シチズン時計が2016年から展開している「エコ・ドライブ Bluetooth」シリーズ。アナログ時計とスマートフォンとの連動機能を合わせ持った「ハイブリッドスマートウォッチ」だ(撮影:風間仁一郎)

10月上旬、腕時計世界大手のシチズン時計はアメリカの時計大手フォッシルグループと、スマートウォッチの分野で技術提携を行うと発表した。シチズンの戸倉敏夫社長は提携発表時に「スマートウォッチ市場のリーダーとなることを目指す」とコメントした。

今回の提携でシチズンが注力するのは、「ハイブリッドスマートウォッチ」という分野だ。外見はアナログ腕時計だが、Bluetooth(ブルートゥース)による通信でスマートフォンなどと連携できるというもの。すでにシチズンが発売したモデルには、電話やメールの着信を針の動きによって伝える機能などが搭載されている。

アナログ腕時計のムーブメント(駆動機構)においてシチズンは世界トップクラスの生産規模を誇り、世界最薄腕時計を生み出すなど技術力でも高い実績がある。アナログ腕時計を基盤としたハイブリッドスマートウォッチはこれまでの同社の強みを生かせるとの狙いもある。

止まらないアップルウォッチの成長

しかし、このフォッシルとの提携発表やハイブリッドスマートウォッチの存在を、伝統的な時計メーカーの”悪あがき”とする冷ややかな見方も出ている。ある国内証券のアナリストは「スマートウォッチを展開していったとしても、シチズンのような既存の腕時計業界が縮小するスピードは減速しないだろう」と指摘する。この発言の念頭にあるのが、米アップルが手掛ける「アップルウォッチ」のような”腕時計の形をしたウエアラブル端末”だ。


米アップルが展開する腕時計型ウェアラブル端末「アップルウォッチ」。盤石なiPhoneのユーザー基盤を強みに、ヒットを飛ばしている(写真:Apple)

2015年に初代が発売されたアップルウォッチは、昨年世界で1800万台が出荷され(調査会社カナリス調べ)、1つのモデルとして「世界で最も売れた”腕時計”」(時計業界関係者)ともいえる。米オンライン調査会社のスタティスタは、2017年10〜12月期のアップルウォッチの出荷台数がスイス製腕時計の台数を上回ったと指摘している。

そもそも腕時計は携帯電話やスマホの登場により、移動先で時間を知る手段としての絶対的地位を失った。実際、市場規模は縮小の一途をたどっている。さらに腕時計型ウエアラブル端末が成長し、時間を知る以外の利便性が認知されてきたため、機能面でも従来の腕時計は見劣りするようになった。

2016年からシチズンの傘下にあるスイスの高級腕時計メーカー、フレデリックコンスタントのピーター・スターツCEOは個人ブログで、「スイスの腕時計業界はアップルウォッチとその他のスマートウォッチが、どれだけクオーツ時計のシェアに食い込んでいるかをまだ理解していないと感じる」と指摘。業界内でもスマートウォッチの成長と脅威に対する認識が十分でないとの危機感を示した。

シチズンがフォッシルとハイブリッドスマートウォッチのような中途半端な領域で手を組んでも、アップルウォッチのようなウエアラブル端末に対抗することはできない。そのような見方が提携を”悪あがき”とする根拠となっている。

世界初のBluetooth腕時計はシチズン製

シチズンの戸倉社長はそんな冷ややかな見方に対し、「もともとアップルウォッチに勝てないことは理解しているし、今回の提携は(アップルなどと)同じ土俵に上がって戦うことを意味しているわけではない」と話す。それはすでに経験上わかっていたことだった。


日本IBMと2001年に開発したブルートゥース搭載の試作機「WatchPad 1.5」(撮影:風間仁一郎)

実はシチズンには、元祖スマートウォッチともいえる腕時計を開発した歴史がある。同社が最初に手掛けたのは2001年に日本IBMと共同開発した試作機「WatchPad 1.5」だ。腕時計型コンピュータとして作られ、指紋センサーや加速度センサー、音声通信にも対応したブルートゥースなどが搭載された。腕を振ると、画面内のキャラクターが手を振るといった機能が盛り込まれていた。


シチズンが2006年に発売した世界初のブルートゥース搭載端末「i:VIRT(アイバート)」(撮影:風間仁一郎)

