お店での会計後「ありがとうございます」と言うべき?

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 飲食店やコンビニエンスストアでの会計後、店員に「ありがとうございます」と言うべきか――。このような投稿を巡って先日、SNS上で議論が起きました。お礼を言う派が「必ず言います」「最低限のマナー」と主張する一方、言わない派からは「必要ある?」「恥ずかしい」などの声も。また「言うのが恥ずかしい気持ちも分かる」「常識というより礼儀」といったコメントも見受けられます。

 マナーのプロの見解とは、どのようなものでしょうか。「マナーは互いをプラスにするもの」をモットーに、国内外の企業や大学などで人財育成教育やマナーコンサルティングを行うほか、NHK大河ドラマなどのドラマや映画でマナー指導を行い、国内外で80冊以上のマナー本を出版しているマナーコンサルタント・西出ひろ子さんに聞きました。

相手の立場で考えることが大切

Q.会計後に客が店員にお礼を言うことについて、どのように思われますか。

西出さん「とても良いことだと思います。マナーの大前提は、相手の立場に立って考えること。『もし自分がレジを担当する店員だったら』と考えてみましょう。レジに立つ店員は、代金を受け取っておつりを渡す『会計』が仕事であり、それを行うのが責務です。

その仕事について、お客さんから『ありがとう』とお礼の言葉を掛けられたらどう感じるでしょうか。個人差はあるかもしれませんが、恐らくうれしいと感じる人が多いでしょうし、少なくとも嫌な気持ちにはならないはずです。

英国で生活していた頃、街のさまざまな店ではいつも、老若男女問わず『サンキュー』が交わされていました。店員と客というそれぞれの立場の違いは関係なく、『お互いを人として認め合っている』ことが、自然に感謝の気持ちを伝え合う彼らのコミュニケーションから垣間見えました。

お互いが『ありがとう』を交わせる社会は素敵なもの。何かをしていただいてお礼を言うことは、日本でも普通のことではないでしょうか」

Q.マナー的観点からみて、会計後にお礼を言うべきでしょうか。

西出さん「マナーは決まりごとではなく、相手を思う気持ちを表すもの。お礼を言うか言わないかは自由であり、自分の気持ち次第です。ただし、お客さんから『ありがとう』と言われて不快に思う店員さんは少ないのではないでしょうか。『ありがとう』の一言が、相手にとってプラスの印象をもたらすのであれば、その言葉を気持ちとともに積極的に伝えるのはよいことだと思います。

一方で、『ありがとう』と声に出して言うのを恥ずかしく思う人も少なくないと思います。その場合は、軽く会釈するだけで印象が大きく変わるものです。『(お会計をしてくれて)ありがとう』の気持ちは、さりげない振る舞いに込めて伝えることもできます。こうした行動や所作の一つ一つが、相手の気持ちや印象をよいものにさせることでしょう。

一方、お会計をする店員さんやお客さんの中には『レジでお礼を言われてもうれしくない』と思う人もいるかもしれません。しかし、それは自分目線のことであり、一般的に『お礼を言われたらどう感じるか』と相手目線で考え、イメージしてみる意識を持つことが何より大切だと思います。相手の立場に立ち、よい振る舞いを心がけたいものです」

Q.その他、店での振る舞いや店員への言葉遣いについて、意識すべきことや気をつけるべきポイントはありますか。

西出さん「店員と客という立場の違いはあれど、人対人のやり取りですから、互いに相手を不快にさせない意識を持ったコミュニケーションが求められます。表情や声のトーン、言い方などに注意し、偉そうな態度や乱暴な言葉遣いは避けましょう。

まれに、店員さんに対して『タメ口』で声を掛けているお客さんを見かけることがありますが、親しい間柄でない限り、タメ口は相手を不快にさせる上、トラブルの原因にもつながりかねません。

店という空間に態度の悪い人が一人でもいると、空間全体の空気も悪くなってしまいかねませんし、空間を共にする周囲の人も不快な思いをしてしまいます。立場の違いに捕われない思いやりを一人一人が持つことが、気持ちのよい社会につながっていくのではないでしょうか」