弁護士・柳原桑子先生が、堅実女子の悩みに答える連載です。今回の相談者は嶋本花音さん(38才・IT関連会社勤務)です。

「結婚10年、5年に渡る不妊治療を経て、やっと妊娠しました。夫が地方出身の長男なので、“絶対に跡取りは欲しい”という希望があり、苦しい治療を乗り越えました。夫からの不妊治療のための金銭的な援助はなく、妊娠するまでに、有休と貯金を使い果たしています。

今やっと、安定期に入ったので会社に妊娠を報告しました。すると、45歳独身の女性上司に、”え!?こんなに忙しいのに無責任じゃない?困るんだけど。無責任だよね”と言われて、その日は無視されました。

そして、翌日から私の適正に合わない部署に異動させられました。

ウチの会社は男性が9割で、エンジニアがほとんどです。かわいい子はモテていますが、私はどちらかというと男っぽく、飲み会もあまり参加しないので、会社から大切にされていないことはわかっています。

異動先の今の部署の女性上司からも「いつ辞めるの?」と、前から決まっていることのようにに言われました。この上司は会社の創業メンバーである執行役員(48歳)で、結婚しないで仕事に命をかけている方です。

仕事を続けたいと言うと、“あれだけ会社を休んでみんなに迷惑をかけたのに、まだそれが続くの?”と言われました。私は自分の仕事をきちんとやっていたのに、ひどい言われ方をされました。ウチの会社には一応、産休と育休制度はあるのですが、取得した人はいません。

妊娠=解雇は違法ですよね。このまま辞めさせられてしまいそうで、不安な毎日です。“こんなことなら妊娠しなければよかった”と思うこともあります。仕事そのものは大好きで、やりがいを感じていますし、私は産後復帰して働きたいと思っています。そもそもこの場合は、どこに相談に行ったらいいのか、私はどのようなことに注意すればいいのか、どんな法律で守られているのかが知りたいです。どうぞよろしくお願いします」

柳原桑子先生のアンサーは……!?

まず、あなたが気を付けることは、上司や周囲の人の雰囲気にのまれてしまい、感情的になったり、自分を責めたりして退職を承諾してしまうことです。これは避けてください。

男女雇用機会均等法という法律があり、妊娠・出産を理由に女性の労働者に対し解雇や退職の強要、降格など、そのほかの不利益な取り扱いをすることは禁止されています。

会社側は、労働者間でのマタニティーハラスメントを認識した場合、解決し、その措置を講じる必要があります。社内に相談窓口があればよいのですが,そういった相談窓口がない場合、社内では解決できない可能性があります。

その場合はあなたが住んでいる都道府県の労働局や、労働基準監督署などに設置されている労働相談窓口に行って、相談してみてください。そのときに、あなたが受けたハラスメントの概要と、今後どうしたいかという希望をまとめていくと話はスムーズです。いつ、どのように言われたかを、メモでもいいので、まとめおくといいでしょう。できれば、録音などもしていった方がベターです。

法的措置をとる必要が出てきた場合には,弁護士にも相談することになります。

今後、あなたが今の会社で働く気持ちがあるのなら、退職を承諾するような言動をしないでください。「出産した後も働き続ける」という意思を明確にし、なるべく冷静になり、外部への相談のためにも,会社の言い分も聞き取ってください。感情的にならず、できるだけ正確に理解するよう努めた上で、労働相談を受けるといいですよ。

子供を産んでから、保育園に入れない問題が待ち受けていると思うと、さらに気持ちが滅入るという。



■賢人のまとめ
自分の希望する将来のために、冷静に行動をしてください。感情的になって自分から辞めてしまうことだけは、絶対に避けましょう。

■プロフィール

法律の賢人 柳原桑子

第二東京弁護士会所属 柳原法律事務所代表。弁護士。

東京都生まれ、明治大学法学部卒業。「思い切って相談してよかった」とトラブルに悩む人の多くから信頼を得ている。離婚問題、相続問題などを手がける。『スッキリ解決 後悔しない 離婚手続がよくわかる本』(池田書店)など著書多数。

柳原法律事務所http://www.yanagihara-law.com/