2006年には腕時計として世界初となるブルートゥース通信を可能とした「i:VIRT(アイバート)」を発売。携帯電話と通信を行い、着信を知らせる機能を持たせた。セイコーウォッチやカシオ計算機など同業他社も、計算機能や血圧測定機能など多種多様なスマートウォッチの前身となるものを開発したが、携帯電話と通信を行って「つながる」という点で、シチズンは現在主流のウエアラブル端末により近い製品を展開していた。

アイバートは進化を続け、2008年にはソフトバンクやシャープと「i:VIRT M」を共同開発。搭載された液晶パネルにはメールやニュースを表示する機能を搭載。時計でメールを読める機能は世界初だった。当時開発に携わった木原啓之上席執行役員は、「コネクテッドの機能が時計の可能性を広げたとして注目を集めた」と振り返る。

しかし、人気は広がらなかった。最大の原因は対応する携帯電話の機種が限定されていたためだ。「一つ一つの携帯電話の機種に通信規格が合うか手間をかけてチェックしながら開発していったため、当時のすべての携帯電話に合わせることは難しかった。時計のハードウエアを作る技術はあるが、デジタル分野で重要なソフトウエアの技術は弱かった」(木原氏)。

ソフトウエアに強みがないシチズンには、OS(基本ソフト)を搭載し、多彩なアプリケーションを使うことのできるアップルウォッチと同じ土俵で戦えないことを痛感させられたのだった。

ハードの強みを生かせる戦略で勝負

こうした経験を経たシチズンは、「技術と美の融合」という同社の理念に立ち返った。液晶パネルを採用するなどデジタル路線だったスマートウォッチのデザインを、アナログ時計の路線へと戻したのだ。


これまでシチズンが開発してきたスマートウォッチの製品群。行き着いたのはアナログ時計のデザインだった(撮影:風間仁一郎)

アップルウォッチ発売から1年後の2016年、シチズンは「エコ・ドライブ Bluetooth」シリーズを発売した。エコ・ドライブは光発電によって電池の交換を不要としたシチズンが強みとする技術である。

メールの閲覧など、液晶パネルでないとできない機能を廃し、スマホの着信を伝える機能など最低限の機能に特化した上で、アナログ腕時計と同じように扱えるようにした。ウエアラブル端末という位置づけではなく、”つながる機能付き腕時計”として打ち出した。

「毎日充電が必要でスマホを補完するようなウエアラブル端末ではなく、スマホと共存していく腕時計を目指している」。開発担当の木原氏は、メーカーとしての開発姿勢が当初のスマートウォッチから変わってきたのだと明かす。あくまで「腕時計会社として美しい腕時計を追究していく」(同)という。

「腕時計がもはや必需品でないことは分かっていたこと」と戸倉社長は話す。「ソフトウエアで勝つのは難しい。ならば1〜2年で買い換えるウエアラブル端末ではなく、いかに人生の嗜好品として長く使用でき、愛される腕時計を作れるかで勝負していきたい」。


シチズンの戸倉社長は「時計は必需品ではなく嗜好品」という考えの下、戦略を描いている(撮影:風間仁一郎)

一方で「美しい腕時計」だけを目指すのであれば、スマートウォッチである必要はないのかもしれない。戸倉氏は、「多様な消費者に受け入れられるためには、スマートウォッチのような求められる技術は取り入れる必要がある」という。細分化されてきた消費者の好みに合わせたアプリを提供することで、腕時計を買ってもらいやすくなるとの考えだ。

フォッシルと新たな可能性を生み出せるか

今回シチズンと提携するフォッシルグループは、スマートウォッチの開発に必要なアプリケーション開発に実績がある。心拍数やアクティビティ(運動)の記録、カレンダーに入力した予定のリマインドといった機能だ。


今年創業100周年を迎えたシチズンは、ハイブリッドスマートウォッチで市場縮小の波に抗えるのか(撮影:風間仁一郎)

より多彩な腕時計を展開するためにも、シチズンにとってフォッシルの技術は必要不可欠だ。木原氏は、「すでに実用化されているヘルスデータの測定や位置情報サービスだけでなく、腕時計にどのような機能を搭載していけるか可能性を探っていきたい」と提携に期待を込める。

スマートウォッチで一度挫折したシチズンが、腕時計メーカーとしてのアイデンティティを堅持しつつ、デジタル時代を生き残れるのか。今年創業100周年を迎えた老舗メーカーとしての底力が問われている。