大都市中心に住宅価格が高騰する中、ホームレス問題は深刻さが深刻さを増している(写真:Eduardo Munoz/ロイター)

アメリカでは昨年、ホームレスが7年ぶりに増加した。理由の一端は、住宅価格が急騰したことにある。中でも深刻なのが西海岸だ。年収10万ドル以上を稼ぐハイテク企業の従業員が、ホームレスのいるテント村を迂回して通勤する事態となっており、自治体に対応を求める声が強まっている。

不安定な所得、DV(家庭内暴力)、薬物中毒、精神の病など、ホームレスとなる理由はさまざまだ。最近の推計によれば、アメリカでは55万人超がホームレスを経験。別の調査によるとホームレスの4人に1人は無職ではない。

全米のホームレスの25%がカリフォルニアに

ホームレスの割合が特に高いのは、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ハワイ州、ワシントンDC。ホームレス比率の高い上位10州のうち8州が、全米でも最も住宅費の高い地域となっている。

カリフォルニア州の人口は全米の12%に相当するが、ホームレスに限れば25%に上る。このため、ホームレス問題は同州で最優先の政治課題になっている。

ロサンゼルス市では昨年、住宅供給などホームレス支援を拡充するため、増税案が可決された。サンフランシスコ市では顧客情報管理大手セールスフォースのベニオフ会長兼共同CEOが、ホームレス支援策の財源とするため法人売上高への課税を提案している。

財源を増やす必要は確かにある。ただ、支援策を効果的なものとするには、政策担当者がホームレスの状況を正確に把握していなければならない。DVから逃れた子連れの母親と、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ退役軍人とでは、必要な支援が異なる。

もちろん、ホームレスとなるのを事前に阻止できるのであれば、政策の費用対効果も高く、理想的だ。しかし、そのためには住宅費も含めて、最低限の生活費をカバーするのに十分な収入を人々が得られるようにしていく必要がある。

全米3007郡のうち、連邦最低賃金の時給7.25ドルで働いてワンルームの家賃が賄える場所は12郡にしかない。住宅価格の中央値が150万ドルというサンフランシスコの場合、最低賃金で働くシングルマザーが生きていくには週に120時間働かなければならない計算だ。

アメリカでは3分の2近くの世帯が500ドルの突発的支出に備えた貯金すら持っておらず、ちょっとした不運が起きただけでホームレスとなりかねない。国民が路上に放り出されるのを防ぐセーフティネットも、複雑な手続きのせいで、利用を事実上阻まれるケースがかなりの割合に上る。

「住宅ファースト」で先行するユタ

対策の効果を上げるには、一時宿泊施設や食事の提供といった緊急措置だけでなく、長期的な施策も必要となる。このため、カリフォルニア州サンタクララ郡は、ホームレスに住宅や医療の提供を開始。ロサンゼルス郡は、元受刑者に職業訓練を施す専門組織を立ち上げた。住居の確保を最優先する「住宅ファースト」の政策で先行するのがユタ州だ。

住宅ファーストが理にかなっているのは直感的にもわかる。そもそも人々がホームレスになるのは家が足りないからだ。しかし、カリフォルニア州では、人口増に対処するだけでも年間18万戸の住宅を新たに造り続ける必要がある。今より10万戸以上も住宅供給を増やさなければならないということだ。しかもサンフランシスコではこの7年で雇用が8倍に増え、「手頃なアパート」の建築費は42.5万ドルにハネ上がっている。

住宅供給の拡大は対策の第一歩として不可欠だ。しかし、人々がホームレスとなる要因は複雑であり、さらに多くの手を打つ必要があることも忘れてはならない。