2019年9月に閉鎖される伊勢丹府中店。1996年の開業初年度に売り上げがピークに達したが、それ以降は右肩下がりだった(撮影:尾形文繁)

百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングスは11月7日、今2019年3月期上期(2018年4月〜9月)の業績を発表した。売上高は5639億円(前年同期比4.3%減)、営業利益は108億円(同41.5%増)と、大幅増益だった。赤字のアパレル子会社を今年3月に事業終了するなど複数のリストラ策を断行したことが、利益を押し上げた。

地方店の不振が深刻に

ここ数年、構造改革を断行してきた同社は、不振の伊勢丹相模原店(2019年9月閉鎖)、伊勢丹府中店(同9月閉鎖)、新潟三越(2020年3月閉鎖)といった3店舗を店じまいすることを今年9月に公表している。

同日行われた決算説明会で、今後のリストラについて問われた三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦社長は、「大規模店舗の閉鎖はもうない。これは断言する」と、語気を強めた。

今上期は、首都圏に構える伊勢丹新宿本店と三越銀座店が好調だった。三越日本橋店を含めた基幹3店の4〜9月の累計売上高は、前年同期比3%増。例年1回の夏のクリアランスセールを2回に分けて開催したことが、集客につながった。加えて、旺盛な訪日客需要も追い風となった。

一方、首都圏の郊外店や地方店は軒並み苦戦した。閉鎖が決定している伊勢丹相模原店は、同3.3%減。同じく伊勢丹府中店も同5.5%減だった。

地方店にいたっては、事態がもっと深刻だ。広島三越が同8.4%減、松山三越が同5.5%減と大きく売り上げを落とした。三越伊勢丹ホールディングスは地方店を地域ごとに分社化して運営しているが、名古屋三越(同4.6%増)を除く9社の売り上げが前年割れという散々な結果だった。



長年赤字が続く広島三越は上期の営業損失が2.6億円、同じく不採算の松山三越も同3.5億円と、前年同期よりも赤字が拡大している。

立て直しが急務だが、杉江社長は「松山や広島はポテンシャルがあるので、閉めずに再投資して再建する」と話す。松山三越ではイートインやレストランなどのテナント誘致も視野に入れているようだ。「(テナントに店舗を賃借して賃料を得るビジネスモデルの)定借化はこれまであまり手掛けてこなかったが、これからは定借化も検討していきたい」(同)という。

また、北海道札幌市には丸井今井札幌本店と札幌三越、福岡県福岡市には福岡三越と岩田屋本店といった「2つののれん」が並存している。これらの今後の対応について、杉江社長は「街の特性などを踏まえ、どうしていくかをこれから考えていく。それぞれの店に愛着のある顧客が多いので、のれんを廃止することはない」と語る。

前言撤回したケースも

「大規模店の閉鎖はいったん終了」と何度も強調する杉江社長だが、これを言葉通り受け止める関係者は多くない。


地方店は需要の先細りが懸念される。写真は札幌三越(撮影:梅谷秀司)

これまでも「店舗閉鎖は当面ない」、「構造改革の主なものは2017年度の段階で終えた」と公言してきたが、その後に伊勢丹相模原店などの3店舗閉鎖を決めたことは記憶に新しい。決算説明会でこの点を指摘された杉江社長は、「(働いている社員への影響が大きいので)店舗閉鎖はないと言っていたが、2017年4月からずっと検討してきた」と明かす。

家賃を下げる交渉やショッピングセンターとして展開した場合にテナントが埋まるかどうかなどを検討した結果、「今後10年存続させると相当な赤字が垂れ流しになる」(杉江社長)と、採算性を考慮したうえで撤退を決断したという。

となると、現在低迷するほかの地方店も状況次第では、また「前言撤回」となることも考えられる。ある業界関係者は、「基幹3店や名古屋三越など堅調な地方店を除いて、苦戦店舗が軒並み閉鎖される可能性もある」と指摘する。

デジタル化の具体策とは

地方店再建という難題が残る三越伊勢丹ホールディングスだが、もう1つの課題であったデジタル化については今回、具体的な施策を明らかにした。


三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦社長は「大規模店舗の閉鎖はもうない」と強調する(記者撮影)

2019年2月にはスマートフォン向けのアプリをリリースし、店舗情報の発信を強化する。同時に、基幹店の商品情報や在庫情報を全店で共有し、基幹店のすべての商品が地方店でも購入できる仕組みを構築。スムーズに展開するために、伊勢丹新宿本店で“ささげ”(撮影などECで販売する商品の情報制作)スタジオを2019年4月に稼働する。

全店で販売員がタブレットを持って接客するシステムも導入する。こうした情報武装や商品情報の共有化が、地方店の底上げにつながる可能性もある。

この先、百貨店の地方店は少子高齢化によるさらなる需要先細りが懸念される。ある地方の百貨店関係者は「衣料品販売が落ち込む中で、2019年には消費増税が実施される可能性もある。地方は大変厳しい」と嘆く。業界最大手の取り組みは功を奏するか。