で表すなら『耐』。3月のアルガルベカップの初戦でオランダに6失点し、危機感満載でスタートした1年だった。今思えば、この敗戦からこのチームは変わった。指揮官の意向と目まぐるしく入れ替わる新戦力を一歩引いた目線で静観していたベテラン組が動いたのだ。とにかく話し合った。映像も何度も見返した。ポジションごとの話し合いは最大限の最優先。その結果、簡単に失点を許していた守備にも”忍耐力”がついた。

 高倉ジャパンのカラーはその多彩な攻撃力。しかし、形は作れても肝心のゴールはなかなか生まれず、多彩な攻撃陣がウリのチームでありながら常に”決定力不足”が課題に上がっていた。相手の攻撃を耐えながら、じっくりとゴールが生まれる一瞬を探る。決して楽な戦い方ではないが、現状における最良の戦い方で4月のAFC女子アジアカップを制した。

 8月のアジア大会では、熊谷、宇津木、川澄奈穂美(シアトル・レインFC)ら海外組不在に加え、直前で得点源の一人である横山が離脱という苦しい選手事情のなか、多くの選手が本来の持ち場以外のポジションにトライし、苦境を耐え凌いだ末に今シーズン2つ目となるアジアタイトルを獲得した。

 この1年苦しみ抜いた末に得たあらゆるものが、このノルウェー戦のそこかしこに散りばめられていた。守備の連動の向上は複数枚のカバーリングに表れた。市瀬菜々(ベガルタ仙台L)のアクシデントによる交代時には、この1年挑戦しつづけていたCBに鮫島彩(INAC神戸)が違和感なくスライドして対応してみせた。

 攻撃では、代わって入った選手に応じて的確なポジショニングを全員が取れるようになった。得点には至らなかったが、中島依美(INAC神戸)が縦横無尽に走りまわってシュートを放ったり、後半にはCBの熊谷がコンビネーションプレイからシュートに持ち込むなど、流動的な攻撃が最後まで繰り広げられた。

 ここ最近は、あまりの課題の多さに、勝利の後でも厳しい表情を崩すことがなかった高倉監督。翌日にはガイナーレ鳥取U-18との練習試合で招集したすべての選手を起用して最後の活動を打ち上げた。

「ようやく選手の幅が広がってきた。選手も感覚を掴みかけている。人を変えることで化学変化が起きているということは、私自身がやりたいと思っていたことが表現できてきていると感じています」――。

 この試合、この1年を、さらに言えば高倉監督が就任してからの年月を物語る言葉に、結果も内容も伴わない時期も長かった指揮官の苦悩を感じずにはいられない。これでいいのか、これで合っているのか……道を探る作業はこれからも変わらないだろう。苦しみながらタイトルを掴む戦いは選手たちを確実に成長させた。

 ノルウェーのパフォーマンスを度外視した上ではあるが、それでもこれだけ選手が代わっても、攻撃力を落とすことなくカラーを変えていく順応性は今までになく高かった。当然のことながら世界を制すには、まだまだ力及ばない現状だが、選手達が迷いながらも懸命に走り続けてきた道は間違ってはいなかったと、自信を持って言える90分間だったのではないだろうか。